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第五王女と専属護衛魔導士  作者: 日和るか


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4/4



 翌日、第五王女メイシェルの十歳の誕生日。

 

 大広間に貴族、神殿関係者、各国の常駐大使たちを招いて、王女の公的お披露目会である。


「今後しばらく第五王女は、第三側妃の補佐をするのが公務となる」


 国王の宣言に、ちょっとした騒めきが広間を支配した。


 ケリー側妃の補佐__即ちそれは、各地を巡り豊穣祈願をする母親の正式な後継者にあたるのか? クーロラメテル神聖公国の〈聖女〉だった公女は現王との婚姻でレーソン王国に実りをもたらしている。その血筋を受け継いだ第五王女も豊穣の神聖力を持っているのか?


 初めて第五王女に会う者が殆どである。ケリー妃と同じ黒髪に、国王と同じ王族の鮮やかな瑠璃色の瞳。顔立ちは幼いながらも凜としており王によく似ていた。王子王女は十歳までは各妃の離宮で育てられ教育を受けるから、まず王城で見かけない__とは、建前である。実際はちょろちょろと王城で遊んでいたり、私的な茶話会やら交流会やらへの参加で、結構高位貴族には顔バレしていたりする。


「そして、彼らが専属護衛である」


 筆頭護衛騎士のグローデンをはじめ、結局誰もメイシェルの護衛から外れなかったのは、王のみならずメイシェル自身の希望だ。物心着く頃から側にいる彼らと別れたくなかったのである。

 最後に魔導士のディオン・マキャラバンが紹介されると、再度、場が騒ついた。


「あれはマキャラバン騎士団長の……」

「まだ魔導団に入って二年目のはず」

「護衛魔導士の資格もないのに……」

「あの実直な男も……息子可愛さに……」


 ひそひそと交わされる会話の断片はマキャラバン親子の耳にも入ってくる。まさに彼らが危惧していた通りで、不相応な抜擢は親の七光だと邪推されている。

 ディオンは王女を一瞬恨んだが、すぐに反省した。命令した王が悪い。


 不穏な空気の中、王が口を開く前にメイシェルが「ディオン卿! お久しぶりですね!」と、儀礼式の流れをぶった斬ってディオンに駆け寄った。


「以前、命を救ってくれて本当に有難うございました! ディオン卿の魔法がなければ死んでいたかもしれません! 私のわがままだけど、命を預ける護衛魔導士は()()()()()貴方以外考えられなかったの!」


 ()()()()()、を強調したメイシェルは無邪気を装っているけれど、この行動は周囲に〈護衛魔導士の選定に自分の希望を押し通した〉と印象づけた。


(状況を読むのが上手い子だ。マキャラバン令息の立場を守る気か)

 国王は心の中でそう考え、メイシェルの後押しをする事に決めた。


「ディオン・マキャラバンよ。王女はそなたの救出魔法に感激していてな。王女はわがままと言うが、きちんとそなたの為人(ひととなり)や実力を精査しての“王命”だ」


 それから若干声を張り「大事な王女を任せるに値すると私が決めた」と、彼への誹謗中傷は許さぬ姿勢を明確に示す。


 国王が若輩者の自分を守っての発言だと理解したので、ディオンは国王に深々と頭を下げた。つられてか、自分の隣にいたメイシェルまでちょこんと頭を下げたのが可笑しかった。

 



*****



「ディオン、おまえの目に姫様は今、どう映る?」


 筆頭護衛騎士のグローデンが新人護衛のディオンに問う。グローデンは体格が良く背も高い。ディオンはそんな彼と目線がほぼ同じだ。


「……闊達な方だと」


「おいおい、もっといい表現はないのか」


 そう言われても困る。ディオンがメイシェルの護衛を始めて三ヶ月が経つ。彼の中で、可憐なだけだった王女像は最早崩れている。

 今ならメイシェルに対しての、王や王太子のあやふやな発言も理解できた。


 とにかくメイシェルは活発だ。意図的に〈護衛を撒く〉のは公務をきっかけに止めたらしいが、興味があるとすぐそちらに駆けて向かってしまう。


 好奇心旺盛なのはいい事なのだろうが、王城裏庭を散策中「あら! この樹に実が生ってるのを初めて見るわ!」と一本の樹にするすると登るのを見た時は驚いた。王女は苦も無く赤い実をもぎ取ると、太枝に座り、じっと実を眺める。


