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蒼翼の獣戦機トライセイバー~崩壊から始まる、希望の蒼き翼~  作者: 硫化鉄
    第九話  「筑波奪還作戦・2」

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三 心。

「お答えする前に、委員ご発言の中に完全に間違った発言がございましたので、訂正を求めたいと思います」


 岐部総理の声や目から、強い憤りが溢れていた。


「余計なことを言わずに答弁しろ!」


 野次が響いた。それを皮切りに、野次が飛び交うお決まりの流れだった。


 しかし。


「少年は犯罪者ではありません。訂正を求めます。彼はあくまで容疑者であって、被告人ですらありません。それを犯罪者と決め付ける事は、重大な人権侵害です。速やかに撤回、訂正をしていただきたい」


 岐部総理の毅然とした言葉に、委員会室は再び静まり返った。


「私の質問はですね……」

「まだ指名をしておりません」


 議事を進行している防衛警備委員長が、女性議員の言葉を遮った。


「委員長からも申し上げます。先ほどの質問内における、当該少年を犯罪者とした発言につきまして、事実と全く異なることは明白です。撤回、訂正を求めます。谷先みずき君」


 指名された女性議員の顔色は青ざめていた。


「……当該少年を犯罪者と申し上げたのは不適切でした。撤回させていただきます」


「不適切、ではなく、事実に反する。つまり虚偽ですので、きちんとその旨、正確にご発言ください。委員会の品位、信頼性に重大な疑念が生ずることになります。谷先みずき君」


 委員長はさらに発言を求めた。このシーンはライブ映像で放送されている。女性議員はカメラに背を向けて、小さく付け加えた。


「当該少年を犯罪者と申し上げたのは誤りでした。お詫びして撤回いたします」


 彼女の声は震えていた。その目に宿るのは、屈辱と怒りだ。だが、今は何も言う言葉が見つからなかった。


「では、答弁をしてください。岐部内閣総理大臣」


 委員長の指名を受け、岐部総理大臣が立ち上がった。


「では、ご答弁申し上げます。当該少年を委員会に招致することにつきましては、国会の裁定に従うべきだろうと、こう思うわけであります。また、委員ご指摘の、当該少年の言葉を、という事においてはですね、私自身、警察立会いの下で、少年と、そのご両親にお会いしてまいりました。もちろん、ご協力いただいている他の民間人の方、そしてその保護者の方々にもお会いしたわけでございます。現在彼らが置かれている状況をご説明し、これ以降のご協力についてはいつでも拒否ができる事、その如何に関わらず、彼らの身分や権利は保証させていただくことをご説明いたしました」


 そんなことはどうでもいい、スタンドプレーだ、という野次が飛んだ。だが、これまでのような湧きかえるような野次ではなく、ぽつん、ぽつんとそれは響いた。

 野次を発した議員はすぐに口をつぐんでしまった。あまりにも目立つ。自分の言葉がはっきりと聞き取れてしまう。彼らはそれを恐れるかのように黙り込んでいた。


「その中におきまして、当該少年が語ったことを記録してまいりましたので、ここで開示したいと思います。もちろんご本人の同意も、ご両親の同意も、また警察からの許可も得ております。裁判に影響はなく、少年本人に何らかの圧力が働いて言わせたものではない事を認めていただいたという事でございます」


 傍聴席の被害者達が微かにざわめいた。参考人の信太義雄も苦虫をかみつぶした表情で、岐部総理を睨みつけている。


「彼の言葉の記録を原文のまま読み上げますので、ご了承ください」


 岐部内閣総理大臣は、一つ息を吸って、記録資料を読み上げ始めた。



「俺は、命令があるまで攻撃しちゃいけないと言われていたのに、自分の判断で攻撃を開始しました。俺としては、いろいろ考えて、理由があって攻撃したんですけど、そんな事は関係ない。俺が判断をしたこと自体が間違いでした」


 それは勇夫が語った生の言葉だった。岐部は前日、朝霞分屯基地を出る前、最後に勇夫と面会をしたのである。その面会は全て尾藤警部補が立会い、詳細に記録が取られていた。


「そのせいで、家が壊されてしまった人、ケガをしてしまった人には、なんて謝ればいいかわかりません。もし亡くなった人がいたら取返しつかないです。だから、俺は、その罪を償うつもりです。

 俺も人を傷つけたり殺したりしたくないです。敵だって殺したくない。ここにいるみんなにだって、そんな事はしてほしくないですよ。自分が巻き込まれて死ぬのもまっぴらだ。


 でもそれは、こないだケガした人だって、家を壊された人だって同じなんだ。だから、これからこの戦いに巻き込まれる人をこれ以上出しちゃいけないって俺は思います」


「総理、時間稼ぎはやめて質問に……」


 割って入るように谷先議員が言いかけた時、思いもかけない方向からヤジが飛んだ。


「最後まで聞かせろ!」

「少年の言葉を聞かせろと言ったのはあんたでしょ!」


 信じられぬという表情で振り返る谷先議員。野次を飛ばしたのは傍聴席の被害者たちだ。


「総理答弁中です。不規則発言はお控えください。では、岐部内閣総理大臣、続けてください」


 委員長を睨みつける谷先議員を涼しい顔で無視し、委員長は岐部総理に答弁を促した。



「では、続けます。


 これからこの戦いに巻き込まれる人をこれ以上出しちゃいけないって俺は思います。

 戦いが長引いたり、不利な条件で戦ったりしたら被害や犠牲者が増えてしまう。それはいけない事なんだ。でも、たくさんの犠牲を防ぐために少ない犠牲で済ませればいい、そう言う事じゃない。犠牲になった人にとっては、他の大きな犠牲を防ぐためなんて関係ない。その事をちゃんと考えなきゃいけないんだ」



 それは勇夫の覚悟、想いそのものだった。青臭い綺麗事だと切り捨てることは簡単だ。だが、心が血を流し、自己憐憫を捨てた者が語る重みのようなものが、聞く者の心を揺さぶっていた。


 静まり返った委員会室に、岐部総理の声が響く。



「一人でも人が死なない方法をやるべきなんだ。俺に何ができるかなんてわかんないけど、でも【Tシリーズ】が敵に対して有効なら、少しでも戦いを早く終わらせるのを手伝えると思う。


 ……この【Tシリーズ】と言うのは、協力者の方々が運用下さっている機動兵器の事でございます」



 岐部総理は一旦記録から目を離し、補足説明を加えた。異論を挟む者、岐部の言葉を遮る者はない。岐部総理による、勇夫の言葉の代読は続いた。



「俺は、一番人が死ななくてすむ事をやる。これから何人も人を殺すような敵が出てきたら、そいつの戦う力を奪う。それでも人を殺そうとしたら、動けなくする。それでもだめだったら、その時は、俺はそいつを、倒す。

 最善が無理なら、次善。その時できる、一番人が死ななくてすむ方法を俺はやる。


 それでもし敵を殺したり、誰かを巻き込んでしまったりしたら、俺はその後苦しむと思います。でも、それでも俺はそれを背負って戦うつもりです。

 出来るだけ人が死なない、出来るだけ人が人を殺さない、そのために俺は戦いたいんです。俺が戦うことで死ぬ人が減るんなら、俺は戦います。だから、残ったんです」



 岐部総理大臣が勇夫の言葉を読み終えると、委員会室は沈黙に包まれた。


 それぞれが、それぞれの想いを心に秘めた沈黙。



 風向きが、変わり始めていた。

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