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ド田舎出身の刀術師 ~剣の道を歩む者~  作者: 甘野 三景
第二章 新たなる居場所
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冒険者育成科


 第二棟四階、階段そばの教室では、今まさにアルカの自己紹介が始まるところ。

 教室にいる、俺を含めた新入生全員はアルカの言葉を聞こうと静かに席へと座っている。


「さて、それじゃあ始めるわね」


 アルカはそこで言葉を区切った。

 さして区切る必要もないだろうに、これからいう事がさも重要であるかのように。

 さあ、心して聞け、と。

 そう訴えるように。

 まぁ何も考えずに雰囲気で区切っただけかもしれないが。


「知ってる人ももしかしたらいるかもしれないけど、私はアルカ・エインズワース。

 あなたたちのクラスを受け持つことになった、新米教師よ」


 ああ、やっぱり。

 俺の最初に浮かんだ言葉はそれだった。

 ただ、どうしてそうなったのか、ということに疑問が尽きない。

 だが。


「「「アルカ・エインズワース!? 何でSランク冒険者が教師を!?」」」


 俺の疑問は、他のクラスメイトの驚きの声によって解決は後回しになる。

 やっぱりアルカのことを知っているやつはいたみたいだ。

 まあ、かの有名な雷帝様だし、知っていて当然ってくらいかもしれないが。


「あーやっぱり知ってた? あはは。 そうよ。 Sランク冒険者でもある、アルカよ。 雷帝って呼び方の方で聞いたことある子もいたりするのかしら? ……まあ何で教師なんかやることになったか、っていうとね?」


 アルカはもったいぶる様に、再度言葉を区切った。

 生徒を見るアルカの表情は、少しいたずらっぽい笑みを浮かべている。

 たぶんコイツのことだ、あえて意味深な言い方がしたいだけ、とかだろう。

 まあ、驚くような発言が飛び出すのかもしれないが。

 アルカは教室にいる全員の表情を見るように視線を動かし、ようやく口を開く。


「皆もさっき講堂で見た、アリシア・リーンベル。

 つまり、この学院の学院長からの依頼()あって教師をすることになったのよ」


 (……も?)

 俺は今のアルカの発言に違和感を覚えた。

 普通なら、学院長から依頼があって、とかになるはずだろう。

 だというにもかかわらず、も、なんて言いやがった。

 ……ということは、他に理由があるってことか?


「おー? 皆、不思議そうな表情してるわね。 期待してた通りの反応ありがとっ!

 たぶん皆、私がなんで依頼も、なんて言い方をしたのか不思議がってるのよね?

 いいわ、答えてあげる」


 とアルカは言う。

 正直アルカの言う通りだし、どうしてそんな言い方をしたのかってことはすごく気になる。

 だがな? コイツの言い方は俺の神経を逆なですることしか考えてないみたいな言い方。

 一瞬、俺の方をチラ見したのも凄く腹が立つ。 いや、言い過ぎか。 すこーしイラッときた、ってくらいだな。

 ま、とにかくだ。

 アルカの浮かべる楽し気な笑みは歳に似合わないような、可憐な少女のような色彩を持っていて、苛立ちはするがどこか憎めない。


「ま、むしろこっちが本命って感じなんだけど……実はね、この国を治める王――国王・オストル・フォン・アルファリア様からも私に依頼があったのよ」


 衝撃的な事実がアルカの口から放たれた瞬間、世界から音が、色が……消える。

 なんてことはないが、先程までそこそこざわついていた、俺たちのいる教室は静寂に包まれた。

 周りを見てみれば、俺の目に映るのはクラスメイトの驚く表情。

 目は見開かれるように丸くなり、ずっと無表情しか見せなかったエレノアの表情にも驚きの表情が浮かんでいるのが見える。

 エレノアも驚いた表情とかできるんだな、と俺は場違いな感想を抱いた。

 仕方ないだろう。

 感情がない、とまで思わせるような無表情のエレノア。

 落ち着いた雰囲気で淡々と言葉を口にしていたエレノアが目を見開き、色を持たなかった顔は驚きに染まっている。

 感情を宿す表情に多少失礼とは思いつつも、そんな感想を抱いてもおかしくないだろう?

 俺がエレノアの横顔を見ていると、自分に向けられている視線に気づいたのか、ゆっくりとした動きで顔をこちらへと向けた。


「……もう……今のは……見なかったことにしてくださいね?」


 顔を向けると同時にエレノアは小声で言い、頬をほんのり赤く染めた。

 (どうしよう。 正直、ちょっとドキッとしたぞ)

 エレノアの言葉に別の意味で頬を赤らめた俺は、言う通りにできそうにないな、なんて思いつつもアルカの方に向き直った。


「あらー。 皆、驚きのあまり固まっちゃった? ま、無理もないわよねぇ。

 私もまさか、国王様から依頼が来るなんて思ってもみなかったもの。

 でも、これは本当よ? そんな事情もあって、私は今ここにいるってわけね。

 皆、理解してもらえたかしら」


 周囲からは無言の頷きがちらほら見える。

 少し茫然としている風な少女もいるが、なぜだろう。

 今のアルカの言葉で驚くのは無理もないと俺も思う。

 俺自身驚いているからな。 ま、なんとなく依頼の詳しい内容について思いついたこともあるから、驚きは少な目だけど。


「あ、あの……」


 先ほどの少女は消え入るような声で、おずおずと手を上げた。

 すると彼女に対し、周囲から好奇の視線が刺さる。


「――ひゃっ!?」


 彼女はどうも人見知りするタイプなのか、皆から見られることで驚いたように声を上げた。

 (なんか妙に上品さを感じる女の子だな。 エレノアみたいな感じじゃなく……なんだろ、もっとこう……想像でしかないけど、お姫様みたいな?)

