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第十六話「ゴブリンの巣へ」

 ゴブリンの巣は南南西にあり。その報告は三年前にあったらしい。情報元は各国を股にかける商人や、諸外国からの通達人。そのため情報の信頼度も高く、緊急性も考えられるため、将軍たちが確認に行ったこともある。

 しかし、対応はされなかった。何故なら、当時のゴブリンは巣の近くにきた人間から食べ物を奪うことはあっても、決して人間を傷つけたり殺したりはしなかったからだ。

 おそらく、人間を食べてもまずいという考えからだろうとエッガは言った。

 その土地のゴブリンの主食は川魚や木の実や果物であり、時にはイノシシやキジ、ウサギやクマといった獣を捕えて焼いて食べるということをしていた。

 そう、食料が豊富なので、人間を殺して食べる必要がないのである。直接の被害がないのであれば、対策を講じる必要はない。そう判断されて三年間、人間とゴブリンは互いの生活圏の距離を保ちつつ過ごしてきた。

 そのゴブリンたちが何故、結界を破壊してまで城内に侵入し、人間を襲い、そして攫うという行動に出たのか。これは誰も予想していなかった行動であり、謎のままだった。

 争いに発展した以上は、調査をする必要がある。更に今回は攫われた者の救出作戦もある。計画は慎重に行わなければいけない。

 まずは、ゴブリンの巣に行く足を確保しにいく。向かうのは現在いる城内の南側から西のほうだ。神樹の下に馬がいるとのことだった。

 厩舎に到着すると、馬の世話をする兵士が敬礼をして皆を迎えた。エッガが前に進み出て、兵士に言う。

「馬を借りる。行き先はゴブリンの巣だ」

「はっ、了解しました」

 兵士の返事を受けたエッガが、なにやら険しい表情で風間を見た。

「お前に訊きたいことが二三あるから、私と一緒に乗れ。ディステル、それでいいな?」

 ディステルは何やら言おうとしたようだが、言わないほうが良策と悟ったのだろう。ブリッツのほうを見ると話しかける。

「私の馬は大人二人乗りには適さないから、自分の馬を出してもらっていい?」

「はい、では、自分も愛馬を出します」

 風間はゴードの馬を最も大きい馬といわれるシャイヤーの黒と記憶していた。エッガの馬は中間種の尾花栗毛のハノーバ。ディステルの馬は黄金の馬ともいわれるアハルテケだ。

 エッガ、ディステル、ブリッツと厩舎の中に入っていく。ブリッツが引いてきた馬は軍馬として優良品種といわれるトラケナーだった。

「エッガ、二人乗りなら、先導は私でいいよね。一番後ろはブリッツに任せるから」

 ディステルの提案にエッガは「ああ」とだけ返事をする。二人乗りでは機動力が劣るため、奇襲への対応が遅れるためだ。そのため、ディステルの案は最善と思われた。

「じゃあ、いくよ」

 皆が馬に乗ったのを確認すると、ディステルが馬を走らせる。アハルテケの黄金色の毛並みは目立つため、先導役としてはピッタリだ。

 何故、目立つ毛並みを持つアハルテケを、ディステルは愛馬に選んだのか。風間はふと考えて、すぐに結論に至った。理由は目立つからだ。戦闘好きのディステルのことだ。逆に敵に見つけてもらって、戦闘に転じることが狙いなのだろう。

 風間はアイアンウルフには乗ったものの、馬に乗るのは、はじめての経験だった。しかも、一緒に乗れと指示はされても、女性を前にしての二人乗り。つかむ場所も、つかむ力もかなり意識してしまう。

 同時に振り落とされないようにしなければという両極端な思いもある。しかもエッガと風間の相性は最悪といってもいい。必要以上に緊張している時、エッガが「カザマ」と確かに名前を口にした。

「私がゴブリンを倒しに城を出ようとした時、何故、スラム街に向かえと言った?」

 馬のヒヅメの音で聞き取りにくくはあったが、そう質問された。

「えっと……確か、エッガ将軍の出身はスラム街ですよね」

「やはり知っていたのか。その話、誰にもしていないだろうな」

「はい、エッガ将軍が隠していることだと知っていたので、誰にも話していません」

「では、何故、私がスラム街出身だと知っている?」

「あそこで俺がスラム街に行ってくれと頼んだから、行きやすくはなりましたよね」

「はぐらかすな。ここで叩き落されたいか?」

 エッガに強迫めいた口調で迫られるが、風間からしてみると「納得できるように説明することができない」というのが理由にあった。

 エッガがスラム街出身だと知っているのは、ゲームのキャラクター情報で見たからだ。話を聞いてくれそうなブリッツにでさえ「遥か外の世界からきた者」と説明しても信じてはもらえなかった。「人の心が読めるのか?」と不気味がられた。

 本当のことを話しても信じてもらえない。そこで風間が考えた答えは――。

「俺がいた日本には心理学という学問があります。人の表情や言動から、人の心を間接的に読み取る学問です。エッガ将軍の動きには確かに、スラム街出身である雰囲気があった。それだけのことですよ」

 本当と本当らしく思わせる嘘を混同させた理由を語った。

「そんな学問があるのか。ということは、マリアのバインドを避けることもできたのも、それか?」

「いや、あれはですね。マリア将軍、術を発動させる前に言ったじゃないですか。バインドの魔法を! って。エッガ将軍にわかるように言ったのかもしれませんが、あれはよくないですよ。対策を練ることができますから。叫ぶのではなく、アイコンタクトにするとか、ハンドサインにするとかしないと反撃されると思います」

