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ド田舎出身の刀術師 ~剣の道を歩む者~  作者: 甘野 三景
第二章 新たなる居場所
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隣国からの留学生


「さて、まずはどうして冒険者育成科なんてものが設立されたのか、っていうことから話すわね?」


 アルカの言葉にクラスの皆は無言でうなずく。

 それを確認したアルカは話を続ける。


「この科の設立には、実は国王様が関わっているわ。

 理由までは知らされていないけど、これは事実よ。

 ここにいるメンバーは、試験の結果などから国王様に認められた人間だけが集められているの。

 この科の発表が事前に無かったのも、国王様の判断で設立が決まっていて、なおかつ国王様の認めた人間しか所属の資格を持つことができないからなのよ。

 だって、試験すらないのに発表したところで混乱させるだけでしょ?

 と言っても、アナタたちの親には連絡してあるけど。

 私が遅れて講堂に来たのも、アナタたちの親からの返事を確認してたのが理由ね。

 あ、いや、遅れたのは私が悪いんだけどさ。 ……って、そんなことはどうでもいいのよ」


 アルカは少し照れたのか、頬を赤く染めて咳ばらいをする。


 またしてもとんでもない重要人物が関わってるな……話からして、俺がこのクラスに入れられたのは、たぶん国王様からの指示だろう。

 というか、それ以外に考えつかない。


「さて、次は冒険者育成科が何をする分野のクラスか、ってことについて話すわね?」


 アルカの言葉に皆は無言で頷く。


「これはその名が示す通り、冒険者を育成するためのクラスなの。

 ただ、冒険者っていうのは色々なことをするでしょ?

 それこそ、一般的に知られている範囲で言えば、何でも屋って思われるくらいに。

 でもね。 本来、冒険者って言うのは国を守る騎士たちの代わりに各地へ赴いて調査したり、魔物の被害があれば、これを討伐。

 怪我をした人たちがいるのであれば、それを治療したりするの冒険者って職種なの。

 皆は知ってたかしら?」


 アルカは教室を見渡し、俺たちの反応を見る。

 クラスメイトの方を見てみれば、当然知っているという反応を見せるやつもいたり、知らなかったという風に目を見開いているやつもいた。

 俺は当然知っているやつらに含まれる。

 だって冒険者ですもの。


 今でこそ冒険者として生きてきて三年経ってるから知っているが、冒険者を始めた当初は知らなくて、アルカに聞かされて知ったんだ。

 あの頃は驚いたもんだ。

 俺も、てっきり冒険者ってのはアルカが言ったような何でも屋、便利屋の類だと思ってたからな。


「やっぱり、知らない子も居たみたいね。 まあ当然かも。

 今ではさっき言ったみたいに、何でも屋って感じで多種多様な依頼を受けてたりするもの。

 高位ランクの冒険者になると話は変わってくるけどね」


 アルカは少し息を吐き、改めて俺たちの顔を見てくる。

 俺たちが今何を考え、何を思っているのかを確認するように。

 じっくりと観察している、といった真剣な眼差しを向けている。


「ここまでの話でわかった子がいるかはわからないけれど、私が受け持つことになったこのクラスは、本来の冒険者の仕事を学生のうちから経験させてみようっていうコンセプトで作られたクラスなの。

 もちろん、それだけしかしないわけじゃないわ。

 魔術の授業も、魔道具に関する授業も、全部含めて学習するクラス。 それが冒険者育成科よ。

 とは言っても、このクラスはその性質上、あらゆる土地へ『実習』という名目で学外での実技授業があるわ。

 そういう事情もあって、集中してこれだけを学びたいって思うならこのクラスは不適切。

 だから、現段階で嫌な人は希望するクラスに割り振ってもらえるように手配するわ。 ……どうかしら?

 ああ、国王様が関係してるからって遠慮しなくていいからね?

