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第九話「アイアンウルフ戦1」

 翌日、日が昇り、小さな格子窓からわずかな朝日が注ぎこんだ時間でも、風間は熟睡していた。というのも、ディアナ王女が退出したと同時に、明日は戦うという気持ちにスイッチが入り、なかなか眠ることができなかったのである。

 ようやく睡魔が襲いかかってストンと落ちるように眠りに就いたのが、風間の体感時間で、おそらく午前三時頃。争闘が午後と決められていたことが、風間にとって幸いとなっていた。

 十分な睡眠をとって風間が大きな伸びをした時間には、牢に入る光の量も増えていた。その時刻になると、牢獄内の兵士たちも慌ただしく動きはじめる。しかし、兵士たちが向かったのは風間の房ではなく、風間から見て斜向かいの房だった。どうやら今日、争闘をさせられるのは風間だけではないらしい。

「嫌だ。死にたくねえよ」と泣き叫ぶ囚人を、三人がかりで無理やり引き摺り出している。ひとりは右腕の脇を、もうひとりは左腕の脇を、三人目は背中を押すようなかたちで。これを見て、風間は居ても立ってもいられなくなり、独房の格子をつかんで叫んだ。

「おい! そいつが戦う前に、俺とアイアンウルフを戦わせろ!」

 風間のこの叫びで、囚人をつかんでいた兵士たちの動きがとまった。四大将軍の二人に勝負を挑んだ侵入者の怒号に、一種の恐怖を覚えたに違いなかった。

 騒ぎに気づいたのだろう。ブリッツが奥のほうから姿を見せると、風間に向かって息を吐いていた。

「また、お前か。今度はどんな言い分だ? 聞かないこともないから言ってみろ」

 ブリッツが右腕を擦りながら言う。風間は、そんなブリッツの動きを見ながら、昨晩はアドバイス通り右腕を温めて寝たのかなと思ってしまった。

 ブリッツは風間の視線が自分の右腕に向いたのに気づいたのだろう。「昨晩はちゃんと温めて寝たよ。お蔭で前より痛みはひきはじめている」と続けた。

「それは良かった。ただ、油断は禁物だから、ちゃんと治療は継続させろよ」

 そう前置きをしてから、風間は続ける。

「それとさっきの質問の答えは、俺は自分より先に人が死ぬのを見たくない」

 風間の発言に、ブリッツと兵士たちは「はあっ?」と頓狂な声を出した。泣き叫んでいた囚人も、叫ぶのをやめて唖然とした表情で風間を見ている。

「わけがわからないことを……」

 唸るようにブリッツが言う。この兵士の中では、ブリッツの位が一番高いらしく、残りの兵士は彼の口から出る答えを待っているようだった。

 その反応を見て、風間は次の発言のピースを投下する。

「駄目だというのなら、俺の呪文をここで炸裂させる。超ハイパーデラックス極大魔法だ」

 それは風間のハッタリだった。とはいえ、何も考えずに言い出したことではない。風間はポケットに入っていた神樹の枝を取り出して構える。

 これにはブリッツも一歩退いた。そして、しばらく考えるような様子を見せてから口を開く。

「なぜ、その魔法をフォックスバードやエッガさまたちに使わなかった?」

「被害が大きくなるからに決まっているだろう。けど、どうしようもないと判断したら俺はこの魔法を使う。今がその時だ」

 ブリッツの表情がわずかに変化した。囚人を牢屋に戻すよう指示を出すと、急ぎ足で牢の監視室へと戻る。

 戻ってきたブリッツの手には、拘束具と紺色の服が握られていた。その紺色の服を鉄格子の間から差し入れて、手首の力だけで放り投げていた。

「今すぐ、この服に着替えろ。それと、この場に残るのは俺とこいつだけでいい。他の者は、決戦の順序が変わったことをゴード将軍に報告し、闘技場で待機していてくれ」

 ブリッツに指示された兵士たちは首肯すると、慌てて退出していく。その動きは明らかに、囚人を引っ張り出そうとした時よりも機敏だった。問題が起きる前に離れたいという、兵士たちの心理が垣間見えた気がした。

 兵士たちの姿が見えなくなるとブリッツは風間を見る。その表情は固いものから柔らかいものに変化していた。

「やれやれ……俺が嘘だと気づいていなければどうしたつもりだ?」

 ため息とともに吐き出されたブリッツの言葉に、風間は笑みを浮かべてしまう。

「ブリッツを信用していたからな。ヒントはいくつか入れていたけど、どこで嘘だと気づいたんだ?」

「自分より先に人が死んでほしくない。そう言っておきながら、被害が大きくなるという、超ハイパーデラックス極大魔法を放つと言った時だ。前後が完全に矛盾している発言だからな。すぐに嘘だと気づいたよ。それと、一度言ったことは訂正できないぞ。だから、争闘の順番は変えられない。渡した服をすぐに着てくれ」

