十四 そして、始まる。
「別にいいんじゃねーの? もらえるもんなら受けとけよ、おっさ……ライゾウさんよ」
イツキがめんどくさそうに言った。ハユも、セリナも、そしてトモミも、ライゾウに向かってうなずいた。
「もちろん俺もそれが一番いいと思います。ライゾウさん」
イサオは少し複雑な思いで、だが本気でそう言った。
昨日の戦いで、あれほどパニックに陥っていたトモミ。彼女はライゾウが倒れてからシミュレーションの成績も落ちていたそうだ。
だが、まだ身体もまともに動かせないライゾウが戦線に復帰したとたん、トモミの動きが変わったのをイサオはその目で見た。あれが精神的な拠り所というものの力なんだったら、自分もその力を手に入れたい。
イサオは、この冴えないしょぼくれた中年に、興味を覚えていた。
「するとだ。俺達は、金富参尉とは同じ階級ってわけだな。ライゾウのおっさんは金富参尉より上官だって事になる。なんかおもしれえ事になったな」
からかうようなイツキに、金富は一瞬険しい目つきになったが、すぐに笑顔に戻した。
「そうだなぁ。これからは同じ階級同士、仲良くしようぜ、イツキ参尉」
冗談めかした言葉と大げさな身振り。宮司は金富にちらっと視線を走らせて、咳払いをした。
「最後に、メンバーのサポートに回ってもらっていた学生諸君だが」
大榊が稲本達に視線を送ると、六人の学生達は立ち上がって気をつけの姿勢を取った。
「諸君には、今後、彼らの正式な副官としての任についてもらう。学生という身分でもあるため、階級は据え置くことになるが、これまで以上のサポートをよろしく頼む」
「謹んで、拝命いたします!」
六人は、きれいに揃った返事と共に敬礼した。
「しかし、俺はTシリーズにはまだまだ秘密の二つや三つ、あるんじゃないかって睨んでいるんだよ。ハユちゃん、イツキ、どう思う?」
会議が一通り終了し、空気がほぐれた所で宮司が言った。とは言っても五十畑をはじめ、スクリーンに映っている総理以下政府の面々もまだ残っている。かなり異例のことではあったが、岐部総理がこの件に関してかなり力を入れている事の証左でもあった。
「なんで俺なんだよ、宮司のおっさ……宮司の旦那」
イツキが迷った末に口にした呼び名に、ハユが思わず声を出して笑った。似合う。
宮司は面食らって目を白黒させた。
「旦那かよ。まぁいっか。
いや、お前はずっとT3-1にこもって研究してたろ? 少なくともドライの性能に関しては一番詳しいだろうと思ってな」
宮司は、イツキに一目置いているところがあった。ハユに対する態度は全く許せるものではないが、どこかしら憎めないものを感じていたのだ。
少なくとも、トライドライに対する探究心に於いては、見るべきものがある。
そんな宮司の言葉に、ハユも同様の期待を感じているようだった。
「そうですね。私もまだ何かあると思いたいんですけど、見つけられてはいません。イツキさんなら……」
「ねえよ、そんなもん。少なくとも俺は見つけてねえ」
イツキはハユを遮るように言った。やはり開発者である鷹城明の協力を得ない事には、どうしようもないのかも知れなかった。
「そうか……。しかし、昨日の戦いでアインが見せていた動きやら、あの辺も何かありそうなんだよなぁ。トモミちゃんは何か気付いた事、あるんじゃないか?」
「いえ、特に何も……」
トモミは少し考えて言った。
確かに、昨日の戦いでトモミは二度、不思議な感覚を体験している。突然訪れた、あの透明な感覚。
あの時、自分には敵のやる事がはっきり見えていた。敵にしてみれば、必勝の攻撃だったに違いない。だが、自分にはそれが見えていた。見て敵の動きを認識し、把握した上でそれを回避したのだ。
アインに残された戦闘データを見ても、自分があり得ないスピードでアインを操縦していた事がわかる。だが、それをやってのけたという実感は、ない。
あの奇妙な感覚は、トライアインに隠された秘密の一つなのだろうか。
しかし、あまりにも荒唐無稽な話だった。まだ人に話す気にはなれなかった。
「そうかぁ。やっぱり、開発者の協力がないときついよなぁ」
宮司が大げさにため息をついた時、司令室のドアが激しくノックされた。
「情報小隊壱曹、相澤であります! 緊急の報告のため、失礼します!」
そう名乗ってドアを開いたのは、中年に差し掛かった下士官である。一歩司令室に入ると踵を揃えて敬礼し、報告を開始した。
「今回の戦闘で得た鹵獲物を分析した所、敵からのメッセージと思われる記録デバイスが発見されました。その内容について、是非上層部のご判断を頂きたく、こちらにお持ちしました!」
室内の空気がさっと変わった。スクリーン内の総理大臣達の表情にも緊張が走っている。
「そのまま、ここでも見られる形で再生できますか?」
岐部総理が口を開いた。ここまで、飽くまで口を出さずに報告を聞いていた総理であったが、この相澤壱曹の報告には緊急性を感じたのだろう。
「情報漏洩の懸念はありません。全て再チェック済みです」
金富がすかさず言った。こういう対応にはソツがない。既に基地内の全てを再チェックし、水も漏らさぬ情報保護体制を再構築していた。
「よし、流せ」
五十畑の命令で、相澤壱曹は司令室の再生装置に記録デバイスをセットした。
「あー、ゴホン。えーと。日本の皆さん。こんにちは。いや、こんばんはかな?
私は日本の地下にある国家、ヤマトの国家元首、鷹城明です」
場の空気が和んだ。Tシリーズの開発者でもある鷹城明だ。軟禁状態であったはずだが、自由を取り戻したらしい。鷹城の無事な姿を見て、ハユがほっとした表情を見せた。
「今回、このようなメッセージを出したのは、ちょっとね、大事な事を伝えるためです。もう早速言いますので、よく聞いてて下さい。
えー本日。そっちのカレンダーでは6月6日かな。本日付けを以って、我が国ヤマトは日本国に宣戦を布告します。
もう一度言いますよ。本日付けで、我が国ヤマトは、日本国へ宣戦布告します」
和やかな空気が一瞬にして凍りついた。
宣戦布告。
それは、日本が明らかな戦争状態に入った事を意味していた。
【次回予告】
地底国家ヤマトが日本に宣戦を布告した。
筑波基地を取り戻したばかりのTシリーズメンバーに、
新たな試練が襲い掛かる。
日本全土を襲う戦争の恐怖。
しかしハユだけは、ヤマトの元首鷹城明を信じ続けていた。
次回
第十一話 「闇への序曲」