 俺の想像が合っているかは別として、彼女はとても上品で美しく可愛らしい。

 正直、今朝新聞で見た第三王位継承権持ちのお姫様がこの子だったら納得してしまうほど。

 金色に輝く長い髪は腰まで伸び、触れば滑らかな質感を感じられるだろう。

 彼女の美しい髪は、風もないのになびくように柔らかく広がっている。

 顔立ちはものすごく端整。 美術品でも見ているかのように整う顔は少し幼げではあるが、女性としての魅力に溢れている。

 背は座っているからちゃんとわからないが、恐らく俺よりは拳二つ分ほど低そう。

 前に身長を測った時は百七十二センチメートルくらいだったから……百五十五から百六十を少し超えるくらいか?

 制服は男子用と違い、ジャケットの襟の部分は無く、肩が見えるくらいに大きく開いている。

 同じくインナーのシャツも肩を露出させるように広がっていて、アウターもインナーも、カラーリングは男子と変わらない。

 下半身の制服はエレノアや他の女子生徒と同じくプリーツミニスカート。 ワンポイントで腰の辺りに小さなリボンが付いている。

 スカートの下は、均整の取れた柔らかそうな肉付きをした艶めかしい足が伸びており、黒のぴっちりとしたタイツに覆われている。


「えーっと、どうしたの? 質問とかあれば聞くわよ?」


 さすがにアルカも気を遣ったのか、気持ち優しめな声音で彼女へと問いかける。

 アルカに声をかけられて少し深呼吸をした後、彼女は静かに言葉を紡ぐ。


「あの、どうして先生……アルカさんじゃないといけなかったのでしょう? こう言うと失礼に聞こえるかもしれませんけど、他にも教師を出来る方はいたのではないかと、私は思うんです」


 言われてみれば、確かに。

 アルカでなければいけない理由が漠然としすぎている。

 俺がさっき想像していたことが当たっていたとしても、アルカが教師にならなければいけない理由にはならない。

 そもそも、俺の想像にしても穴がある。

 俺の想像していたのは護衛任務。 今年、俺たちと共に入学されたという姫様の護衛だ。

 しかし、護衛に関してだけ考えても、学院の警備を増やすなり姫様の傍仕えが出来る者を用意した方がいいんじゃないだろうか。


「あーそれは……ま、いっか。 このクラス――冒険者育成科の設立の理由にもなるから、答えはそっちと一緒に答えようかしらね」


 魔術学院と銘打っているのにもかかわらず、冒険者育成科とは……どういうことだろうか。

 確か事前に調べておいた学院の情報では、二つの科が二クラスずつ用意されていたはず。


 一つは、魔術に秀でた生徒が多く在籍する魔術科が二クラス。

 ついでに言えば、魔術科は特に、幼少期から魔術を習う事の多い貴族の生徒が多い。 もちろん、平民もいる。 貴族ほど多くは在籍していないらしいが。


 もう一つは、魔術知識はあれど、魔術科の水準に満たない生徒が在籍する魔道技師科が二クラス。

 魔術科とは違い平民の多い魔道技師科は、魔術の練度こそ貴族生徒に劣るかもしれない。

 だが、魔道具の製作や知識に関して言えば、魔道技師科の生徒は一歩も二歩も先を行く。


 二つの科は互いに競い合い切磋琢磨する仲。

 しかし、貴族と平民という身分の違いもあり、時折言い合いに発展することがあったりもするらしい。

 とまぁ、計二科だけのはずだったんだがなぁ……というかだ、何で俺は冒険者科に入ってるんだ?


「さてと。 それじゃあ説明するわね」


 アルカはこほん、とわざとらしい咳ばらいをした。

 表情は仕事ということもあってか、先ほどまでと変わり真剣なものになっている。


「改めて言うけど、あなたたちの所属するクラスは冒険者育成科よ。

 科の名前で分かったかもしれないけど、私がこの依頼に指名されたのはこれが大きな割合を占めるわ。

 具体的なクラスの方針としては、冒険者としての仕事に関して勉強をしてもらうってところね。

 まあ試験的に発足されたクラスだから、あなたたちの代で終わる可能性もなくはないんだけど」


 何やら恐ろしいことを聞いた気がするぞ?