 風間はブリッツに渡された服を広げてみた。上下とも紺色で襟や裾の縁には白いラインが入っている。ところどころに金色の装飾もみられた。

「お前のステータスを昨日確認したのだが、見たこともないジョブでな。それもあって、動きやすく、打撃や魔法にも程度効果があるものを選ばせてもらった」

「なんで、争闘をする囚人に立派な服を着させるんだ?」

「みすぼらしい服でアイアンウルフと戦わせるわけにもいかないだろう」

 話の経過で何となく風間は理解した。争闘に挑む囚人は奇麗な服に身を包ませる。そうすることで、囚人に良心的な態度で接しているのだよと印象づけているのだろう。そして、そんな画策を裏で行っている者が誰なのかということも、風間には何となく予想できた。

 ただ、わかっていても反論できる立場に今の風間はいない。すぐに渡された服に腕を通す。続けてスラックスも履くとサイズはぴったりだった。

「サイズはあっているようだな。あと、これが頼まれていた武器リストだ」

 ブリッツは風間が服に身を通したのを確認すると、アイアンウルフとの争闘で使える武器リストを渡してきた。

「武器は闘技場に置いてあるから、そのリストを参考に慎重に選ぶといい。そのなかから選べるのは、ひとつの武器だけだからな」

「ああ、もう選んだ。いつでもいけるぞ」

「慎重に選ぶといいと言ったのが聞こえなかったのか……後悔してもしらんぞ」

「後悔もなにも、俺が使いたいと思っていた武器がリストにあったというだけのことだよ。だから即決したんだ。それに、何があってもすると決めていることは、はやくしたほうがいいだろう。ブリッツの手を煩わせるだけだろうしさ」

 ブリッツが唸るような声を出した。肯定とも否定ともとれない返事だ。

 ただ、その後の言葉が、これから争闘に向かう風間の励ましになるものとなった。

「ディアナ王女さまが、お前に好意をもっていることを知っている。それだけが理由ではないが、俺からも頼む。死なないでくれ」

 風間は笑みで返した。『俺からも頼む。死なないでくれ』それが表す意味は、昨晩のディアナ王女との会話をブリッツが聞いたと示しているからだ。頭がキレるブリッツのことだ。風間がエールの真の意味を捉えると意識もしていたのだろう。

「ブリッツにはいろいろ世話になったからな。質問に答えてくれて感謝してる。期待に添えられるよう全力で対処してみるよ」

「拘束具は必要ないな? そのまま真っ直ぐ進んでくれ。その先が闘技場だ」

 ブリッツに指示されるまま風間は前に進む。歩が速くなることもなく、遅くなることもなく、淀みなく。暗い牢獄の通路の先には、ひときわ明るく見える出口が見えた。

 闘技場に出た途端、観客の声が響き渡る。日の高さから推測すると、時刻は午後一時くらいだろう。暗く静まり返った牢獄にいた風間は、まぶしさと声の大きさで眩暈を覚え、ふらつきかけた。

 そんな風間を我に返らせたのが重い金属音だ。見ると、向かい側にある出入口の鉄柵が上がっていた。

 そこから出てきたのは、風間と対戦するアイアンウルフだ。重量級の力強い足どりで一歩一歩進むと、その双眸で風間を睨み、高らかと咆哮をあげた。

「やっぱり、実物は迫力あるな。二スペース使っていた大きさだけはある」

 ゲームで人は一スペースだった。その一スペースを二つ消費していたアイアンウルフの大きさは、一見すると獅子や虎と比較すると二回り以上あるだろう。ただ、それでも風間は自分の秘策が通用すると考えていた。

 闘技場に置いてある武器のひとつを手にして、アイアンウルフに向き直る。そして、風間はこうアイアンウルフに告げた。

「俺とお前が助かる方法がある。今から伝えるから、周囲に悟られないように聞いてくれ」

 目の前にいるアイアンウルフが風間をどう見ているのかはわからない。ただ、人間の言葉を理解する知能があるのなら、話を聞いてもらえるはずだ。

 黄金の双眸の奥に隠されているアイアンウルフが求めていることは何なのか。自分の推測は間違えていないはず。風間はそう信じていた。

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