十三 何が起きていたのか。
「敵新型機は、Tシリーズと同等の性能を有しており、操縦者の技量も卓越していました。トライツヴァイの大破という代償はありましたが、大きな戦果と言えるでしょう」
「ツヴァイの修理に関しては、思ったほど時間はかからないでしょう。飛ばされた手足も破壊されたと言うより切断されたものです。本体の機能は完全に生きていましたので、飛ばされた部分を回収してなんとか直しますよ」
宮司が補足した。もちろん回収に向かった宮司の部隊が回収するのはツヴァイの手足だけではない。敵が残していったもの、そして無理がなければ、敵機本体も回収する算段であった。
「あの敵は、どうなったんですか……?」
トモミがそっと手を上げて、大榊に尋ねた。
「ツヴァイのおかげでなんとか落とすことが出来た。まさかの時のために大榊のヘリに装備していたLEPが役に立ったよ」
宮司があごを撫でながら答えた。
「LEP……?」
「コンデンサを搭載した小型デバイスで、ごく小規模に限定された電磁パルスを発生させるんだ。相手の電子機器を焼いちゃうわけだな。ただし、このデバイスを打ち込んでタイミングよくパルスを発生させるには、かなり接近しなきゃならない。つまり、敵の足を止めなきゃならないわけだ。
圧倒的に敵の方が機動力が上だったから使えなかったんだが、一か八かで飛び込んでみたら、ツヴァイが相手の動きを封じてくれてな。それでうまくいったってわけなんだが」
宮司はそこまで言うと言葉を切ってイサオに顔を向けた。
「ツヴァイはあの時、三基のARコンのうち一基しか生きていなかったはずだよな? 一体どうしてあんなことが出来たんだ?」
「トライツヴァイのジェネレーターには秘密があったんですよ」
イサオの代わりにセリナが口を開いた。
「システム上では、EDBモードと記載されていました。イクセスドライブ・ブレイクスルー。過剰稼動をさらに突破するという意味合いだと思います」
「ふうむ。それで一時的に飛躍的な高出力でARコンを使えた、というわけか。イサオはそれを知ってたんだな」
宮司は感心して腕組みをした。
「いえ、俺は知りませんでした」
イサオがあっさり答えると、トモミは驚いてイサオを見つめた。
「え? でもあの時、あとは何とかするって……」
トモミはあの時イサオが発した、自信に満ちた声を思い出していた。なんの勝算もなく、あてもなく、あんな声が出せるものなのだろうか。
「何とかするって思ってたよ。出来るとも思ってた。
トライアインには、GコンとIコン、そしてあの翼があるだろ?
ドライにはGコンとPコン、そして電子戦の力がある。
ツヴァイだけ、GコンとARコンだけなんてわけないと思ったんだ。根拠としては弱いかも知れないけど、俺はそう信じた。
そしたら、やっぱりあったんだ。セリナさんが見つけてくれた」
イサオの語り口は不器用だった。トライツヴァイを大破させられた事に対する責任感をはじめ、複雑な思いがあるのだろう。
トモミは何とかしてイサオの心の助けになりたいと思った。が、かける言葉が見つからない。
「ともあれ、みんな無事で良かった。Tシリーズの事も、どんどんわかって来ているし、戦い方も良くなっていくだろう。鷹城さんがこっちにいてくれれば、もっとやりやすいんだがなぁ」
宮司はそう言って笑った。
イサオにとって、それは笑い話ではなかった。もっとうまく戦えるようにならなくてはならない。武装だって貧弱だ。今のツヴァイと自分の力では、守られるばかりじゃないか。
イサオは唇をきゅっと噛み締めた。
「では最後に、辞令を読み上げる。既に端末で確認してもらえていると思うが、通常は口頭での発令が先なものでね。作戦行動中でできなかった口頭発令を、今行う。形式張っていると思うかも知れんが、まぁ我慢してくれ。では、大榊司令官、頼む」
五十畑が言った。会議は終わりに近づいていた。
大榊は立ち上がり、端末を注意深く確認しながら一人一人に辞令を発令した。
「なお、今回の特措法により、Tシリーズパイロットはプライバシー保護の観点より全てコードネームで呼称します。
また、軍属としての全ての権利を有し、ライゾウを除く五名は航空参尉扱い、ライゾウは航空弐尉扱いとして処遇されます。また、ハユには作戦参謀としての役割を兼務してもらう事になります。よろしいですか?」
拝命の仕方などわからず困惑気味のイサオ達に、宮司が笑った。
「そんなに固っ苦しくなくていい。軍人、ではなくてあくまで軍属だし。ですよね、空将補?」
五十畑が大きくうなずき、スクリーンの中のトップ達も笑顔を見せた。
「わかりました。がんばります」
代表してハユが言うと、宮司がとろけそうな笑顔になった。可愛くて仕方のない姪っ子にデレデレの叔父さん、といった図だ。
「あの……、私が弐尉扱いというのがどうも……」
ライゾウが申し訳なさそうに手を上げた。
「私も皆さんと同じでよいのではないでしょうか」
これはライゾウの本音でもあった。何故同じTシリーズのメンバー内に階級差があるのか。まさかリーダーというわけではないだろうが、チームをまとめるような力も、人望も、自分は持ち合わせていない。誰もが一目置いているという事なら、ハユの方が適任であろう。作戦参謀を兼務するという実力からしても間違いないのではないか。
「いえ、これまでの皆さんを見てきて、適切に判断しました。もちろん拒否する事は出来ますが、私はライゾウに、チームの精神的拠り所となってもらいたいと考えています」
大榊は明快に述べた。
「このチームには若いメンバーが多い。ですから、引っ張っていく存在より、むしろ後ろから支えてくれる存在が必要なんです。何も気負う必要はありませんよ。あなたなら出来ます」
トモミは思わず大きくうなずいていた。その拍子に一筋、涙がこぼれた。トモミは思いがけずにこぼれた涙に、自分で驚いた。
――そうか、私はこう感じていたんだ。
自分の中にあった言葉にならない想いが、大榊の口から明快な言葉となって発せられた、それに呼応した涙であった。