「あいこんたくと? はんどさいん? それは一体何だ? 振り落とされたくなければ、私にもわかるように説明しろ」

 風間は意識していなかったが、深く説明しすぎたらしい。プライドが高いエッガだ。指摘や説明をされることに慣れていないのだろう。明らかに語尾のほうの声が、微かな怒りで震えているのに気づいた。

 はじめてエッガと衝突した時、その表情が悪魔から魔神、魔神から大魔神の怒りの形相にレベルアップしていったのを思い出した。

 これ以上の衝突は避けなければならない。同時に理解し合わなければならない。風間は息を吸いこむと、冷静になれ、言葉を変えろと、自分に言い聞かせた。

「将軍たちは強いです。敵国の将軍も退かせ、強大なモンスターにも強烈な一撃を見舞うほどに。けれど、戦略ひとつで戦況が引っくり返ることもあります。それが原因でエッガ将軍が負傷したら、一番、心配するのは誰ですか?」

「それは……」

「気づいたことはいつでもアドバイスができます。けれど、そういった状態にない時は誰も頼れない。だから、冷静に戦況も見つめていただきたいんです。そして、誰も危険な目に遭わせないためには、俺はいつだって出しゃばりますよ。同時にあの時、他の兵士たちにエッガ将軍を援護するよう指示もしなければいけなかった。スラム街の人たちを救いきれなかった上に、エッガ将軍の強さに甘えて負担を強いていたと責任も感じています」

 思いきって腹の内を全て話し終えたが、沈黙の時間が流れた。そして、しばらくするとエッガの口から確かに言葉が出た。それも、思いもしない言葉で。

「面倒臭い奴め。ただ腹が立つだけなら、思いきり殴ることができるのに」

 またしばらく沈黙の時間が流れる。すると、先頭を走っていたディステルの馬の足がとまった。ゴブリンの気配は感じないので、気づかれないギリギリの場所に馬をおいていくということなのだろう。

「セーブポイントはここにするよ」

 馬から降りたディステルが手綱を木に括りつける。そして、自分の馬に掛けていた小袋から青白い光を放つ珠を取り出すと、地面に叩きつけていた。

 すると青白い珠は亀裂を少しずつ生じさせながら割れ、地面に六芒星を描いた。六芒星が描かれた円の大きさは半径三メートルといったところだろうか。光に包まれた円の中に入ると、体力が全て回復するような心地よさを感じた。

 どうやら、ゲームでいうセーブポイントはアイテムで作り出せるようだ。ゲームの設定と同じであるのなら、この円の中にいる限り、敵の攻撃を受けないということになる。

「なるほど。馬をセーブポイントに入れて、ゴブリンの巣に向かうのか」

「帰りの足がなくなるということは、何かあった時に逃げることもできないということだからな。私がいる限り、何かあるということは絶対にないが」

 エッガが通りすがりざまに告げる。そこには、ゴブリンとの戦いを前にする戦士の顔があった。絶対的な自信がなければ、こんな言葉は出ない。同情されるつもりはないとも言っていたエッガだ。ひとりでもやりきろうとする意志の強さに、疲れないのかなと風間は思いつつも、頼もしさも感じた。

 目的地までゴブリンたちに気づかれないよう足音を殺して無言で歩く。ゴブリンの巣はセーブポイントから、二分ほど歩いた森の中にあった。亀裂が生じた岩場には、かなり奥まで続いていそうな洞窟の口が開いている。これは、第三ステージのゴブリンの洞窟の設定と同じだ。

「誰が先に入る? やっぱりエッガ?」

 質問するディステルの視線は、何故かエッガではなく風間だった。

「……なんで俺を見ながら訊くんですか?」

「だって、もとはシンゴの失態を帳消しにする作戦じゃなかったっけ」

「そこでカザマじゃなくて、ファーストネームで言いますか」

「カザマって言い難いから。それともシンゴと呼ばれるのは嫌?」

「嫌じゃないですが……って、誰が先に入るかの話でしょうに」

「話を先にそらしたのはシンゴだよ。中は暗いみたいだから、エッガと入ったら?」

 ディステルの反応がおかしい。おそらく、エッガと一緒に馬に乗ったからだろう。ここで何か言わないと、誤解され続けそうだ。

「いや、エッガ将軍とは何もなってないですから。確かに、後ろに乗った時にどこをつかもうかと悩みましたよ。けど、下手な真似をしたら、俺のほうが殺されますよ」

 ディステルの話にのせられて、つい男の本音が出る。そう、エッガの胸は普通の女性よりも大きいのだ。体を密着させた状態で、何も考えないほうがおかしいはずだと風間は思う。ところがそれは女性であるエッガには逆効果で。

「お前が先に入って、ゴブリンに襲われろ!」

 思いきり、背中を蹴られた。そのため、半ば転がるような勢いでゴブリンの穴に突入する。漆黒の闇ともいえる洞窟の中に一歩二歩三歩と。すると、目の前が急に明るくなったのに気づいた。ここは洞窟の中のはずだ。明るくなることはあり得ない。

「これは一体……」

 あり得ない現象を前に動くことができない。そんな不思議な現象にディステルも気づいたのだろう。すぐに洞窟に入ってきて、風間のポケットを指差す。

「シンゴ。その、光っているのは何?」

 暗闇が急に明るくなる現象を風間は前に経験していた。それを思い出して、ポケットを探る。出てきたのは神樹の枝であり、前と同じように優しい光を放ち続けていたのだった。

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