「姫様! 食べてはなりませんぞ!」


 呆気に取られてメイシェルを見ていたディオンの隣で同僚となった騎士アロンが叫ぶ。まさかそんな非常識な真似は、と考えていたディオンだが、メイシェルがぎくりとしたので、アロンの危惧は的外れではないと知る。


「や、やあね、持ち帰って調べるわよ!」

 メイシェルは取ってつけたような笑顔で答えた。

 

「ディオン!」


 いきなり彼女に名を呼ばれてディオンは「はい」と応じる。


「ここから飛び降りるから! ふわっとなるの、やって!」

 魔導士の返事も待たず、立ち上がると「えいっ」と飛び降りる。


 慌ててディオンは保護魔法を操り王女を浮かせると、急いで落下地点に向かう。

 ゆっくりと落ちるメイシェルをすっぽりと腕の中に収めると、彼女はディオンの太い首に両手を回してご満悦で楽しそうに笑う。


(全く。あの浮遊感がお気に召したのか。無邪気な方だな)

 のほほんと考えるディオンは呆れ顔だ。


 違う。

 十歳の少女を舐めてはいけない。

 メイシェルはちゃっかりと彼に抱き留められるよう、計算づくの行動なのだ。


 高いところから飛び降りてディオンに受け止めてもらう。しかしそんな事を繰り返していると、果たして母親の目に留まってしまう。


(やるわね、娘)


 メイシェルの表情で、ケリー妃は彼女がディオンに横抱きをしてもらうのが意図的だと気がつく。世間でもあれは“お姫様抱っこ”と呼ばれ、少女たちの憧れらしい。庶民向けの劇団が流行らせたそうだ。


(どう見ても保護者と子供だけどね。ま、仕方ないわね。実際ディオン卿の恋愛対象にはならない歳だし)


 ケリーは過去の公女時代を思い出す。友好条約十周年記念式典とかで、クーロラメテル神聖公国を訪れたレーソン国の、当時の王太子ロビットは美しい青年だった。国教である豊穣神を祀る聖神殿で聖女として彼に会った時、こんな素敵な男性がいるんだ、と少女らしく頬を赤らめた。


 この時、ケリーは対談で更に彼に好感を持ち、『貴方の妃になる方が羨ましい』だの『このまま私は公国に縛られて生涯を終えるのでしょうね』などと、社交辞令より踏み込んだ発言をして寂しそうに微笑んだ。積極的に狙った訳ではないけれど結局それが布石となり、半年後彼に求婚される。父親の大公が降嫁先に考えていたのは、敏腕政治家である年の離れた侯爵の後妻だったため、ケリーは逃げたかったのである。


 自身の父親も数人の側室を抱えていたため、第三側妃として迎えられる事に抵抗は無く、『我が国の聖女を第三側妃になどと』と渋る大公に『側室だけでなく平民の妾まで数人抱えた貴方がそれをおっしゃいますの?』と冷たく返し、黙らせた。

 

 ケリー妃が天真爛漫なのは間違いないけれど、それでも打算的な一面もある。邪気なく笑う娘だって、そうだと母親は理解している。


「少々、あやつはマキャラバンに懐きすぎではないか?」

 

 国王はメイシェルが、他の護衛たちよりディオンを側に置いているように見えて渋い顔をする。


「ふふ、()()()()()、ね……」


 父親の目には単純にそう映るだけなのだろう。


「心配いりませんよ。年頃になれば恥ずかしくなって態度を改めるでしょう」


 今はまだいい。彼に幼い想いをぶつけるだけで。しかしそのうちこれでは駄目だと思い知るだろう。


(こんな接触は子供扱いから抜け出せないわ)


 それに、二十歳を過ぎた彼にはそろそろ縁談が本格化する頃だ。きっとメイシェルは失恋する。それも仕方ない。


(初恋は実らないと言うものね)


 恋らしい恋をしなかったケリーは他人事のように考える。夫を選んだのは好ましく思ったのも事実だが、何より父親の言いなりになりたくないし、国外に連れ出してくれるからだった。


 そんな彼女にとって、娘の淡い恋はただ微笑ましいだけなのである。




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