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『いつもの場所に来て』
『すぐに行きます』
京也は、パラシオの1階にある談話室を目指す。生徒会専用の建物に入るのは緊張して未だに慣れない。ひさしで和らいだ光が、控えめに上げた姫野の手で遮られる。丸いテーブルに広げられたバスケットには、お手製のサンドイッチが緑、黄、赤と絶妙に絡み合い等間隔にきれいにおさめられていた。京也が席につくと紅茶が注がれ、シナモンの香りが鼻腔にそっと吹き抜けた。
ふたりで昼食をとり語らう。初めのうちでこそ、「部外者のくせに」と物言わぬ視線を京也は感じていた。それが今ではふたりを歓迎するかのように生徒会執行部の人たちと挨拶を交わす。定番の席に座るふたりは、部屋の一部となり談話室になくてはならい存在に変わっていた。
「おいしい?」
サンドイッチを口に運ぶ。トマトの汁がパンに吸い込まれバターと溶け合う。噛むほどに混ざり合うレタスのシャキシャキした触感が心地いい。じっと見つめる姫野の視線に気付いた京也が慌てた。
「おいしいです」
気の利いたことも言えない京也に姫野が手を伸ばす。口に周りについたパンの欠片をナプキンでぬぐう。微笑む顔に見とれてしまっていた。姫野はよく笑うようになった。新しい未来が見えるようになったことで悩みがなくなり明るくなっていた。話せば話すほどに内面から溢れる思いが伝わってくる。
「ふたりでどこかでかけましょうか?」
「あ、はい」
相変わらず主導権は姫野が握っていた。会話も姫野が話して京也が答える。たまに京也が喋ってもすぐにしどろもどろになる。年上とはいえ姫野といると緊張してうまく話せない。遠目からみるとまるで姉と弟。
「詳細はこれで連絡するから」
赤のリングを見せる。気のせいかもしれないが、リングの輝きが増した気がする。不思議なリングの力で、ダイヤの幻覚から逃れることができた。思念通話だけでなく、別の力もリングには隠されているのかもしれない。
「わかりました」
学園公認のカップルになったが、京也はきちんとした返事を姫野にしていなかった。好きか嫌いかと問われれば、迷いなく好きと答える自信はあった。姫野ファンクラブの会員たちが大挙して押しかけ「学園のアイドルを頼む」と泣きながら言われたことを京也は思い出す。京也にとってもそれは変わらない。テーブルを挟んで触れられる位置にいるはずなのにどこか遠くに感じてしまう。親しくなればなるほど強くなる。
昼休みの終わりを告げるメロディが流れる。名残惜しそうに席を立つ生徒の中で、京也だけがほっとした表情をみせていた。




