022
「おい、何をしておる」
京也は躊躇していた。
いきなり手で触ってもいいものだろうか。
「病気とかならない?」
「馬鹿者。神聖なる審判を司る吾輩……名は……忘でいい、をつかまえて病原菌扱いなど」
「まだ、つかまえていないけど」
「何~、何~、揚げ足とりとは生意気な」
「足ないじゃん」
「頭にきた!」
「頭は…… 一応あるか」
大きく膨れあがったワスレを京也は拾いあげるとクリスタルの上に乗せた。乗せるとクリスタルの回転が止まる。感触は想像していたほど柔らかくなく、手からこぼれ落ちることはなかった。
「最初からそうすればいいのじゃ」
「で、審判はどうすればいいの」
「焦るな…………」
会話が止まる。
「滝本京也」
「知とるわい、きさまの名ぐらい。言葉のキャッチボールをするための準備をしていただけじゃ。馬鹿者」
「キャッチボールって???」
「もうよい、審判を始める」
ワスレは立ち上がる。
正確にいうと伸びあがる。
「ルールは簡単。運命を断ち切りたいならわしを倒していけ。方法は何でもいい。能力でも、魔法でも、魔道具でも、超能力でも、呪いでも、儀式でも……(以下省略)」
京也は途中から聞くのをやめた。
扱えるのは能力しかない。
「能力でお願いします」
「ほー。自信があるようじゃな。能力名は」
「ライムタベラート」
「聞かぬ名じゃ」
京也は後悔した。これから倒す敵に、手の内を見せることはなかった。
「ライムタベラート! ライムタベラート! ライムタベラート!」
ワスレが呪文のように繰り返し名を唱える。
京也はワスレがわざと繰り返しているのではないかと疑ってしまう。
「ん! 手の内を明かさぬための言葉遊びとは小賢しい。しかーーし、ひねりがたりんな」
「?????」
正直に話した京也は、ワスレが言うことが理解できなかった。
「忘れる前に注意事項を言っておく。
その1、制限時間はない。あきらめない限り何度でも挑戦可能じゃ。
その2、戦う場所はここ。場外はない。部屋を出ない限りどこを使ってもよい。
その3、これが一番大事なこと」
京也は思わず唾を飲み込む。
「はて? 何だったかのう」
真剣に聞かなければよかった。京也は自身を叱咤した。
早めに切り上げ別の試練を受け直す必要がある。
相談しよう。相談事態悪いことではない。最終的に意見を取り入れ決めればいいだけのことだ。京也は手触りのない赤のリングが小指にあることを確かめた。
「その3、わしを笑わせることじゃ」
絶対、今考えたに違いない。京也はワスレを蹴飛ばし、その後、目を覚ましたらくすぐって笑わせてやろうと思った。「首筋、脇、足の裏、どこをくすぐってやろうか」と京也はほくそえんでみたが、丸い体のワスレを見て大変な試練になるかもしれないと考えた。
「では、お前の運命の大きさに見合う体に変身するから見ておれ」
運命と同じ大きさになるためワスレの丸い体が徐々に膨れ上がっていく。京也の頭ぐらいのワスレが、急激に膨張すると一気に天井まで届き巨大な丸い生き物になった。京也は通り抜けてきた壁とワスレの体に挟まれ息をするも苦しくなっていた。
「これはいかん。お前の運命は大きすぎる。大サービスじゃ」
今度はみるみる小さく縮まり3メートルほどのボールになった。
「こんなもんだな。次に運命を断ち切るために必要な武器に姿を変えるから見ておれ」
圧迫死を免れたが、京也は頭がくらくらしていた。
ワスレは丸から長方形にスリムに形を変えていく。上辺が鋭く尖り、下辺が十字になるとぷにょぷにょしていた面影が消え鋭く硬い巨大な剣が出来上がっていた。剣身は十字の鍔から先端まで両刃の剣。剣身が銀色に研ぎ澄まされ輝きを見せているのに比して、束は深く刻み込まれた無数の線が歳月を刻み込んでいた。
「クレイモアか、少々大き目だがお前の運命を断ち切るにはちょうどいいかもしれん」
他人ごとのように大剣が剣先を京也に向ける。
「蹴り飛ばすのは無理かもしれないな」
京也は壁にもたれかかったまま呟いた。




