033
【いつもの場所に来い】
「めんどくさいな」
京也はメモを捨て緑の柱に向かう。ブレスレットの使用方法を教わるだけのはずが、呼び出しが頻繁にかかるようになった。ワスレは話が長いから嫌だ。おまけに威張る態度も気に入らない。能力を発動させた京也が、円形状の部屋にいやいや入り込む。壁にへばりついていたワスレが京也の顔にドッキングした。
「近い、近いよ」
ぬるぬるするワスレを引き剥がし、京也はチラリと横を見る。マリアが丸型のクッションに座っていた。嫌がるワスレの体をちょん切り作った手製のクッションの上で、興味なさげにクリスタルを眺めている。
マリアはF組からA組にクラスを変えていた。保坂の話では「女子がいるA組のほうが何かと都合がいい」とのことだが真意は分からない。一切喋らず、放課後この部屋に来ては京也とワスレのやりとりを傍観者のように観察していく。
「今日も獣が来ておるぞ」
マリアに悟られないようぼそぼそとワスレが話す。
「用事は何?」
「一緒でないのか、あの子は」
姫野のことを言っていると京也は悟る。死の運命を回避するのに貢献したブレスレットの送り主を見たいと、姫野が言い出し連れてきたことがあった。
女の子はよく「ドラゴンのぬいぐるみ」をかわいいと抱きしめる。実物のドラゴンを見てさわいでいるのか京也は疑問に思う。鋼鉄でも簡単に噛み砕く鋭い牙と狙う獲物を必ず仕留める獰猛な目つき。博物館で幼い頃見たドラゴンは恐ろしかった。
それでもかわいいと能天気に抱きつく女の子がいれば、体中をおおう鱗で全身血まみれになるだろう。いや、「いただきます」とドランゴンに丸のみされるのがおちだ。
ところが「キャー、かわいい」と姫野が出したことのない高さの声を発する。ワスレを抱きしめはなさい。「ぬるぬるする得体のしれない生物」=「喋るかわいいぬいぐるみ」になる瞬間を京也は目撃した。
「あの子は可憐じゃ。同じ姫でもどことかの姫とは大違い。あの子が毎日来てくれればいいのにのう」
回想シーンに満足したワスレが、マリアに聞こえていないことを確認するため激しく目をくるくるさせる。
クッションにマリアの姿はなかった。
「パーン」
水風船が破裂した。マリアに踏みつけられたワスレの体が砂のあちこちちら散乱していた。必死でかき集める京也を無視して、マリアが観客席に戻っていく。「しばらくの間は殺される心配はなさそうだ」安堵する京也に3分の1ほどに復元されたワスレが嘆き声を上げる。
「だから獣は嫌いなんじゃ」




