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蒼翼の獣戦機トライセイバー~崩壊から始まる、希望の蒼き翼~  作者: 硫化鉄
    第八話  「筑波奪還作戦」

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十四 作戦会議・2

「……それにしても空将補。随分陸将と連絡を取ってらっしゃるんですねぇ」


 空気を和ませようとするかのように、宮司が五十畑に言った。

 櫻森(さくらもり)美咲(みさき)陸将。彼女が陸将に着任した時には、【美貌の将軍】として話題になったものだ。才覚に溢れ、実力についても誰もが認める才媛だ。一見、笑顔が魅力的で柔和な印象の女性だが、習志野の精鋭部隊をさらに磨き上げた厳しさも持ち合わせている。年齢は、五十畑よりも5~6歳は若かったはずだ。


「そ、それは。コホン。この非常事態である現況において、軍横断的に情報交換し、緊密に連絡を取ることは、当然のことだ。他意はない。宮司壱尉、他意はない」


 明らかに動揺していた。その姿を見て、華夕は、この自分の両親よりも年上の五十畑を、可愛いと思った。


「そりゃあそうでしょうとも。お陰で私達も思う存分働けるんですからね。感謝しておりますよ」


 宮司が少しおどけた口調で言う。五十畑は苦虫を噛み潰したような、しかしどこか照れくささを帯びた表情で腕組みをした。


「奪還作戦の際には、【トライドライ】またはT3-2の出動を想定する他はない。前線には近づかず、リアルタイムで基地内の情報を収集してもらう事になる。我々はそれを死守する事が最優先任務という事だな」


 五十畑は仏頂面のまま言った。


「あの、そのことについてなんですけど」


 華夕が口を開いた。


「これは、ここだけの極秘でお願いしたいのですが、私、明日にでも筑波へ情報収集に行こうと思います」


「華夕ちゃん、それは……!」


 宮司が思わず身を乗り出す。


「内部の調査だけではなくて、基地のシステムそのものを調べたいんです。もしかしたら、基地機能を一時的に停止させられるかも知れません。そしたら、習志野の人もここの人達も、安全に基地を取り戻す事ができるでしょう?」


 五十畑が感心したようにうーんと唸った。


「強制停止コマンドを直接打ち込むことは【トライドライ】に合体しないと出来ないですけど、コマンドを生成して、習志野の人達に教えることは出来ると思うんです」


 大榊は、先の戦闘で敵機を強制停止させた【トライドライ】の働きを思い出していた。あのような事が、基地に対してもできるものなのか……。


「以前の基地システムのデータと、現状のデータがあれば何とかなると思います。でも、解析にかかる時間は、敵機とは比べ物にならないでしょう。ですから、作戦当日に一緒に行ったんじゃ間に合わないと思うんです」


 華夕の目は本気だった。宮司は大榊に視線を投げた。


「華夕ちゃんの護衛部隊にはうちのを何人か同乗させてくれ。俺が行きたいところだが、垣畑さんの部下のお守をしてやらなきゃいかんからな」


「ごめんなさい宮司さん。私、【トライドライ】かT3-2単独で行こうと思っています」


 申し訳なさそうに華夕が言った。


「華夕ちゃん、それはダメだ!」


 宮司が立ち上がる。


「いくらなんでも敵基地の至近に単独でなんてむちゃくちゃだ。華夕ちゃんに考えがあるのはわかる。が、こればっかりはだめだ!」


 さすがに華夕の言う事は常軌を逸している。大榊も宮司と同意見だった。出撃の目的は理解できる。しかしまだ一民間人でしかない少女が単独で敵基地周辺に出かけるなど正気の沙汰ではない。


「【トライドライ】は地下で行動する事ができるんですよ? 地下から情報収集すれば、敵に察知されないでしょうし、察知されても攻撃する事は出来ないでしょう? それに、護衛部隊の方は地下にいる【トライドライ】にはついて来られないと思います」


 華夕の指摘が正しい事は疑う余地はなかった。だがそれはあくまで【トライドライ】が使えればの話だ。真島一樹。彼が素直に協力するだろうか。


「それは確かに認めざるを得ませんが……。もし真島君の協力が得られなければ地下での行動はできないでしょう?」


 大榊としても、華夕を単独で作戦行動に出すわけには行かないと感じていた。一樹の協力が得られない場合、本当に華夕は一人で行くつもりなのだろう。いくら合理性があろうと、そんな危険な事を許して良いはずがない。


「T3-2単独では地下で行動できない事はわかっています。でも、T3-2は電子戦用の機体です。【敵】に探知される前に察知することが出来ますし、もし筑波基地に【トライドライ】と同レベルのセンサーがあったとしても、ジャミングをかける事は可能です」


 これは華夕がTシリーズについて研究を重ねている結果だ。華夕はTシリーズ全ての機体について、その性能の全てを把握しつつあった。Tシリーズを効率的に運用するために、当然必要な事だと華夕は考えていた。


「ジャミングして隠れて行くのなら、一機の方が安全性は高いです。【トライドライ】ならともかく、T3-2では複数機を隠すのは難しいので……」


 大人たちはぐうの音も出なかった。一人で敵地に行かせるわけにはいかないが、ついて行く方が結果的に彼女を危険にさらす事になる。そう言われてしまえばどうしようもない。


「どちらにしても、真島さんが協力してくれるかどうか、ですけど……」


 華夕は目を伏せた。正直、華夕は一樹が怖かった。何を考えているのか全く読めないというのもある。しかし、彼が自分に向ける、理由のわからない敵意。夢にまで出てきて心をえぐる彼の舌打ち。その全てが、華夕にとって恐怖の対象であった。

 敵意の理由がわかれば、何を考えているのかが少しでもわかれば、恐怖を感じなくてすむのかも知れなかった。だが、華夕にそれを探り出す勇気はない。


「わかりました。まずは真島君次第ということですね。真島君が拒否をした場合にどうするかはその時考えましょう。

 どちらにせよ、この件についてはここにいるメンバー以外には口外しないということでお願いします」


 その場にいた全員がうなずいた。岐部総理大臣と御殿場防警大臣が立ち上がった。


「ここで話された事は、全て私が承認しています。みなさんは思う存分、力を発揮して下さい。私達も、自分がなすべき事を確実に成し遂げます」


 岐部総理はそう言い、防警大臣とともに深々と頭を下げた。軍人達も立ち上がり、敬礼を返す。華夕も立ち上がってお辞儀をした。



 作戦会議は、終わった。

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