七 決意。
「香川さん!?」
思わず声を上げた瀬里奈に、頼造は少し苦笑気味の笑顔を向けた。
「と言っても、何か出来るとは思えませんけどね」
もともと私は死ぬつもりでしたから。頼造はその言葉を口には出さなかった。今でもその気持ちに変わりはなかったが、あの警官との出会いと別れを通じて、ただ死のうという気持ちから、少しでも生きる価値のある人を救って死にたいという気持ちに変化していた。
「結局、アレは俺のだったって事か」
一樹がそう言って、壁に寄りかかった。しかし、彼の無礼な態度をとがめだてする者はいない。
「俺はアレを返してもらえばそれでいい。もちろん、メンテや維持管理はそっち持ちでな」
そう、アレは俺の所有物だ。唯一の。何が出来るのかも、なんに使うのかもわからないデカブツ。それだけが俺の持ち物なんて面白いじゃないか。一樹は心の底から込み上げてくる笑いが表情に浮かぶのを抑えようともしなかった。
「あの、私も行きます」
華夕が一歩前に踏み出した。
「ちょっと華夕ちゃん!」
「華夕ちゃん、それは……」
瀬里奈と頼造が同時に声を上げる。
「ダメだよ、君みたいな女の子が戦場へ行くなんて……」
「頼造おじさん、瀬里奈さん、ごめんなさい。でも【Tシリーズ】については、私が一番わかっていると思うんです。サポートなら出来ると思います。軍の基地にいたら、通信も繋がらないし……。それに私、【Tシリーズ】を信じています。だって、鷹城さんが作ったものですから」
華夕の声は確信に満ちていた。
「ありがとう、今野華夕さん。君の信頼に感謝するよ。事実【Tシリーズ】の中にいればどこよりも安全だ。君達の安全は私が保証する」
鷹城がそういうと、華夕はにっこりと笑った。背後で舌打ちの音が聞こえた。一樹だ。
「速水君、どうする……?」
智美が勇夫にささやいた。
「私達で……できるのかな……?」
勇夫はその言葉に答えず、五十畑の顔を見据えた。
「もし、万が一、俺達がその依頼を受けたとしたら……俺達は軍人にされるって事ですか? だとしたら、俺達みたいな高校生や、中学生を軍人にする事になるでしょう。それでいいんですか?」
勇夫の声は高ぶり、最後には叫びに近い声音になっていた。
「もちろん、そんな事はできません」
その叫びに答えたのは、岐部総理だ。
「法的にも、倫理的にも許されるはずがありません。速水君、君の言う事は正しい。しかし、多くの国民の生命が奪われていくのを、座して見ているわけにはいかないんです」
「その言い方は卑怯ですよ! 俺達だって国民なんじゃないんですか? なんで俺達が守られる側から、守る側にならなきゃいけないんですか!」
そこにいる全員が、勇夫と総理のやり取りを見守っていた。
「それは……」
「その方が、君達にとっても安全だからだよ」
鷹城が岐部の代わりに答えた。画面のノイズはさらに激しくなってきている。
「【敵】兵器のスペックは僕が一番よくわかっている。【Tシリーズ】に乗っていれば安全だ。万が一【敵】を撃退することが出来なかったとしても、【敵】の戦力では【Tシリーズ】を破壊することはできないんだ。だから、巻き込まれて逃げ切れない可能性のある人たちより【Tシリーズ】に乗って戦うほうが安全性は高い」
「でも【敵】には軍が全く歯が立たなかったんでしょう? そんな強力なのに……」
勇夫はなおも食い下がった。どんなに安全だと説得されても、万が一と言う事だってあるはずだ。勇夫としては、何があろうと智美を戦わせることはできなかった。
「防警軍が一方的に敗走した理由は明白だ。【敵】の機体は短距離の電波通信機能がついている。AIによって完全な連携が取れていることが最大の強みなんだ。また、これは想像だが、筑波基地は攻撃を受ける前から陥落していた可能性がある。それも防警軍が一方的に負けた原因だ」
鷹城の説明の間にもノイズは更にひどくなり、映像はほとんど見えなくなってしまっていた。音声にもノイズが乗って聞き取りにくい。
「聞こえるか? しかし【Tシリーズ】なら大丈夫だ。君達も知っているだろう? あれには通信機能が付いている。【敵】の物とは違い、広範囲に及んで通信可能なものがね。それに、センサー類……」
鷹城がそこまで言った時、完全に音声が途切れた。通信状態の不安定さが増している。何らかの妨害が行われているのかもしれなかった。
「通信機能やセンサーに関しては、俺達の分析でも確認済みだ。空間電位ノイズを突破する技術が使われている。詳細はまだこれからだが」
鷹城との通信が途切れた間に、宮司が説明を加えた。
「装甲の具合からしても、安全性の心配はないだろう。防御性能は、一般的な核シェルターと同等以上と推定されるな。ただ【敵】が光学兵器などの特殊武装を持っていなければの話だ。また、こちら側は守ることは出来ても攻撃する手段がない」
「その点は心配ないよ。あの八足車両には、実弾兵器しか搭載されていない」
鷹城の声がノイズの奥から聞こえた。
「わかりました。私も、協力します」
智美が意を決して、ゆっくりと言った。勇夫は驚いて振り向いた。智美は青ざめてはいたが、その表情は決然としていた。




