八 衝撃。
「ちょっと待てよ、倉科!」
「何が出来るかは、わかりませんけど……」
智美は五十畑、そしてモニタに映っている大人たち一人一人に目を向けて、話し続けた。
「私達しか、今あの【敵】を防げる可能性はないんですよね……?」
「そうです。防衛警備省としては、大変不本意と言わざるを得ませんが……」
御殿場防警大臣の沈痛な面持ちも、勇夫には信じる事が出来ない。
「不本意で済むかよ! 倉科、俺達がこんなことに巻き込まれることはないんだ。乗せられるなよ!」
「でも、速水君……」
勇夫にも事態の深刻さはわかっていた。しかし感情の部分でどうしても納得できない。智美を戦いの場に放り出す事は、なんとしても止めなければならなかった。
「軍には入隊資格とかありますよね? 年齢制限とか」
瀬里奈が防警大臣に言った。
「私達が戦いに行くのを承諾しても、軍として問題があるんじゃないですか?」
「確かに、法的には問題があります。速水君、倉科さん、今野さんは軍規定の年齢に達していません」
防警大臣は率直に認めた。
「ですので、一旦は善意の民間人として、軍のサポート下に於いて活動して頂く事に……」
「都合のいいこと言うなよ!」
勇夫はわめいた。
「民間人の、それも女性や子供まで使って戦わせるのに、軍は何も責任は取らないって事かよ!」
政治家とはこんなものか。国の都合、軍の都合、自分の都合で他人を踏みにじるのか。
勢い込んで叫んだ勇夫に、防警大臣は苦悶を浮かべて反論した。
「そんなわけはない! そんな事はさせたくはないのだ! 速水君!」
防警大臣の肩に、岐部総理が手を置いた。
「速水君の言う事は解ります。大事なことです。ですから私は、今日明日中にも特別措置法を制定します。なんとしても成立させます。
今回の有事に限って、あなた方に限定して。形式や名称は検討しますが、まず軍のサポートを無制限に受けられること、
軍から作戦行動の強制は一切出来ないこと、そして有事が打開されるまで、あなた方の権利は一般法ではなく軍法会議によって守られること。
最低でもこれは保証します。また、現在から立法、施行が完成するまでの間は、私の権限であなた方の権利を守ります。
手続き上の問題は追及されるでしょうが、それは私の辞任と引き換えに、必ず抑さえます」
総理大臣はむしろにこやかに語った。信念の強さが見て取れる。さすがに勇夫も黙らざるを得なかった。
「私の首なんて安いものです。それよりも、こんなに無茶で失礼な事をお願いしなければならない事が心苦しく、申し訳ないのです」
岐部総理大臣は間違いなく真実を語っていた。防警大臣も総理と同じ決意の目で勇夫たちを見つめている。
「私、協力します」
智美はもう一度、きっぱりと言った。
「倉科……!」
「速水君、私、決めたの。みなさん真剣に、本気で考えているのがわかるもん。私達がどうするのが一番いいのか、みんなのためにだけじゃなくて、私たち自身のためにも何が一番いいのか考えたら……。
みなさん、よろしくお願いします」
智美は勇夫にそう話すと、モニタに映っている大人たち、五十畑や宮司、大榊をはじめ、そこにいる全員に頭を下げた。
「よし、俺も行く。俺、決めたんだ。倉科を、守るって」
「……仕方ないわね。乗ってた方が安全って、信じていいのよね?」
瀬里奈が言い、宮司はしっかりとうなずいた。瀬里奈はふっと肩の力を抜き、腰に手を当ててうなずいた。
「で? あたしたちはどうすればいいのかしら?」
全員の視線が、ノイズだらけの画面に集中した。途切れ途切れの音声は聞き取り辛さを増している。
「ありがとう。みんなの信頼に感謝するよ。今の【Tシリーズ】には武装がない。でも、君達の力が合わさることで【Tシリーズ】は本当の力を発揮できるんだ」
耳障りな音は音量を増し、鷹城の言葉を覆い隠そうとしていた。その音の隙間から覗くように、細切れに届く鷹城の声。
「多分、もう時間がない。この場所があいつらにバレたみたいだ。しばらく連絡が取れなくなる。岐部君、後は頼む」
「任せておいてくれ。それより、君の言っていた【本来のシステム】とは……」
岐部総理の言葉を遮るようにノイズ音が激しく鳴った。続いて鷹城の、ノイズ混じりの映像がブラックアウトした。
「部屋の電源を落とされた。聞こえるか? 【Tシリーズ】の運用開始まで極秘にしていた【本来のシステム】。【Tシリーズ】は単機では機能を発揮できないんだ。
システム起動のパスワードは【合体シークェンス】……」
鷹城の言葉が途切れ、同時にあれほどうるさかったノイズも消えた。嘘のような静けさが司令室を支配していた。
「合……体……?」
勇夫がつぶやく。
「あの形状で、ドッキングなど出来るのか?」
宮司が声を上げた。信じられないのと同時に、どうやって? という興味が湧いてきたのだ。
「失礼します! 【Tシリーズ】出動の準備に取り掛かります!」
宮司は司令官とモニタに向かって敬礼すると、司令室を飛び出していった。
「みなさん、ありがとうございます。【敵】は市街地へ差し掛かっているようです。時間はありません。出来るだけ早く、街の人々を救ってあげて下さい」
岐部総理は立ち上がり、統幕の幹部たちとともに六人に向かって深々と頭を下げた。五十畑空将補もそれに倣う。
「五十畑司令、大榊壱尉。彼らのことをよろしくお願いします」
「了解致しました。全力を尽くします」
大榊が総理に、最敬礼をもって答えた。
「では、早速で申し訳ないが、ドックへ急いで下さい。作戦中に使うと思われる携行品は金富参尉に準備させます。金富、頼む」
大榊の言葉にうなずくと、勇夫は最後に岐部総理大臣に問いかけた。
「総理大臣、教えてもらえませんか? 【敵】って一体、どういうやつらなんです? 鷹城さんは外国人には見えなかった。今、日本は内戦が始まっているんですか?」
これから戦う者として、当然の疑問だった。他の五人も自然、岐部総理の次の言葉に集中する。
岐部総理大臣は勇夫の疑問に大きくうなずくと、口を開いた。
「【敵】の正体は、地底深くに存在する国家【ヤマト】……。鷹城さんは、地底国家ヤマトの元首、つまり……侵略してくる【敵】は、地底人なのです。むろん、鷹城さんも」
勇夫たちは一瞬自分達の聞いた言葉の意味が解らず、立ち尽くすしかなかった。