 俺たちの代で終わるかもしれない? 試験的なクラスぅ? マジでか。

 周りを見れば、俺以外も皆驚いた表情を浮かべていた。

 よかった、俺だけ知らないという事態は起きなかったみたいだ。

 ただ、やはり気になる。 冒険者育成科ってなんだ? いや、そのままの意味だろうけど、そうじゃなくて。


「先生。 質問があるんだけど、いいですか?」


 俺はたまらず手を上げながら発言した。

 聞いてはみたものの、嫌な予感しかしない。

 

「ん? 何、ライク。 気持ち悪いから、いつも通りの口調でいいわよ?」

「んなっ!? せっかく立場を考えて口調変えてたのにそれはないだろ!?」


 俺の突然の大声に皆はこちらを向いて驚いた表情を見せる。

 (し、しまった……初日から悪目立ちじゃないか。 アルカめ、覚えてやがれよ)

 自分の行動に後悔の表情を浮かべ、俺は顔をしかめた。


「あのー先生。 もしかして先生と、えっとライクくん?って知り合いなんですか?」


 教室で最初に口を開き、席へと真っ先に向かった少年が、親し気な俺とアルカの言い合いに疑問を持ったようで質問してきた。


「ええ、そうよ。 もう三年くらいの付き合いになるわね」


 アルカの言葉が放たれた瞬間、教室にざわめきの声が走る。

 (あかん、あかんでこれは……絶対、今ので勘違いしたやついるよな!?)

 俺の予想は当たる。

 ざわめきに耳を傾ければ、聞こえてくるのは桃色に染まった想像の数々を語る声。

 俺とアルカが付き合っているだの、生徒と教師の禁断の恋だの、好き勝手言ってくれている。

 特に、青空のような水色の髪を持った少女は恋愛系の話に免疫が無いのか、顔を真っ赤に染めている。

 彼女の口からは、"不潔よ、不潔ったら不潔! ……でもいいなぁ、彼氏かぁ……"なんて消え入るような囁き声が聞こえた。

 発言から鑑みるに、彼女は恋愛経験はないらしい。 俺も無いけど。

 皆の声を聴き、一度咳ばらいをして気持ちを切り替えると、俺は普段の口調でアルカに言葉を投げつける。


「おい、アルカ。 それだと勘違いされるだろ! というか、すでにされてるんだよ! 言うならちゃんと説明しろって!」

「え、良いの? 秘密の方が良くない?」


 アルカは何もわかってないような、気の抜けた表情を浮かべて首をひねった。

 俺はアルカの表情を見て、さらに頭に血が上って叫ぶように声を出す。


「だーかーらー! なんでお前はそうやって意味深な言い方すんだよ!? 何? 俺をいじめて楽しいか? あ!?」

「あははー。 ちょっとした冗談じゃない。 早くライクがクラスに溶け込めるように手伝ってあげたんじゃない。 感謝しなさいっ!」


 アルカは腰に手を当て、少し胸を張るようにふんぞり返る。

 周りの皆は俺たちの会話に入ることをせず、静かに見守っていた。

 ちょっと口元が少し動いていた気もするが。

 

「できるか馬鹿が! 余計に溶け込めなくなるだろうが! 」


 俺とアルカの言葉の応酬は、どうやらクラスの皆に受けたようだ。

 先ほどまで静かだった皆からは笑い声が漏れ聞こえ、次第に教室中に広がった。

 (楽しんでいただけたようで何よりですね……俺は疲れたよ。 はぁ)

 俺が心の中でため息を深々とついていると、アルカは少しやりすぎたと思ったのか、ふざけた態度を引っ込めて口を開く。


「ごめんごめん。 あー皆? 私とライクは同じ冒険者ギルド所属ってだけだからね? 勘違いした子はちゃんと覚えて帰ってね」


 ようやくアルカはさっきの発言に対しての説明をしてくれた。

 一時はどうなることかと思ったが、後は時間が経てばちゃんと分かってくれるだろう。

 まあ、まだしばらくはネタにされる可能性はあるんだけど。


「それでだ。 俺がさっきしようとした質問だけど……いいか?」

「あ、うん。 大丈夫よ。 それで、どんな質問かしら?」


 アルカは俺の方を見つめ、仕事の時みたいな真面目な表情を浮かべた。


「あのさ、俺、冒険者育成科について全く聞いてないんだけど……事前に説明とかあったか?」

「ううん、ここにいるメンバーは誰も知らないはずよ?」


 さも当然のことのようにアルカは言い切る。

 アルカの表情からは、あんた何馬鹿なこと聞いてんの?とでも言いたげな印象を受けた。


「あーだとするとさ。 皆、勝手に所属する科を決められたわけだよな?」

「ええ、そうよ。 ライクが言いたいのはアレでしょ。 それで皆が納得できるのかってこととかでしょ?」

「ああ、そういうことだ。 皆だって、魔術科か魔道技師科のどっちかに入りたかったはずだろ?」


 俺は問いかけるようにして皆の方を見渡した。

 各々、違った反応を見せるものの、ほぼ全員が俺の意見に同意しているように頷いて見せた。


「それについては今から話すわ。 それを聞いてもなお、どちらかの科が良いって言うなら変更してもらえるように言っておくわ。 皆の要望はちゃんと聞くから安心してね」


 アルカはこちらを見ながら優し気に微笑んだ。


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