十二 現状は。
出海が他の部屋から調達してきた椅子に腰掛け、岐部総理と御殿場防警大臣は大榊達の話に耳を傾けていた。
ベッドサイドの小さなテーブルを、大榊、宮司、金富、五十畑、そして華夕の五人が囲んでいる。軍の重大な作戦会議としては異様な光景と言ってよかった。
「私は、【敵】戦力の実数はもう少し少ないんじゃないかと思います。もちろん、敵戦力については多めに見積もった方が良いと考えますので、この予測で問題ないと思います」
華夕はゆっくりと自分の考えを話した。四人の大人達が、幼い少女の話を真剣に聞いている姿は少し奇異で、それでいて微笑ましい物があった。
「ただ、私は【敵】の力はこれだけじゃないんじゃないかって思うんです」
華夕の言葉に大人たちの顔色が変わった。もちろん考えておくべき事だった。
新たな兵器の存在。その可能性を考慮せずに戦力予測をした事自体が大きなミスと言える。
筑西の巨穴から筑波基地へ何らかの補給が行われたという情報は皆無であったし、過去二回の戦闘と、それまで筑波に配備されていた戦力から現状を予測する以上の事が出来なかったのだ。
「確かに、華夕ちゃんの言うとおりだな。恥ずかしい限りだ」
宮司が可哀想なくらいしょげ込んで言った。
「華夕ちゃんの考えを聞かせてもらえるかな」
華夕の顔が少し厳しくなる。華夕の考えは大きな憂いをもたらすものであった。だが、それが杞憂であったとしても、対策を講じることは必要だ。
華夕は、少し息を吸って、口を開いた。
「……はい。私が危惧しているのは、【敵】の新兵器です。そもそも【Tシリーズ】が【ヤマト】側の技術で作られたものである以上、それと同等以上の兵器が存在する可能性は高いと思うんです」
一番聞きたくない見解だった。だが、その正しさは動かしようがない。
「もちろん、【Tシリーズ】は鷹城さんが自ら作り上げたものですから、その技術が全て【ヤマト】軍に一般化されてはいないかも知れませんし、そう思いたいですけど……。やっぱり、最悪を想定するとしたら、【Tシリーズ】より優れた兵器が投入される可能性も否定できないと思うんです」
華夕の分析は、残酷なまでに現実的だった。沈黙が病室を支配した。
「今野さんの指摘は正しいと思います。その上で、改めて作戦を詰めましょう」
大榊は顔を上げて言った。認識の甘さに対する責任はいつでも取れる。今はそれにこだわるより、実際にどう対応するかを考える時だった。今野華夕の存在がどれほどありがたいか、大榊は身に染みて感じていた。
金富がちらっと岐部総理達を見た。最高指揮権を有し、予算の裏付けを与える事が出来る存在である。彼らの見解を聞く必要はあるだろう。
岐部総理は金富の視線の意味を理解し、微笑を浮かべた。
「どうぞ、私達の事は気にせずに。私たちは作戦について一切口出しはしません。現場にいるわけではない我々が、あなたがた以上に正確な判断を下せるわけがないですから」
金富は確認するように五十畑に視線を向けた。五十畑はしっかりとうなずいた。総理や防警大臣のその考えは、既に五十畑には伝えられていたようだ。
「日本防衛警備軍の総責任者として、今回の作戦立案をこの目で見ておきたかったのです。もちろん、全てあなた方の判断に任せます。責任は全て私達が取りますので、みなさんは自由な発想で、思考で、最善の策を打ち出してください。もしその中で、政治レベルで対応する事があれば、我々も全力を尽くします」
ある意味、シビリアンコントロールを逸脱した発言であったかも知れない。だが、その批判も含めて自らが背負うと岐部信太郎は覚悟を決めていた。それは、軍の上に立つ文民としての強い覚悟でもあった。
「……ありがとうございます。総理」
大榊は感動していたが、相変わらす顔や表情は平常そのものだった。
「現状、筑西の穴に変化は見られていません。現状は、今野さんのおっしゃる新兵器は地上に出てきていないと推測されます。今野さん、いかがですか?」
「はい、私もそう思います」
華夕は敵戦力分析の根拠となっている、5月25日からの状況報告を見てうなずいた。筑西の巨穴は24時間監視されており、そこから出てきた物は全て記録されている。そこに、新兵器を思わせる物は何一つ報告されていなかった。
「すると、筑波の奪還は、新兵器が出てくる前にやっちまわないと、って事だな。8日のXデーまで待ってくれるとは限らんし」
宮司が腕組みをした。【敵】に新兵器が存在するとして、その新兵器が筑波に配備されてしまったら絶望的だ。拠点を得た新兵器は好きなように動くことが出来る。なんとしても【敵】が新兵器を配備する前に筑波を奪還する必要があった。
「そうですね。単なる数の補充だけなら、こちらの準備を優先しても良いでしょうが、新兵器の配備阻止は絶対条件です。基本的に8日のXデーは変更しませんが、もしその前に筑西に動きがあれば、その時点で作戦を開始する必要がありますね」
「うーん。きついが、そうも言ってられないよな。出来るだけ準備は急がせる」
既にオーバーワークの隊員達にこれ以上負担をかけるのは忍びなかったが、ここは正念場だ。とは言え物理的に限界を超えている状態でどこまでパフォーマンスを伸ばせるか……。
「宮司壱尉、技術部隊の増援が許諾された。今夜中に朝霞入りする予定なので、ブリーフィングと情報共有を頼む」
五十畑からの朗報。だが宮司は苦虫を噛み潰したような顔のままだ。
「まいったな。使えるやつが来るんなら大歓迎なんですけどね。使えない技術屋の面倒見なきゃならないとなると、余計人手が足らなくなりますよ?」
宮司はこういう事に対して歯に衣着せるという事がない。ど直球の本音を遠慮なくぶつける。実力、実績がなければ到底出来ない所業だ。
「心配はいらんと思うがね。今回の増援は、厚木の垣畑中隊だ。三個小隊がこちらに向かっている」




