十三 作戦会議。
「垣畑中隊ですか。これは心強いですね」
厚木基地所属の垣畑中隊は『最強の技術屋』と呼ばれた技術部隊であった。中隊長の垣畑範継技術壱尉は「第一線で技術屋として働きたい」という強い要望で佐官への昇進を断った変わり者だ。垣畑中隊出身者には優秀な者が多く、【防衛警備軍の整備工場】とまで言われる筑波基地には垣畑中隊出身の士官が多数配属されていた。垣畑壱尉がこの作戦に協力的なのも至極当然の事であった。
「垣畑さんの三個小隊ならどえらい戦力だが……」
宮司の表情はまだ険しい。
「安心したまえ。垣畑壱尉は厚木に残るそうだ」
宮司の顔がぱっとほころんだ。
「いやぁそれなら良かった。垣畑さんうるさいからなぁ」
宮司がまたもや歯に衣着せぬ感想を吐いて、華夕を笑わせた。
磊落と言うべき宮司が唯一かしこまってしまう存在。垣畑壱尉は宮司の師匠とも言うべき存在だった。宮司もまた、垣畑中隊出身だったのである。
「空将補、航空部隊の補充と、陸上部隊の手配はいかがでしょうか」
「ヘリ部隊の増援を予定しているが、思わしくない。しかし、基地制圧に当たる地上部隊は、習志野から全面協力の打診があった。櫻森陸将の内諾もいただいている」
五十畑の答えは大榊を驚かせた。ヘリ部隊の増援が思わしくないことは予想していたし織り込み済みでもあった。しかし、陸上部隊に習志野が志願してくれていたというのは驚きであった。
「習志野ですか! それはすごい!」
宮司が思わず感嘆の声をあげた。
「習志野の参加かぁ。しかも先方から打診があるなんてなぁ。これはどえらいぞ、大榊ィ」
宮司の興奮はなかなか収まらなかった。習志野の陸上部隊は、自他共に認める防衛警備軍陸上部最強の精鋭部隊である。垣畑中隊といい習志野の精鋭部隊といい、大榊達が最高の援軍を得たのは間違いなかった。
「あとは、華夕ちゃん達が動けるかどうか、だな。ここが一番肝心なところだが」
宮司が腕組みをして渋面になった。
この数日、国会はさらに酷い有様だった。野党の質問は、立つ議員立つ議員が全て「では軍と総理の疑惑についてですが……」と切り出す。全ての野党議員がほとんど同じ内容の質問を繰り返し「同じ答弁を繰り返すな」と糾弾する。
政府提出の法案については審議をする事もなく【軍拡・徴兵法】と断じて反対のみを叫んでいた。これでは【Tシリーズ】を有効に運用する事など夢でしかない。
翌六日は上野での戦闘における被害者を参考人として招致し、野党による更なる疑惑追求が予定されていた。
「それにつきましては、私が何とかするしかありませんね」
岐部総理大臣が決意を込めた微笑を浮かべて言った。
「私や、私の内閣の生命をかけてもこの法案は成立させます。できれば、強行採決などの方法は取りたくありませんが……。
作戦に支障が出ないように、私も覚悟を決めて法案成立に全力を尽くします」
御殿場防警大臣は引き締まった表情だった。岐部総理とは違ったタイプの、固い決意の表情だ。
「私の方では、緊急措置法成立の直後に発令できるよう、具体的な省令は既に準備できております。辞令発布も含めて、即応できる状態です」
「ありがとうございます」
大榊は二人の大臣に丁寧に頭を下げた。
「作戦立案をする立場から申し上げますと、件の法律は最悪でも七日中、出来うる限り早い成立をお願い、いや、要請いたします」
大榊は総理に遠慮することなくそう言ってのけた。
「おい、それはさすがに……」
「わかりました。必ず」
立ち上がりかける宮司を遮って、岐部総理は断言した。この時、岐部総理大臣は「善処します」や「全力を尽くします」という逃げの言葉を使わなかった。それは、その場にいる全員に、岐部総理の決意の強さを確信させた。
「ありがとうございます」
大榊は表情を変えることなく、短く謝意を表した。
話が具体的な攻略作戦の内容に進むと、軍医や看護兵は退出していった。残っているのは華夕、大榊、宮司、五十畑、金富、そして岐部総理と御殿場防警大臣。華夕の補佐官である出海と、意識のない頼造の九名だ。
「基地攻略の作戦は、やはり習志野の部隊の方がいらっしゃらないと立てられませんね」
華夕がタブレット端末をじっくりと見ながら言った。画面には筑波基地の内部構造が表示されている。
「そうだなぁ。できるだけ施設を壊さずに奪還するとなると、基地の制圧部隊が全てを握ることになる。こっちとしては【敵】機動兵器の撃破と、地上部隊の援護、そして情報収集しかできんからなぁ」
宮司が腕組みをして唸った。
「ちょっといいかな?」
五十畑がメモリスティックを取り出した。華夕からタブレットを受け取り、メモリを挿す。
「実は、既に櫻森陸将から陸上部隊の作戦案をいただいていてな。それを前提に、こちらの支援作戦を考えてみてはどうだろうか」
五十畑が【筑波基地奪還における地上制圧部隊作戦案】というタイトルのプレゼンテーションを表示させると、大榊はほうっと感嘆のため息を漏らした。
「さすがは習志野と言ったところだな。犠牲を最小限にとどめ、効果的に基地を取り戻す良い作戦だ。とは言えどんな部隊でも実行できるという作戦ではない。習志野の練度があってこそ、というところだな。ただし……」
宮司が言葉を切ると、大榊は大きくうなずいた。
「こちらの援護の効率も最高度のものが求められますね。それから、基地内部の情報もかなりの精度が要求されます」
「あちらさんと同レベル以上のクオリティを要求してきてるわけか。まぁ当たり前だな。体を張ってくれるのはあちらさんなわけだし」
宮司は、冗談のような口調ではあったが、その表情は真剣そのものであった。
「【トライドライ】が出られれば良いんですけど……。最悪、T3-2だけでも何とかしてみます」
「充分ですよ。あまり無理をなさらないで下さい」
思いつめた表情の華夕。大榊は心に痛みを感じながら言った。




