十六 戦いの終わり。
「速水君……」
智美は力なくつぶやいた。
【トライツヴァイ】を撃った荷電粒子レーザー砲は沈黙していた。ほぼ破壊されていた機体の最後の一撃。
だが智美にはそんな事はどうでも良かった。勇夫はもういないのだ。
残された改修ドローン部隊が筑波方面に向けて飛び去っていくのを見ても、追う気にもなれなかった。
「速水……くん……」
智美の頬を涙が伝った。
「どうして……」
疑問が勝手に口をついて出る。何故こんなことに巻き込まれてしまったというのか……。
「ほんと、どうしてなんだよ! びっくりさせやがって……!」
「……え?」
一瞬、智美は何が聞こえたのかわからなかった。
「ほんと、なんなの?」
瀬里奈の口調はとげとげしいが、声には安堵の色が隠しきれない。
【トライツヴァイ】が消えた地点の地中から、ゆっくりと何かが浮き上がってきた。十数機の改修ドローンを抱えた【トライツヴァイ】だ。そのすぐ横の地面を突き破って、【トライドライ】が姿を現した。
「東京の地下ってのはなんでこうめんどくせえんだ? それにしてもこいつ、地中の構造が一目でわかるってのは遊べるな」
【トライドライ】は一樹の興味の赴くまま、性能を試すように地中を移動していたのだった。偶然なのか意図的なのか、【トライドライ】は【トライツヴァイ】の真下を通り、空洞を生じさせていた。【トライツヴァイ】は、荷電粒子レーザーが発射される瞬間に、その空洞に嵌ったのである。
「華夕ちゃんたちのおかげで命拾いしたってことね。お礼を言っておくわ。一応、真島……君にもね」
「へー、素直だな、おばさん。で? そっちのおバカさんはどうなんだ? 礼が聞こえねえけど?」
勇夫は唇をかみしめたまま無言で機を着地させ、改修ドローンを抱えた両腕の出力を上げた。
「あ、勇夫さん、そのドローンを壊すのは、待ってください」
華夕が慌てて口をはさんだ。例によって派手に舌打ちが響く。華夕は一瞬身体を震わせたが、気丈に言葉を続けた。
「さっき、そのドローンに強制停止コマンドを打ち込んで機能停止にしてます。基地に持って帰って分析すれば色々とわかるかも知れません」
これも情報戦電子戦を主とする【トライドライ】の面目躍如であった。華夕はドローンのAIのシステムデータから、改修されたAIのシステムを予測解析し、いくつかの強制終了コマンドを生成していた。そして【トライツヴァイ】が地中に落下した際に、それを改修ドローンの機体に直接打ち込んだのである。
「全く、とんでもない子ですな、彼女は」
金富がいたく感心してつぶやいた。大榊にしても全く同感だった。この戦果で、また宮司は華夕を賛美することだろうと思い、微かに苦笑が湧いた。
「朝霞に帰投します。金富、信号弾だ」
大榊は言葉少なに指示すると、朝霞分屯基地へ進路を向けた。
【トライドライ】は分離して、【トライツヴァイ】は改修ドローンを抱えたまま大榊機に続いた。
「香川さん、私たちも……」
分離を促そうと、智美は頼造に声をかけた。しかし、頼造からの返事はなかった。
「香川さん?」
振り向いて見上げるが、頼造の姿は見えない。智美は自動操縦に切り替えるとシートの上に立ち上がって頼造のシートを確認した。
頼造はメインコンソールに突っ伏していた。全く動く様子はない。
ひっ、という音が智美の喉から漏れた。垣間見える頼造の顔色は土気色だった。ただ事でないのは明白だ。
「大榊さん……! 大榊さん! 香川さんが……!」
智美は悲鳴交じりに大榊の名を呼んだ。パニックに陥っていた。呼吸をしているのか、体温は。楽な姿勢を取らせるべきではないのか。様々な思考がぐるぐると回る。が、智美は頼造に手を伸ばすことができなかった。
「倉科さん、どうしました!」
「香川さんが……倒れてて……意識も……ないみたいで……」
智美の悲鳴交じりの声がそれぞれのコクピットに響く。
「頼造おじさんが……? 智美さん、頼造おじさんはどんな状況なんですか?」
華夕の口調はいつも通りだったが、声は明らかに冷静さを失っていだ。
「わかんない……わかんない……」
頼造はピクリとも動かない。智美は恐怖に囚われてシートに座り込み、頭を抱えた。
「智美ちゃん、落ち着いて! 香川さんl 聞こえますか? 返事をしてください! 智美ちゃん、香川さんの脈とかとれる?」
瀬里奈の言葉も智美の耳には届かない。
「……急いで帰投する。今野さん、先行して医療隊の要請をしてもらえますか?」
大榊はヘリの機速を最大に上げさせた。
「わかりました」
華夕の【T3-2】が速度を上げ、飛び去って行く。【トライアイン】の最高速度はさらに上を行くものだったが、智美は操縦できる状態ではない。追尾対象を【T3-2】に変更する事も無理だろう。大榊はそう判断し、基地到着後の処理について考えを巡らせていた。




