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「……だがマキャラバンが探索魔法で探った結果、メイシェルが隠し通路を使用中だったなんて事故が起きればどうする。彼の父親でさえ知らない秘密通路だぞ」
「秘密通路を知られたらディオンは処分されると言えば、メイも自重せざるを得ないでしょう」
王太子はにやりと笑う。国王はやっと息子が友人を推す真意を悟った。
__気に入った護衛魔導士の命を担保とする。悪どいようで上手い。それで双方の危険回避に繋がるのだ。
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ディオンは緊張の面持ちで国王の前に跪いていた。一体何のために呼ばれたのか皆目見当がつかない。そんな彼を厳かに見ていた玉座の王が、傍らの宰相から受け取った任命書を読み上げた。
「ディオン・マキャラバン魔導士を、第五王女メイシェルの専属護衛魔導士に任命する」
「!?」
言葉の意味をよく考え、青褪めたディオンは声を発しそうになるが飲み込む。王の勅命である。ここは「謹んでお受けいたします」と答えるのが正しい。しかしディオンはすぐに返答ができなかった。
もうすぐ十歳を迎える第五王女の専属護衛魔導士に指名されるのは誰だろう。
魔導士団内で◯◯氏だ、いや女性魔導士の可能性が高いだろう、ならば△△女史だ、などと憶測が飛び交っていた。
どちらにせよ入団二年目の自分には関係のない話だと思っていたところの、まさに青天の霹靂である。
魔導団長は既に聞かされていたのだろう。戸惑いながら「おまえがなあ」と呟いて自分を送り出したのは、こういう事だったのか!
「マキャラバン、不服か? 発言を許す」
微動だにしないディオンの内心を慮って国王が水を向ける。
「不服などございません!」
そこはキッパリと否定しておく。
「……実力派の先輩たちを差し置いて私を指名していただいた事を、ただただ不思議に思うだけでございます」
(然もあらん。ヴェルトとの密談で決定したのだからな)
国王は頷く。
彼の異例の抜擢に魔導団長が驚いたのも当然だった。今後魔導団でのディオンの扱いに気を配るように申し付けたのは、やっかみや“親のコネ”との侮蔑に晒されるのを防ぐためだ。
『彼の得意魔法と王女の相性を考えた結果だ。彼は以前王女を助けてくれた事があり、王女の覚えもめでたい』
そう国王直々に言われたら団長も納得するしかない。それでも団員たちの悪意は防げないだろうなと考え、ひっそりと溜息を吐いたのだった。
「メイシェルが君を気に入ってしまってね。よろしく頼む」
ものすごく雑だが、王の命令だ。どのみちディオンに拒否権はない。
「謹んで拝命いたします」
ディオンは恐れ多くも第五王女を抱えた数ヶ月前の事故を思い出す。
あの日ディオンは休日で自宅にいたが、伯爵家当主としての税金に関するサインが早急に必要だった公文書を携え、三日間帰宅していない父を訪ねていた。城門塔を抜けてすぐ側にある騎士棟の宮廷騎士団長室で用件を済ませると、そのまま王城の財務府徴税官に直接文書を届けた。
帰宅する前にせっかく城まで来たのだからと、久しぶりに父の愛馬を見るために厩舎に足を運んだ。父の馬は領地から連れてきた軍用馬で、ディオンも可愛がっていたからだ。
しかし訪れた厩舎から悲鳴が聞こえディオンは思わず駆ける。目の前を黒馬が横切った。悲鳴はその馬にしがみつく黒髪の少女のものだった。
(あれでは振り落とされる!)
ディオンが焦っていると、その暴走馬をすぐ騎士たちが追う。
『姫様ー』
騎士たちの悲痛な叫びに、黒髪の少女が第五王女と知る。
(間に合うか? いや、どうやって王女を救う!?)
無理に止めれば馬が余計暴れるし危険だ。
ディオンはたまたま従者が手入れしていた馬を『借りるぞ!』と奪い、すぐに騎乗して後を追う。
(速い!)
王女を乗せた馬は足が速いし、彼女を振り落とそうと必死だ。追いかける騎士たちも差が詰められない。これはやばい!
力尽きた王女が投げ飛ばされた。遠心力のせいか宙に舞う小柄な身体。ディオンは咄嗟に彼女に保護魔法と、自分の馬に加速魔法を、ほぼ同時に掛ける。
(間に合え!)
ディオンはゆっくりと落下する王女を前のめりになって捕まえた。
『メイシェル姫、ご無事で良かった……』
守り切った安堵で情けない顔になったと思う。
第五王女は国王と同じ瑠璃色の瞳で、ディオンを真っ直ぐに見つめていた。そこで気がつく。自分は彼女の騎士ではないし面識のない男だ。女性王族の近衛騎士には大体爽やかな美形が選ばれる。厳つい自分は美形とはほど遠い。
(怖がらせてしまったか?)
しかも横抱きにしている。これは不敬なのでは? ディオンはやっと追いついた護衛騎士に王女を託そうとしたが、彼女はそのままディオンにしがみ付き離れなかったので、仕方なくそのまま厩舎に帰った。
そこでは第三王子のジョイが腕組みをして、厳しい顔でメイシェルを待ち構えていた。国王に説明に行くらしかった。それは仕方ない。大事故に繋がるところだったのだ。責任の所在の追求は必須である。とにかくディオンの出番は終わりだ。
(……噂通り愛らしい姫君だったな)
たった一度、お守りしただけの王女に気に入られるとは。魔術を自身で体験したから余程印象に残ったのだろう。
ただ、国王直々に姫を救護した事にお褒めのお言葉を頂いた時、王と王太子がメイシェル姫を軽んじているように感じたのが引っかかる。公平に御子を可愛がっている王が疎んじるはずもないとは思うが。
(同盟国の次期女王の配偶者になった第二王子に関しての不安やら、第四王女が金遣いが荒いとの愚痴は、ヴェルト殿下から時折聞かされていたが、第五王女は話題にしなかった。……まさかな。嫌っているのか無関心なのか……)
第五王女の護衛魔導士となれば、学園卒業後どうしても疎遠になってしまった王太子とは公の場で会う事も増える。彼の態度を見ていれば自ずと答えも出てくるだろう。ディオンは気を引き締めた。
「ディオン、異例の出世だ。全く……どうしてこんな事に」
任命書と王族護衛であると示す徽章を携えて帰宅した嫡男を、出迎えた父は喜ぶどころか憂いていた。おそらくディオンと同じく周囲の反感を危惧しているのだろう。
嫌味や陰口だけならまだしも、業務妨害とかが普通にありそうだ。業務妨害イコール王族を危険に晒す行為、と考えられない馬鹿がいるものなのだ。王の任命に物申すのと同義であると分からない。
「……嵌められないよう留意します」
「うむ。おまえの母親も魔導士団の中で、そこまで権力は無いからな。だが俺は王宮騎士団長で国王の近衛隊長だ。何かあれば彼女共々力になろう。頼れ」
「有難うございます。父上」
もうディオンは腹を括っている。第五王女を助けた魔導士が自分で、命を預けられると考えてくれたのなら、その信頼に応えるのみだ。全力で可憐な第五王女をお守りすると心の中で誓うのだった。




