四 【Tシリーズ】の強化。
「もちろんセンサー類の重要性は百も承知だ。解析にも全力をあげているが、いかんせん複雑さと繊細さでは通信ユニットの比じゃないからな。それに、サンプルも実際に【Tシリーズ】に搭載されているものだけだ。バラすわけにもいかん。まずはすぐに効果の期待できる通信ユニットの量産を優先しているところだ」
「ご苦労をおかけします」
大榊は頭を下げた。宮司中隊のオーバーワークと、そして常に期待を超えるその成果に、尊敬と感謝の念を禁じ得ない。
宮司にしてみれば、状況の把握と分析をはじめとして、実戦の準備と指揮に至るまで、戦略レベルの一部から戦術レベル全般にわたり大榊が背負う役割こそ敬服に値するものだろう。
宮司中隊が調査分析作業に集中できるのは大榊のお陰であったし、大榊は宮司の支えがあってこそ作戦行動を進める事ができるわけで、この二人の連携が、朝霞基地の強みであった。
「各機に通信ユニットを装備する事で、【Tシリーズ】のセンサーから情報を得ることは出来るが、現状ではそれだけだ。いわゆるロックオン、火器管制システムとの連動ができるようになるまでは、あまり意味はないよなぁ」
宮司としては、中途半端な状態で実戦に投入する事に忸怩たる思いがあるのだろう。声音に無念さがにじんでいた。
「いえ、現状でそれを望むのは贅沢というものです。通信と索敵情報の共有、それだけでも充分に有利な態勢で事にあたれるわけですから」
「ロックオン、火器管制システムなんて再現できたら、それこそ世界の覇権が握れちゃいますよ」
金富はそう言って、また「しまった」という表情になった。失言である。確かに電波が不安定になり使えなくなっている現在、旧時代の電子戦兵器を復活させられれば圧倒的な力を持つだろう。だが、それはあくまで防衛のためのものであり、「世界の覇権」などの為に用いられるべきではない。
宮司は苦虫を噛み潰したような顔で金富に一瞥をくれると、話題を変えた。
「通信ユニットの量産に並行して、もうひとつふたつ、進めてることがある」
「光が丘から何か出たんですか?」
金富が目を輝かせた。
「いや、今ん所、新しい発見はない。埋まっちまっている部分も多いし、何しろ危険なんでな。そっちもまだまだ継続中だ」
宮司は金富をがっかりさせると、身体を大榊に向けた。
「まず第一に、さっきの話じゃないが、火器管制システムの再構築だ。
【Tシリーズ】はマルチロックオンシステムが搭載されているから、そのロックオンデータを共有し、防警軍の各機に搭載した火器管制システムを動かすってわけだ。
ただしそもそものシステムってのが西暦の時代のものだからな。データをサルベージしてシステムを組みなおす必要がある。
まぁ、その辺はそれほど問題ないが、少し時間がかかるのと、配備後は、特に華夕ちゃんの負担が大きくなるのが問題だな」
実戦投入される味方機全ての攻撃目標の管理。これは電子戦に特化している【トライドライ】、特に華夕の役割になるだろう。無論システムレベルで自動化できる部分もあるだろうが、戦況を左右しかねない、精神的な負担も大きい役割だと言える。
「まぁ、出来るだけ華夕ちゃんの負担を増やさないよう、システム設計はきっちりとやらせるつもりだ」
「頼みます」
大榊はシンプルに一言だけで返した。【Tシリーズ】のパイロット達にかかる負担は最小限にしたいが、むしろ誰よりも大きな負担を強いてしまっている事への自責。一言の中に込められた思いは宮司にも充分伝わっていた。宮司は大きくうなずいて、話を続けた。
「もう一つ、これはあいつらにとっても良いことだと思いたいが……、実は【Tシリーズ】の強化を計画している」
宮司の言葉は、大榊を驚かせた。
「宮司さん! それは……!」
思わず立ち上がりかける大榊を、宮司はなだめるように制した。
「わかってる。まぁ聞いてくれ、大榊ィ。【Tシリーズ】の強化って事は、あいつらをさらに戦いに深く巻き込むことになる。それはそうなんだが、現状、彼らの戦力をあてにしなきゃならんのも間違いない。だとすればだ。体当たりや格闘でしか戦えないのは何とかしなきゃならんだろうが」
宮司の正しさは疑うべくもなかった。
「確かに、その通りです。となると……火器の追加装備、と言う事ですか」
大榊の問いに宮司は大きくうなずいた。
「昨日の戦闘で鹵獲した敵機が搭載していた荷電粒子レーザー砲を整備しなおしてみたんだが、どうやら使えそうなんでな。【Tシリーズ】各機に積んでみようと思う」
確かに、射撃が出来るようになれば【Tシリーズ】の戦力は、その安全性とともに跳ね上がることになる。しかしそんな事が可能なのだろうか。宮司の言葉だとしても、大榊にはにわかに信じがたいものがあった。
「可能なのですか? そんな事が」
実際【Tシリーズ】の装甲版は合体の際、パーツごとに配置を変える。外付けの装備を取り付ける事で変形に支障を来すのではないか。また、武装の制御やエネルギー供給など【Tシリーズ】本体との接続ができるのか。大榊には、宮司が言うほど簡単な事だとは思えなかった。
「ちょっと時間はかかるがな。【敵】機本体のジェネレータごと外して外付け装備に改造中だ。あっちだってこちらのドローンを改造して使ってるんだから、別に文句は出るまい?」
宮司は冗談とも本気ともつかない顔で言った。確かに荷電粒子レーザー砲を搭載していた機体のジェネレータならば、砲の稼働に必要なエネルギーを充分に供給できることは間違いない。
「装備の制御については、通信を用いる。武装側も、もちろん【Tシリーズ】側も、システムの修正、追加が必要だ。時間がかかるのはそこだな」
宮司の提案は明快かつ合理的なものだったが、大榊の思いは複雑だった。冷静に考えれば、【Tシリーズ】の強化は、パイロットたちの安全を飛躍的に向上させ、軍にとっても今後の【敵】との戦闘を大きく有利にするものだという事はわかる。
しかし彼らをこれ以上深く関わらせて良いのかという疑問が、大榊の中で大きなウェイトを占めていた。もちろん大榊自身、それが彼のセンチメンタルでしかない事は自覚している。
「わかりました。そのあたりについてはお任せします」
大榊は表情を変えることもなく、缶コーヒーを飲み干した。見事なポーカーフェイスという他はない。




