マキの初出勤
「今日からバイトのマキです。よろしくです」
落ち着きのあるウェイター姿のマキが自己紹介した。
「うん僕はヤンよろしくね。今日は僕が君に仕事を教えるからよく聞いててね。」
若い男とマキが軽い自己紹介をした後にマキの初仕事が始まった、といっても仕事を覚えることがその日の仕事だが。
「カフェなのにメイド服じゃないんですね。」
マキは襟を掴みながら少しだけ残念そうに言った。
「ははは、まぁ店長の趣味でやってる店だからね。そういう雰囲気が好きなんだろう。」
2人でコーヒーを淹れながら他愛もない話をしていた。
「ところで……」
お互いに慣れない異性との会話、不意にヤンはあらぬ事を口走った。
「マキさんって女……ですよね。いや、一応確認ということで。」
冗談っぽく胸を見ながら言った、というより言ってしまった。
刹那、鋭い眼光とともにベストショットなビンタが飛んできた
「てってめえ……セクハラかよ、しばくぞ。」
さっきまでのおっとりしたマキからは想像もつかない言葉が出る。
すでにしばいた後である故にヤンからの返答は無かった。
マキが昼休憩に入ると髭男は丁寧にサイフォンで淹れたコーヒーをまかないで振る舞った。
「いやぁ初日でここまで働いてくれるとは思わなかった、おつかれだろう。」
髭男はマキに労いの声をかけた。そしていつもより明らかにそそくさと動くヤンを見て
「まさか男を吹っ飛ばすとは思わなかった、強盗が来た時は頼むよ!」
マキは苦笑いをして
「そんなぁ、ヤンさんがたまたまモヤシだっただけですよぉ。」
そう言うと2人はビンタで飛ぶヤンを思い出し爆笑した。
日が傾く頃、マキは覚えが悪いなりにひと通りの仕事を覚えヤンはすっかりおとなしくなっていた。
「それじゃあ、あの、マキさん……」
「なにそんなビクついてるんですかぁ?せ・ん・ぱ・い!」
マキはもの凄く調子に乗っていた。
「今日の業務はほとんど終わりなのでもう切り上げてもらっても大丈夫です。」
かなり事務的にすまそうとするヤン、マキはクスリと笑い
「先輩、あんまり気にしてませんからもっとシャキっとしてください。」
「そっそうだね。」
ちょっとだけ表情が明るくなるヤンといつか尻にひけそうだと表情が怪しくなるマキだった。
ちなみにその日マキが割ったコップは3つだった。
それからヤンは腹筋マシンを買った。




