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蒼翼の獣戦機トライセイバー~崩壊から始まる、希望の蒼き翼~  作者: 硫化鉄
    第十話  「筑波奪還作戦・3」

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七 駆け引き。

 Iコンによる機動性能は、あれだけ脅威だった紅い敵機の機動力を圧倒的に凌駕していた。突出した性能を持つとは言え、飽くまで動きたい方向に加速するという通常の機動原理である敵機に対し、トライアインは「加速」というプロセスを伴わない「慣性系の直接移行」という、根本的に異なる機動原理を持つ。


 トモミは敵がトライアインをロストした事が直感的にわかった。


 ――ライゾウさんに、負担をかけないようにしなきゃ……!


 トモミはモニタで状況を確認すると、大榊機、トライツヴァイ、トライドライの位置関係をマークした。敵機は既に高速起動を開始している。こちら側に照準を絞らせないようにしながら、再びトライアインをキャッチしようという動きだ。


 かまうもんか、とトモミは思った。キャッチされたからって、それが何だって言うの?


 機動性は合体前よりも遥かに上がっているのに、トモミは恐怖を感じずに制御していた。気持ちが安定しているのだ。あれほど巨大に、禍々しく見えていた敵機が、今は等身大の相手に見えていた。


 筑波基地に、行かせるもんか。


 トライツヴァイではイサオくんとセリナさんが敵機を引きつけようとしているし、イツキさんとハユちゃんのトライドライは湖水の中を移動している。このまま地中を通って筑波基地に向かうのだろう。既に湖底から地中へ潜っているかも知れない。


 トモミはトライアインの胴体下部に装備されている荷電粒子レーザー砲で敵機を牽制しながら隙を狙っていた。荷電粒子レーザー砲はT1-2側に装備されていたものだが、合体後はトモミにも制御することができる。


 だが、トモミは荷電粒子レーザーが決定的な打撃を与えられるとは思っていなかった。既に敵機は何発も被弾している。だが全く意に介さず戦闘を続けているではないか。


 最終的には接近戦だという覚悟が既にできていた。大質量と鋭い切っ先を持つこの翼で、敵機を葬るのだ。


 ハユの分析によれば、敵機は無人機である。ならば何の遠慮もいらない。いやむしろ、遠慮できるような余裕はないのだ。激突時の衝撃は、Iコンが消してくれるはずだ。ライゾウの身体に負担はかかるまい。


 トモミは一瞬ライゾウを振り返ると、決意を込めて操縦桿を握りなおした。





 その頃、ハユはトモミの想像の一歩先を行っていた。


 トライドライはトモミの想像通り、土浦の地下を筑波方面に進んでいる。基地内部の分析を進めながら、イツキが習志野から派遣された地上部隊と連絡をつけていた。


 余裕のできたトライドライのリソースを使い、ハユは敵機の通信状況を確認していた。無人機をどこかで遠隔操縦しているのなら、ジャミングをかけてしまえば敵機はただの人形と化すはずだ。


「トモミさん! 敵機のコントロールを遮断してみます!」


「う、うん、わかった、お願い!」


 トモミの声がトライドライのコクピットに響く。

 ハユは傍受した敵機の帯域全てに対し、妨害電磁波を放出した。






 凄まじいノイズ。彼は一瞬にしてその全てをカットオフすると機体を鳥型の特殊戦闘機に向けた。


 こっちの通信を遮断したところでどうするつもりだ。まさか、あいつらはこの機体を遠隔操作の無人機かなんかと勘違いしてやがるのか。



 ナメられたもんだな。



 通信は、あのクソ忌々しいノイズでかき消されている。ならば。

 彼は外部スピーカーを使い、悪魔どもを絶望させる言葉を放った。


「悪魔ども! てめえらが何を勘違いしてんのか知らねえが、俺はここにいんだよ!」


 声と共に急速にトライアインに接近した彼は、動く右手のヴァリアブル・ダガーを振り上げた。






「う、うそっ!?」


 敵機の動きをモニタ―していたハユが思わず声を上げた。ハユにしては珍しい事だった。完全に推測が外れる事など、ここ数年経験していなかったのだ。


 あり得ない、とハユは思った。あんな高速回転に耐えて正確に行動できる人間なんかいるはずがない。神経の伝達速度が対応できるわけはないのだ。

 なら、どうして。どうして敵機は意思を持って動く事ができるのだ。


 コクピットにトモミの悲鳴が聞こえた。間一髪かわしたようだが、また心理的に押され始めているのは明らかだった。敵の行動が封じられるという期待と、そこから来る油断。それが裏切られた事で、またぞろ恐怖が舞い戻って来たのだろう。


 どうしよう、私のせいだ。私が余計な事を言ったせいで。


「大丈夫か! 倉……」


 イサオの声が響く。


「イサオくん!」


 すがるようなトモミの声。


 パニックを起こし、何もできないでいるハユ。モニタ上では、トライアインを示す光点がトライツヴァイに接近していた。






「どういうことなんだ、こりゃあ……」


 宮司は少し青ざめていた。あの敵機が有人機ではありえないというハユの分析は、宮司も正しいと確信していた。だが、今目の前で展開されている現実は違う。

 通信を遮断されてもなお意思を持って機動しているという事は、パイロットが乗って操縦している証拠だ。だとしたら、そのパイロットはどのような訓練を受けた超人なのか。


 一方の大榊は戦況を冷静に見つめていた。敵機の意思、目的を把握して行動を予測し、対応する。まずはそれが第一だった。


 大榊がそのように切り替えることができるのは、後方で支援する整備中隊に所属する宮司と違い、最前線に出る部隊に所属してきた経験と鍛錬の賜物だろう。


 トライアインがトライツヴァイの上空に移動するのを見て、大榊はいやな予感がした。これで敵機が接近して来れば、トライツヴァイの引力で捉えようという作戦なのだろう。敵機がTシリーズの殲滅に目的を変更しているのは明白だったし、白兵戦に拘っている敵に対しては有効だと言える。


 が、大榊の予感は急速に強まっていった。続く敵機の動きに予感は疑念に変わり、速やかに確信に変わった。


「アイン! ツヴァイ! 固まるな! 散開しろ!」



 しかし、その指示は一歩遅かった。






 やはり、シロートだ。


 彼は確信していた。


 あの一言で、ここまで無様にうろたえるとはな。あてがはずれただけでパニックか。

 鳥型が人型の上に引いていった。なるほど。おびき寄せて引っ張ろうってわけか。小ざかしい。


 彼は一定の距離を保ったまま機体を加速し、円を描いて翔んだ。

 何かに気づいたのか、それとも指示でも出たのか、鳥型がその場を離れようという動きを見せたが。


「おせえよ! どシロートが!」


 既に右手はバリアブル・ダガーをCPLコンパチブルカノンに持ち替えていた。迷わずフル・バーストモードをセレクトする。


「まとめて落ちやがれ!」



 一気に上昇し、二機へ向けて荷電粒子レーザーを掃射した。

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