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蒼翼の獣戦機トライセイバー~崩壊から始まる、希望の蒼き翼~  作者: 硫化鉄
    第九話  「筑波奪還作戦・2」

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十一 真意。

「華夕ちゃん! 逃げろ!」


 イサオの声が遠くで響き、敵機の降下を阻止するようにビームが横切った。一瞬動きを止める敵機に、トライツヴァイが体当たりした。距離の離れた敵機にビーム砲を撃つが、嘲るように全て回避される。


「くそ、自由に動かれちゃ……」


 敵機のスピードは完全にトライツヴァイを凌駕していた。トライツヴァイの放つビームを回避しながら接近し、ヴァリアブル・ダガーで斬りつける。必死で防いではいるが、勝負は目に見えていた。

 ただでさえ一基減ってしまっているARコンが、Gコンに出力を回すことで充分に力を発揮できない状態なのだ。


 華夕は戦況を正確に読んでいた。自分でも驚くほど冷静だった。


「大榊さん、聞こえますか?」


 華夕は落ち着いた声で大榊をコールした。


「ごめんなさい、完全に分析は終えられませんでした。今までの解析結果をまとめてそちらに転送します」


「華夕ちゃん、データなんかいい、すぐにここから離脱するんだ!」


 宮司の声は怒声に近い。


「ダメですよ、宮司さん。筑波基地の奪還にはどうしても必要なんです。今ここにいる敵が強いなら、なおさら基地に合流させちゃダメなんです。

 ここから私、この紅い敵のデータの収集をします。攻略に……」


 その時、華夕の言葉を遮るように、強い舌打ちが響いた。そして湖面からビーム砲が発射され、紅翼の敵機の右足を貫いた。




「なんなんだ……っ! もう一匹、こんな至近距離にいたってのか……!」


 突然現れた、敵を表す光点。さらに右足への被弾。だが彼の苛立ちは完全に消え去っていた。もうあの不快な違和感はない。全ての敵は目の前にある。把握できている。


 あとは、ただ狩るだけだ。



 片腕片足を失ってもなお、彼は狩りへの期待に心躍らせていた。






「……イライラすんだよ、マジで」


 真島一樹の声が大きく響いた。華夕の身体が反射的に硬直する。


「ガキがこんなところにのこのこ出てきやがって……目障りなんだよ」


 ビームを発射したT3-1はすぐさま湖水に潜行し、T3-2の脇をパスしていった。


「軍人さん、いや、大榊壱尉、俺にも辞令、寄越してくれ」


「わかった。真島君、感謝する」


 思わず怒鳴りつけそうになる宮司をなだめるように制して、大榊は手早く辞令を送信した。

 一樹はすぐに送られてきた辞令を認証した。コードネーム【イツキ】として登録される。


「……さてと。

 おいガキ、モニタも通信も全部切れ」


 思わず耳を疑う言葉。外界からの情報を全て遮断すれば、もし敵が自分に向かってきていたとしてもそれを察知する術はない。


「真島! お前……」


 大榊機からの援護でなんとか距離を保ち、唯一の武装である荷電粒子レーザー砲で応戦しながらも、イサオはイツキの言葉を聞き流せなかった。


「コードネーム【イツキ】だ。イツキさんと呼べよ、イサオ」


 いつもの人を小馬鹿にするような口調。 


「イサオ君! 敵機に集中して!」


 セリナが鋭い声でイサオを引き戻す。一瞬たりとも気を抜ける状況ではないのだ。戦況はトライツヴァイには不利だった。出来る事なら湖上から地上へ誘導し、着地して戦いたいところだった。敵機の強力なGコンによる機動力に対応するには、トライツヴァイのGコンを切り、ARコンをフルパワーで稼動する必要があった。


「イツキ君。あんたが何を考えてるか知らないけど、思い通りには……」

「……わかりました」


 セリナの言葉を遮るように華夕の声が響いた。


「華夕ちゃん!」


 叫ぶセリナ。華夕はセリナが戦っている姿をモニタ越しに眺めて、覚悟を決めるように息を吐いた。


 華夕は外界の全てを映し出しているシームレスモニタをカットオフした。全てがかき消え、コクピット内は暗くなった。筑波基地の解析を続けているコンピュータからのメッセージがコンソールパネルに表示される、そのわずかな光だけがコクピット内を照らしている。


 これで通信を切れば、一人ぼっちだ。静かで暗いところに閉じ込められるんだ。


 だが、華夕に恐怖はなかった。なぜならば。

 ついさっき言ったとおり、華夕にはわかっていたからだ。


「おいガキ! とっとと通信を切れ!

 てめえみてえなガキは、おとなしく守られてりゃあいいんだ!」


 イツキの言葉が響いた。華夕はコンソールパネルに右手を当てた。もう、その目に怯えはなかった。


「コードネーム【ハユ】です! ハユと呼んで下さいね、イツキさん」


 イツキがイサオに言った言葉をそっくりそのまま返すように言って、ハユは通信を切った。イツキの舌打ちが響いたが、すでに通信を切っているハユには届かない。

 宮司がニヤリと笑って大榊の肩を叩いた。大榊は同時にハユにも辞令を送信していたのだ。当然といえば当然だったが、宮司にとっては溜飲を下げる展開だ。





 T3-2のコクピット内は静寂と暗闇が支配していた。通信、索敵モニタ、そしてGコンをカットしたハユには、次にやる事がはっきりとわかっていた。


「……合体シークェンス、起動」


 そっと右手をコンソールに当てる。筑波基地の解析を継続したまま、T3-2の合体シークェンスが起動した。





 ハユ達の合体シークェンスが起動し、トライドライへドッキングするのを、イサオは信じられない思いで見ていた。

 イツキが合体するつもりでいた事もさることながら、ハユがそれを正確に理解し、従った事にも驚きを禁じ得ない。

 モニタや通信を切らせ、戦闘から除外する気だったのではないのか。

 ハユにしても、周囲の状況を知る手段を全てカットする事を受け入れた理由がわからなかった。もしイツキが合体シークェンスを起動させなければ……。


「ありがとうございます、イツキさん。助かりました」


 イサオの疑問は、ハユの言葉で遮られた。


「後は好きにやれ。俺も勝手にやらせてもらう」


 トライドライはそのまま着水し、霞ヶ浦に沈んでいく。


「なるほどね。そういう事か」


 セリナが納得してつぶやいたが、イサオにはわからない。


「モニタと通信を切らせたのは、筑波基地の解析にまわしているリソースをカットせずに、合体シークェンスを起動させるリソースを確保するためだったのよ。

 任務を最優先するハユちゃんの性格をわかった上で、最善の策を取ったって事。つまり……最初からイツキくんはハユちゃんを守りに来たってわけね」


 イサオには、にわかには信じがたかった。しかし、感情的なわだかまりがあるとは言え、セリナのその解釈に矛盾がない事は認めないわけにはいかなかった。


「……うるせえよ、おば……セリナ」


 イツキの声がコクピットに響く。セリナはくすっと笑い、イサオは操縦桿を握る手に力をこめた。

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