三 軍と少女。
「Pコントローラー? なんなんですそれは?」
「すまん、皆目見当がつかない。Gコンと違って、このPコンはデータがロックされててな。シミュレータにも入ってねえ。だから、武装だと思うってのも、俺のカンでしかないんだがな」
宮司がため息をつくと、大榊もつられたようにため息をついた。全くどうにもならない。こんな何もかもが不明なものを、生き死にに関わる現場に投入する統幕の判断に、改めて疑問を抱かずにはいられなかった。筑西の不明機が明らかに敵対的と思われる動きを見せている状況で、その【敵】が建造した可能性が低くない【Tシリーズ】を、何も解らないまま運用するのは危険が大きすぎる。
しかし、大榊は軍人であった。
「金富、出来るだけタブレット端末をかき集めろ。宮司さん、シミュレータのコピーと、機体の更なる解析をお願いします。パイロット登録の解除を最優先で解析して下さい」
「わかった。華夕ちゃん以外の五名にも、一回ドックに来てもらえないか? コクピットを開けるのも、端末を起動するのも、彼らがいないとできないんだ」
大榊はうなずいて時計をチラッと見た。23:51。後に地球レベルの歴史に刻まれることになる一日が終わろうとしていた。
「わかりました。至急5人にご協力いただく事にします。今野さん、遅くまでご協力いただき、ありがとうございました。大変な目にあわれたと言うのに、軍の都合でご苦労をおかけしてしまい、申し訳ありません。あとは、是非部屋でお休み下さい」
大榊は華夕にねぎらいの言葉をかけたが、華夕は静かに首を横に振った。
「あの、大榊さん、私、寝るのはソファとかで大丈夫なので、ここでもう少しお手伝いさせてもらってもいいですか?」
「いや……でもそれでは……」
いくら天才少女とは言え華夕はまだ12歳だ。しかも話を聞いた限りでは、つい数時間前まで大人にとっても耐え難い過酷な状況に置かれていたのだ。心も身体も疲れきっているだろう。大榊は、華夕を早く休ませてあげたかった。また明日からも、色々力を借りざるを得ない状況なのだ。
しかし、大榊の言葉は宮司によって遮られた。
「華夕ちゃん、そうしてもらえると助かるな」
「宮司さん……!」
大榊は思わず声を上げた。このような幼い少女に、軍がどれだけ甘えると言うのか。
「とりあえず、簡易ベッドを用意させる。女性下士官を一人つけておくから、そこで休んでいてくれ。近くにいてくれた方が、何か困った時にすぐ助けてもらえるからな」
宮司がそう言うと、華夕はほっとした笑顔を見せた。大榊はそれで宮司の真意を理解した。
華夕が数時間前に極限状態に置かれていたからこそ、宮司は華夕をここで寝かせる判断を下したのだ。華夕も12歳の少女である。あんな経験をしたその日に、一人で部屋で寝ることなどできはしないだろう。それが「もう少しお手伝いさせてもらってもいいですか?」という言葉だったのだ。大榊は自分の無神経さを恥じた。
「では今野さんの事も、宮司さんにお任せします。今野さん、ご苦労おかけしますが、よろしくお願いします」
大榊は立ち上がった。
「金富、パイロットを選定する。明朝までに、下士官まで含め全員にシミュレーションを受けさせ、成績優秀者をピックアップしておけ。私は今後のタイムテーブルを策定する」
23:55。ミーティングは終わった。そして、全ての始まりとなった、新暦518年5月25日が幕を閉じた。
5月26日0:03。
大榊が顔を見せた時、談話室にはまだ勇夫、智美、瀬里奈、頼造の四人が残っていた。一樹の姿はない。大榊は部下の下士官に、一樹を連れて来るよう指示した。
「何か、あったんですか?」
頼造が不安げに聞いた。四人の視線が大榊に集まっている。
「いえ、新たな状況の変化はありません。現在、例の六機について、みなさんのパイロット登録解除の方法も含めて解析中です」
「それが終わるまでは、あたし達はここにいなきゃいけないわけね」
瀬里奈が腕組みをして言った。この状況を楽しんでいる風でもある。軍の基地で一晩過ごすことなど、そうあるものではない。
「あの、家族とは連絡取れないんですか? 家族は無事なんですか?」
勇夫にとっては珍しい体験どころではなかった。自分の家族も気になるが、智美の家族が心配しているだろうと思うと心が締め付けられる。智美にも何とか連絡を取らせてやりたかった。
「速水君、報告が遅くなって申し訳なかった。君と、倉科さんのご家族は無事だ。そもそも今回の災害は半径2km圏内に被害が集中していて、その外ではほとんど被害が出ていない。君達の家は被害範囲から少し離れているし、全く被害がなかった事が確認されている。また、直接連絡を取ってもらうことは、現在は情報セキュリティ上許可できないが、軍でご家族と連絡をとり、君達の無事は伝えてある。伊藤さんも、会社へは明朝ご連絡します」
大榊の説明に、勇夫と智美は安堵の息をついた。両親は驚くだろうが、安心はするだろう。何しろ軍の保護なのだから。
「大榊壱尉、真島一樹さんをお連れしました!」
下士官に連れられて来た真島一樹は、談話室へ入るとそのまま入り口の横の壁に寄りかかった。皆が集まっているテーブルに近づこうともしない。
「で? 用事って何なんすか?」
ぶっきらぼうと言うより、無礼な口調で一樹は言った。