 国王様からも、所属を希望しない者には適切な対応をしろって言われてるから」


 皆、突然の事態に悩んでいる様子。

 一人ひとりが悩まし気な表情を浮かべ、どうするべきかと頭をひねっている。


 俺自身は決まっている。

 そもそも、俺は魔術が不得意。 いや、不得意なんて言葉でまとめられるほどではない。

 全く使えないと言っていいレベルだ。 ゆえに、魔術科はありえない。


 次に魔道技師科。

 俺に魔道具に関する深い理解なんかないし、興味もさほどない。

 創造魔法が俺にはあるし、魔道具が必要になることもない。

 ゆえに、魔道技師科もありえない。

 だから。


「俺は冒険者育成科にこのまま残るよ。 俺は魔術は碌にできないし、魔道具も特に知識が有ったりするわけでもない。 それに……他の科だとまともに卒業も難しそうだしな」


 俺は決意と共に自虐ネタを挟みながら、右手を上げて宣言した。

 俺の宣言に感化されたのか、自分ですでに決めていたのかは知らないが、ヴェイグとエレノアの二人が続いて手を上げる。


「俺も残るぞ。 なんか他のとこより面白そうだしな。 それに――強いやつに出会えそうだ」


 ヴェイグは不敵な笑みを浮かべながら、まだ見ぬ強敵との戦いに想像を膨らませているのか、楽しそうにしている。


「私もこちらに残らせていただきます。 兄さんを一人にして放っておくのは心配ですからね」


 エレノアもヴェイグに続き、宣言したが……この兄妹、どっちが上かわからないな。

 エレノアは妹というより、姉だとか母だとか、保護者的な位置にいる気がするぞ。


「……おい、エレノア。 そういうのはやめろって、恥ずいだろうがよ」


 案の定といった感じで、ヴェイグはエレノアに対して文句を言う。

 仮に、俺にも妹が居たとして。 同じことを言われたら……恥ずかしいな。 うん。

 ヴェイグには強く生きてほしいものだ。


「仕方ないじゃないですか。 兄さんは私がいないとダメダメなんですから」


 なおも続くエレノアの言葉の刃。

 鋭い言葉はヴェイグへと突き刺さり、何とも言えない微妙な表情を浮かべる。

 眉は深く溝を作り、比較的厳つい様に見えるヴェイグの顔がより強調されているように感じた。


「……わかった。 俺が悪かったからやめてくれ。 さすがに初日でこれは辛すぎんだろ……」


 野性味を帯び、厳つい顔を持つヴェイグはエレノアの言葉の刃に敗れた。

 初見で怖いだとか強そうだとか思われそうなヴェイグでも、流石に妹には勝てないらしい。

 ヴェイグは肩を落とし、深くため息交じりの言葉を吐き出した。

 ……兄って言うのは辛いものなんだな。

 俺は場違いなことを考えながら、ヴェイグに同情するように目を細めてしまう。


「これで三人は確定として……他の子たちはどうする?

 一応、明日からの休みを挟んで月曜までなら悩んでくれてもいいわよ?

 それくらいなら、まだ序盤も序盤だから、何とか別のクラスにも馴染めるでしょうし」


 アルカは期限を設けると、気遣うような声音で問いかけてくる。

 確かにアルカの言う通りだと俺も思う。

 月曜以降まで時間が経つとクラスに馴染むのにも時間がかかるだろうし、授業も少し進んでしまうだろう。

 いろいろ考えても、月曜という期限は妥当なものだと思える。


「ウチも残らせてもらうで。 なんや面白そうやし、他のクラスより色々経験できそうやしなぁ」


 アルカの話が始まる前に俺に声をかけてきた訛り口調の彼女も、冒険者育成科に残ることを決めたらしい。

 彼女は独特の喋り口調もあり、おっとりとした雰囲気を纏っている。

 表情を見てみれば、彼女の顔に浮かぶのは和やかで楽し気な笑み。

 どう見ても、何か我慢して言ったのではないことがわかる。

 彼女自身の考えと意思で、冒険者育成科に残ると決断したのだろう。


「はーい。 それじゃあ、あなたも入れて四人は決定ね。 他に決まった子はいるかしら?」


 アルカの再度の確認に、一人の少女が手を上げた。

 手を上げた彼女は、アルカに対して質問をしていた金色の髪を有する少女だ。

 おずおずといった様子で手を上げた彼女は、覚悟を決めたような真剣な表情を浮かべている。


「あ、あの……! 私もこのまま参加させていただきます! その方が良さそうですし……何より、その、気になることもあります、ので」


 覚悟はしたものの途中で恥ずかしくなったのか、彼女の声は少しずつ小さくなっていった。

 (やっぱり人見知りするタイプか? それとも単に喋り慣れてないだけか? ……いや、どっちもかもしれないな)

 彼女のことを考察してみるが、未だ答えは出ず。

 とにかく、今後も同じクラスに所属することを決めたようだし、仲良くなれるといいんだが。

 俺が彼女について考えていると、アルカはちゃんと小さな声を聞いていたようで、軽くうなずき返した。


「はい、あなたもね。 ゆっくり慣れてくれたらいいから、落ち着いてね? えっと、それじゃあ他にはいるかしら?」


 たっぷり十秒ほどの時間、教室はとても静かになった。

 聞こえてくるのは春風に揺れる木々の葉が擦れる音のみ。

 少しの間を空け、アルカは再度教室を見渡す。

 誰も手を上げず、悩んでいる様子を確認し、アルカは口を開いた。


「……うん。現段階では悩んでる最中みたいね。

 それじゃあ、とりあえず。 今日はこのあたりで顔合わせは終わりにしておきましょうか。

 長々と続けても仕方ないしね。 ということで、今日は終了!

