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蒼翼の獣戦機トライセイバー~崩壊から始まる、希望の蒼き翼~  作者: 硫化鉄
    第六話  「それぞれの確執」

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十五 混戦の中で。

 大榊隊のヘリは回避運動を続けながら改修ドローンを撃墜していった。数が多く、密集している【敵】機を撃墜するのは、訓練を受けている軍人にとっては児戯に等しいと言っても良かった。


 が、いかんせん多勢に無勢だった。機銃弾も無限ではない。小型機とは言え800機を越える数の相手を壊滅する力などあるわけはなかった。せめて新造機だけでも撃墜したいところだが、改修ドローンが的確に間に割り込み、盾になってしまう。


 絶望的な消耗戦だった。


 突然、【敵】機に覆いつくされた【トライツヴァイ】の位置から、強烈な光条が伸びた。その光に触れた改修ドローンの数機が大破し、一機のヘリが回転翼を焼かれた。


「荷電粒子砲……!」


 華夕の分析は最悪の形で的中していた。詳細の分析は後に譲るとしても、かなりの高出力であることは疑いを容れない。

 続いて数条の光が天を貫き、地を焼いた。


「くぅ、やべえ……! 瀬里奈さん、かすってない?」

「大丈夫、砲身がこっちを向いてるのは今のところ無いみたい、だけど……」


 勇夫と瀬里奈の会話が聞こえてくる。智美はぎゅっと唇をかみ締めた。


「このままじゃ身動きできない……。やられちまう前になんとかしないと……」

「くっつけたままだと動けないし、離れたら撃たれる……!」


「ちっくしょう。無茶だったか……。わかってたけど……っ!」


 智美の胸の奥に、切ないような苦しいような、痛みにも似た感覚が育っていた。


「香川さん……!」

「……大丈夫、わかっていますよ」


 智美に全てを言わせず、頼造は静かに答えた。


「……行きましょう」


 頼造はペダルを踏み込み、【敵】機のひしめく上野公園へ機を飛ばした。


「何を……! やめろ!」


 勇夫の絶叫を無視して、智美は頼造を追った。


「……合体シークェンス、起動!」


 智美と頼造の声を、勇夫は絶望と怒りの中で聞いた。


「倉科さんまで……! しかし……」


 大榊は智美たちの行動に驚きながらも、冷静に次の手を考えていた。確かに【トライアイン】の戦力は、現状打破には不可欠であった。しかし、高速で飛行する機体は狙いづらいが、不規則射撃に突っ込んでしまう危険性は高い。


「伊藤さん、聞こえますか? 新造機を、斥力で弾き飛ばしてください!」


 【トライツヴァイ】のコクピットに、頼造の声が響いた。勇夫は怒鳴り出しそうになるのを、歯を食いしばって耐えた。


「なるほど、わかりました! 香川さん、智美ちゃん、いくわよ!」


 答える瀬里奈の声は弾んでいた。


「せっ……瀬里奈さん!」


 非難の響きを持った勇夫の声が制止するのも聞かず、瀬里奈はA/Rコントローラーのゲージを最大斥力に振った。



 爆発が起きたようだった。【トライツヴァイ】に引きつけられて身動きが取れなくなっていた新造機が一気に弾け飛んだ。回転しながら散り散りに吹き飛ばされていく。


「今です、智美さん!」


 智美は作戦の全てを理解した。思い切った操縦で飛ばされていく新造機に追いすがり、交差しざまに翼で両断する。急角度で方向を転換し、別の機体へ襲い掛かる。まるでコンドルか隼だ。瞬く間に新造機十数機を葬り去っていた。


 大榊隊のヘリ部隊は弾薬を使い果たし、ある者は傷ついて、大榊機の後方へ下がっていた。戦況は明らかに【Tシリーズ】二機が圧倒している。


 【トライツヴァイ】が引力と斥力で翻弄し、【トライアイン】が撃破する。基本戦術は完璧と言えた。

 【トライツヴァイ】も一機ずつではあるが、引力で引き付け、拳を振るって破壊するという得意の戦法で【敵】機の数を削っていった。


 30機あった新造機が一掃されると、ようやく大榊は安堵の吐息を漏らした。改修ドローンの徹甲弾では【Tシリーズ】に傷一つ付けられないのは既に実証済みだ。【Tシリーズ】の二機は、数百機残った改修ドローンの掃討を開始した。戦いの大勢は決まったといってよかった。


 が、しかし。


「大尉、改修ドローンの一団が本機へ向かってます!」


 大榊ははっとした。油断だったとしか言いようがない。

 【Tシリーズ】のパイロット達の事ばかりに気を取られ、自分も戦場にいる事を失念していたのだ。

 操縦士は既に、狙いを定められぬよう回避運動を始めている。しかし【敵】機の数が多すぎた。大榊のヘリは【Tシリーズ】とは違う。徹甲弾を大量に浴びせられればひとたまりもなく引き裂かれてしまうだろう。


 大榊機へ向かう改修ドローンの動きには、【Tシリーズ】パイロット達も気付いていた。


「智美さん……っ!」


 声をかける頼造の表情がゆがむ。智美は操縦桿を握りなおした。


「ええ、【トライアイン】なら……!」


 【トライアイン】は急角度に進路変更しつつ更にスピードを上げた。大榊機を狙う【敵】集団の中央を貫き、大榊機へ肉薄する。電光石火と呼ぶにふさわしいスピードだった。


 大榊機の至近までトップスピードで接近した【トライアイン】が一瞬にして静止した。翼を広げて大榊機をカバーする。大榊機を襲いつつあった改修ドローンの徹甲弾が【トライアイン】の装甲に弾かれて跳ね返った。


「勇夫さん!」


 華夕の叫びが響いた。

 その時、【トライツヴァイ】は改修ドローンを大量に引き寄せ、両腕で抱えていた。そのまま強力な出力で締め付け、一気に砕く作戦だった。その横で、撃墜されて転がっていた一機の新造機が荷電粒子レーザー砲を【トライツヴァイ】に向けていた。



 時が止まったようだった。



 勇夫と瀬里奈は、下方のモニタに映っている荷電粒子レーザー砲をまともに覗き込んでいる気分だった。明らかに自分達に向いていた。それは、その砲口が【トライツヴァイ】のコクピットに向いている事を、発射されれば彼らが一瞬にして焼き尽くされることを意味していた。


「速水君!」


 智美は叫んだ。

 しかしいくら【トライアイン】でも間に合う距離ではないし、救援に向かったところで何ができる訳でもない。また、この場所を動けば大榊機は改修ドローン部隊の餌食となってしまうだろう。

 それでも智美はじっとしていられなかった。操縦桿を倒し、ペダルを踏もうとした時、荷電粒子レーザー砲が火を噴き、同時に【トライツヴァイ】は消えた。


 智美の耳に、勇夫と瀬里奈の悲鳴が残った。





「これは問題ですよ、大臣! 問題でしょう!」


 女性議員が机を叩いて叫んだ。市街地での戦闘。戦端を開いたのが防警軍側、しかも民間人であること。

 野党は政府や軍を攻撃する格好の材料を手に入れたのだった。

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