021
能力の発動が終わり階下に辿り着くと京也の足元が緑色に照らされる。正方形のマス目に従って進むと順番にマス目に色がついていく。やがて壁にぶっかった。
道は二手に分かれている。
左右どちらに進むべきか?
京也は姫野の顔を思い浮かべた。赤いリングは、柱の内部でも輝きを失っていない。声はおそらく届くだろう。京也は壁に両手をついた。今なら姫野に聞かず京也の意思で左右どちらの道も選べる。
試しに京也は与えられた能力を使うことにした。階段もない分かれ道で能力を使う。右と左どちらに引っ張られるか、それとも上昇するのか、何も起こらない可能性だってある。ダメなら振り出しに戻るだけ、もう一度考えればすむことだった。
「発動」
3秒待った。
何も起こらなかった。
当たり前だ、階段がそもそも存在しない。京也があきらめかけたとき壁が光を放った。手が壁に吸いつきはなれなくなると壁を押しのけていく。道のない壁の中を通り抜け円形状の部屋に出た。部屋は半径25メートル、天井までの高さが10メートルほどの広さ。砂の地面に足をとられながら歩くと、空中に透明なクリスタルが浮かんでいるのが目についた。ゆっくりとクリスタルは上下運動を繰り返しながら回転している。音はなく、京也が砂を踏みしめる、「ぎゅっ」という音だけが聞こえてくる。見渡した限り浮遊物はほかになさそうだ。側までいくとクリスタルは透き通っていて反対側まで見通せた。
「この部屋を見つけるとは珍しいな」
「だれ?」
「なかなか厄介な運命に縛られておる。ほう、なるほどなるほど」
クリスタルが話かけてくる。さらに近づき京也は覗き込む。
「痛っ、馬鹿者」
怒る声が聞こえてきた。
「痛い、痛い、早くどかんか」
下から聞こえてくる声。京也が3歩下がると。くっきりと砂上に残ったホバーシューズの跡に不思議な生き物がいた。手足はなく、ぷにょぷにょした体。シューズの跡から染み出てきたかと思うとボールのように跳ね回る。
「無礼者が、顔を踏むとはなにごとぞ」
弾みながらクリスタルの上に乗っかるとぎょろり目玉が現れた。
「審判を務める……」
急に静かになる。
「審判を務める吾輩の名は……」
京也はとりあえず名を待った。
「忘れた」
「はあ」
「黙れ、無礼者。審判を受けにきた分際で、「はあ」とは何事ぞ」
「失礼します」
「どこに行く」
「別の審判を探します」
「ここで受ければいいではないか」
運命をかけた大事な審判を名もわすれた生き物に預ける気になれない。京也は姫野を呼べばよかったと本気で後悔した。
「見たところお主に立ちはだかる運命はそうとうなものじゃ。わし以外の適任はない」
断言し、おそらく腕組みでもして頷いたつもりだろうが、クリスタルから少しずつ垂れだした体が今にも落ちてしまいそうだ。京也は背を向けると壁からクリスタルまで続く自身がつけた足跡を確認し帰ろうとした。
「待て、待て待て。話は最後まで聞かんか馬鹿、いや聞きなさい」
「……」
「運命を断ち切りたいのだろう。だったらこの部屋に入ったのも運命。ひとつわしの試練を受けてゆけ。悪いようにはせんから。なあ頼むから」
京也は仕方がないので話だけは聞いてみることにした。
「どうせすればいいんですか?」
振り返るとクリスタルの上に生き物はいなかった。
「落ちてしもうた。もう一度あの上に乗せてくれ」
クリスタルの真下に踏まれた時と同じ状態で生き物がいた。
京也はだんだん不安になってきた。
この部屋に入ったのはやはり失敗だったのではないかと。




