第五章(1)
伊吹を追い出して、二日目の放課後。学校で帰り支度を整える皆人は、常の如く無表情。
それは面倒臭い土曜登校に対する苛立ちではない。
その姿はだれの目から見ても不安定だった。
「なんだ、神埼。ピリピリして。あっ! さては、女に振ら……ギャボバッ」
「消えろ。目障りだ」
一人の冒険家(高坂)が数台の机を吹き飛ばし、地に這いつくばる。ものの数分のうちに作り上げた累々の屍を残し、魔王は教室を出て行った。
カツカツカツと一定のリズムで廊下を歩く、ちょっと無愛想な一生徒。そんな皆人の歩いた廊下は、まるでライオンが歩くが如く戦々恐々としていた。
カコンと皆人が下駄箱を開く。
「ハァ……またか」
下駄箱に入れられた封筒。本当に根性のある奴らだと思いながら、皆人は封筒をカバンに入れ黙々と靴を履き替えた。
「あ、あのっ。神埼先輩」
「ん?」
声を掛けられ、皆人は面倒臭げに振り返る。
「お前は、確か……」
声を掛けてきた女子生徒に、皆人は見覚えがあった。先日、剣宮に無理やり任されて踏み込みを教えた、背の少し高い女子部員だ。剣道着を着ていたおかげで直ぐ分った。
「はい。この間はどうもありがとうございました」
「あ、ああ。別に、気にすんな。あっ、そうだ、丁度いい。悪いが、コレを剣宮先輩に返しておいてくれねぇか?」
そう言って、カバンの中からスポーツドリンクのボトルを探す皆人。
しかし、皆人の言葉に女子生徒は驚いたように口を開いた。
「えっ? 神埼先輩、剣宮先輩と一緒にいたんじゃなかったんですか?」
女子生徒の言葉に、皆人が「え?」と声を漏らしキョトンとする。
「いや……。今日はまだ先輩に会ってないぞ」
「で、でも。剣宮先輩、『神埼先輩を拉致してくる』って言ったっきり帰ってこなくて。てっきり、一緒にいるのかと?」
「拉致って……て。取り合えず俺の所には来てないな。悪いが他をあたってくれ」
「そうですか……。ありがとうございました、失礼します」
ぺこりと頭を下げ、転ばないように、でも急いで廊下を駆けて行く女子部員。
「拉致……ねぇ」
その姿を目で追いながら、皆人は小首を傾げた。
剣宮は言うことは無茶苦茶だが、言ったからには必ず実行する。そういう人だ。暫し思案しすると、皆人は校舎を出て携帯電話を取り出し、剣宮の短縮ダイヤルに掛けてみた。
「オカケニナッタ電話ハ、電波ノ届カナイトコロ二居ラレルカ、電源ガハイ……プツッ」
「出ねぇな」
電子音を切り、電話を仕舞う皆人。その眼に、さっき取り出しかけたスポーツドリンクのボトルに潰された茶色い封筒が映った。皆人が眉を顰める。嫌な予感がした。
「頼むから、あいつらの悪ふざけであってくれよ」
小さく祈りながら、皆人がビリビリと封筒の封を切る。中身には便箋と写真が一枚ずつ。
便箋そのものは味気ないが、そこに書いてある文字はラメ入りの色ペンで、ひどくファンシーなものだ。
無表情な皆人の頬がピクンと動き、目が見開かれる。便箋の内容は二つに分かれていた。
一つは、町の裏山にある巨大なものが暴れるのには十分に拓けた場所の詳細。
もう一つは、短い一文。
――お兄ちゃんの彼女、私が預かっちゃったーっ(笑)。一人で来てね♡――
残った写真に映し出されていたのは、目隠しをされ、道着のまま縛られた剣宮の姿だ。
「どいつもこいつも……」
短く悪態をつき、皆人は単身で便箋に記された場所に向かって行った。