 入学式しかしてないけど、無意識に緊張とかしてるかもしれないから、ちゃーんと休んでおくのよ?

 私は教員室に行ってくるから、今日中に答えが出せそうならそっちに来てね。

 それじゃあ、また月曜日に! 解散!」


 軽く両手を合わせて教室に音を響かせると、アルカは出入り口の扉を開き、そそくさと足早に教室を去っていった。

 教室に残った俺を含めた新入生は皆、アルカが出ていくのを静かに見送る。

 扉が閉まる音が教室へ響くと、大柄の少年が立ち上がった。


「ふぅ。 それじゃあ、俺も先に帰らせてもらおう。 このクラスのことも、もう少し考えてみたいのでな。 今後もこのクラスにいるようだったら、よろしくしてやってほしい。 じゃあ、またな」


 彼は出入り口へ向かうと、片手を上げて扉を開き出て行った。

 (あいつはまだ悩むんだな。 見た目からして、てっきりヴェイグみたいな感じかと思ってたが、結構慎重に物事考えるタイプだったか。 ……別にヴェイグが考えなしだと思ってるわけじゃないが)

 すると彼に続き、美しい水色の髪を持つ少女が立ち上がる。


「私も一人で考えてみたいので、申し訳ないですが先に帰らせていただきますね。 自己紹介はこのクラスにそのまま在籍することになったら、改めてさせていただきます。 申し訳ありません。 それでは、ごきげんよう」


 彼女も彼と同じく、まだ考えるみたいだ。

 俺たちの方へと向き、心底申し訳ないと思っているような表情を浮かべて彼女は頭を軽く下げている。

 挨拶を済ませると、彼女は綺麗に背筋を伸ばした美しい姿勢で扉へと向かい、扉を閉める際に再度頭をこちらへ下げて出て行った。

 (とんでもなく丁寧な女の子だったな。 あの所作からして貴族のご令嬢だったりするんだろうか)

 もし本当に貴族のご令嬢だとするならば、接し方には気を付けておかないといけないかもしれないな、とまだ見ぬ未来を想像して悩んでしまう。

 とはいえ、彼女の口調や態度を見るに、心配せずとも何とかなりそうな気もする。

 まあ、彼女に関しても、月曜日にならなければ答えは出ないんだろうが。


「ほな、さっきはできんかった自己紹介っちゅうやつをやろか。 えーっと、ライク……とか言われとったやんね?」


 アルカの話が始まる前、俺が自己紹介をしようとしていた、黒っぽい紫髪の訛り口調の少女が話しかけてきた。


「ああ。 さっきはごめん」


 彼女の問いに肯定の意を示し、謝罪の言葉を口にする。


「あはは、ええってええって。 先生の話があったし、しゃーないよ」


 彼女は最初に見た時と同じように、朗らかな笑みを返してくる。

 (なんだかゆったりと落ち着く感じの子だな。 人懐っこいような印象も受けるし、良い奴なんだろうな)

 彼女の言葉のおかげで安心した。

 俺は呼吸を整え、口を開く。


「改めて自己紹介させてもらうよ。 俺は桜ノ宮雷紅。 よろしくな。 横にいるのがヴェイグと、ヴェイグの妹のエレノアだ」

「おう、俺がヴェイグだ。 口調はもう癖だから見逃してくれ。 よろしくな」

「私はヴェイグ兄さんの妹でエレノア・リジェスタと言います。 こちらではまだ友人はライクさんしかいませんので、良ければ仲良くしていただけると嬉しいですね」


 俺に続き、ヴェイグとエレノアが少女に対し自己紹介をした。

 ヴェイグは厳つい顔ながらも少し申し訳なさげな表情。

 エレノアは変わらず無表情ではあるが、自分の内に秘めている感情に反応しているのか、頭にへたり込んでいた耳が少し立ち上がり震えている。

 恐らくではあるが、緊張や新しい友人ができるかもしれないという状況に思わず耳が動いているのだろう。

 エレノアは一切、自分の耳の動きに気付いた様子はない。


「これは、えらいすんまへんな。 おおきに。

 ウチもこっちではお友達もおらんし、仲良うしたってなぁ。

 おっと、ウチは隣国のエイレンシュキアゆうとこからの留学生で、ティア・クレイドルゆうもんや。

 気軽にティアってゆうてくれてええから、よろしゅうしたってな」


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