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誰よりも早く階段を上り僕は君に逢う  作者: T-99
三本の柱:青~未来編
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045

 黒いリングをポケットにしまい、京也は階段をイメージした。見えない壁に阻まれる。大きな牢獄に閉じ込められ、京也は囚人のように身動きが取れない。切りつけられた背中の傷は、クリスタルボールが癒してくれていた。

 ダイヤの術を破れば、必然的に壁も消える。甘い考えは打ちけされ、消えたのは骸骨だけ。京也は太陽が照りつける現実を受け入れるしかなかった。



「どうして」

 声のする方に京也が顔を向けた。

 見えない壁に歪みが発生する。銀色の歪みが大きくなり、幼い子供が通り抜けてきた。

「ココロ」

 思わず口にする京也。

 ココロは三角帽子にお揃いのマントを羽織、京也が触れるほどの位置まできて止まった。

「ボクの名前はハート」

 ハートは、京也に腕を差し出す。

「返して」

 手袋をはめた手をみつめ、京也は戸惑う。ココロではなくハート? 混乱が押し寄せる。そもそも何を返せばいいのか、それすらわからない。

「お前はココロだろ?」

「ボクのお姉ちゃんを返して」

 飛び込んできたハートが、京也の胸を激しく叩く。ハートは泣いていた。

「姫野さんなら生きているだろ」

「あっちの世界のお姉ちゃんじゃない」

「どういう意味」

「今、お前が殺した相手をもう忘れたのか!」

 子どもがむき出しの感情をぶつけてきた。憎悪だけが京也を捕えていた。

「ダイヤの……」

 言葉が出てこない。

 ダイヤは京也を攻撃してきた。

 しかし、最後には命をかけ京也を助けてくれた。

 姿形をそっくりに、姫野に化けたダイヤ。

 あっちの世界。

 パズルの1ピースが欠けていた。



 京也が答えを見つけるより早く、ハートが短剣を抜く。

 小さな銀色の短剣が震えていた。

「殺してやる」

 よけるつもりはなかった。ダイヤが助けてくれなければ、京也は死んでいた。大切な人を失う悲しみは知っている。その怒りも京也は知っていた。

 京也に短剣が突き刺さった。ハートの幼い力では、肉を僅かに傷つけるだけ。肩甲骨にあたった短剣が、砂上に落ちていく。



「すまない」



 絞り出した力なき声が、ハートの抑えきれない感情に飲み込まれる。



「お姉ちゃんは京也が大好きだったのに。どうして!」



 しがみつくハートの慟哭が、京也の心をかきむしる。



『どうしても、その子じゃないとダメ?』



 さみしげな姫野の顔が浮かぶ。



 京也がポケットのリングを取り出した。



 見つからなかった、最後のピースが埋まった。




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