第4話 説明会
船はやがて、ゆっくりと港に到着する。
真夜中の港は、それでも騒がしく、光に溢れていた。
船を降りると、案内がやってきて、一人一人何かを確認していく。
俺と白石と拓郎さんは何も持っていないことが分かると、皆とは別の場所に案内されるようだ。少し待っていろと言われた。
サユはその何かを見せて、俺達とは違うところに案内される。
「じゃあ、落ち着いたらまた、連絡してね。」
そう言って、名刺を渡される。そこには、外道院という謎の名称と、来栖サユと、名前が書かれていた。
「外道院…?」
「悪い子なのね。」
困惑する俺達を放置して、サユは行ってしまう。
あらかたの客が去っていって、しばらくすると案内が来る。
「では、こちらへ。」
そう言われて別室に案内される。
簡素な机とプロジェクター。手元には資料が配られる。
タイトルは【万別街のくらし〜ようこそ背徳的な街へ〜】。
幼稚園児が書いたのか、よく分からないキャラクターが描かれていた。
「わあ、背徳的な街だって。ちょっとエッチだね。」
「そうだな。」
資料…と言っても数ページしかない。パッと見ただけでもいくつかの誤字脱字が見受けられた。
「しばらくお待ちください」と言われ、数分、数十分…そして、三十分ほど待たされる。真夜中の眠気には勝てず、三人とも夢の中にいたが、扉の開く音で目が覚めた。
「あ、お待たせしましたー。ちょっとペンギンに餌をあげてて。」
そう言いながら入ってきた女性の後ろから、ペンギンが数匹入ってくる。ペンギンは鳴き声を上げながら、部屋の中を徘徊しだした。
「さあ、新人の皆さん。ようこそ万別街へ。皆さんのお世話をさせていただきます。執政院の波津と申します。どうぞ、よろしくお願いします。」
パチパチと拍手する。三人だけだが。
「さて、皆さんはこれから万別街に住むことになるのか、観光するのか分かりませんが、どちらにせよ、ここでの説明は大事大事になるので、よくよく聞いておいてくださいね。」
「はーい。」
「はい、良いお返事です。ちなみに皆さんは観光と移住、どちらですか?」
「…移住…ですかね。」
拓郎さんは言った。
「…悩みちゅーです。」
白石は言った。
拓郎さんと白石は俺を見る。
「…悩み中…かな。」
一応、まだ見るだけだ。
「なるほど、では、観光から説明しましょう。この説明会が終われば滞在許可証を発行します。それがあれば最大一ヶ月は滞在できます。そして…あー観光は以上ですね。まあ一ヶ月以内に帰って下さい。一ヶ月以上過ごして移住したくなったそこのあなた!執政院を訪れて、住民票を取得する必要があります。住民票には、職業と住居を記入する欄があります。働かざる者食うべからず!ですね。職業は執政院が職業案内所を運営しておりますので、そちらにお願いします。住む場所も紹介しています。あ!忘れてた。」
スライドが四枚くらい飛ばされた。
「万別街の心得その一、働かざる者食うべからず。その二、全ては自業自得。その三、強いものには逆らうな。以上を胸に刻んで万別街での暮らしをお楽しみ下さい。さて、以上になりますが、何か質問は?」
「…終わり?」
「はい。」
「あ、じゃあ質問。異能力はどうやって手に入れるの?」
「異能は万別街に住んでいれば何かは手に入ります。それ以上は、異界に行ってみるとか、危ないものを食べてみるとか。異界に行きたいなら外道院までお越し下さい。」
「外道院…。」
サユの言っていたやつか。
「詳しくは資料をご覧ください…。はぁ。」
前を見ると、案内の女性は大あくびをしていた。眠そうだ。この時間だしな。
「今日は…港の宿泊施設をご利用下さい…。明日は執政院に行ってみて…。もう眠い…。あ、これ、滞在許可証…。」
そう言って、女性は動かなくなった。ペンギンが心配そうに見ている。
俺たちは女性を置いて、外に出た。
宿泊施設は直ぐ側にあった。滞在許可証を見せるとそのまま部屋に通される。
ベッドに寝転がりながら、資料を見てみた。
この街は所謂無法地帯なわけだが、それでも管理しようと頑張っている地域もある。それが東側。そこは、王が統治しており、その下にいる六つの機関により、治安が保たれている。
政治、行政、経済を司る執政院
健康、保険、医療を司る安心院
建設、道路、移動を司る開拓院
食料、資源、貿易を司る豊穣院
治安、司法、防衛を司る鎮守院
そして、異能、異界、研究を司る外道院
さっきの説明は執政院が、船が開拓院で、そしてサユは外道院だ。
三権分立などあったものではないが、一応、治安は保たれている…らしい。
そして、仕事は執政院で紹介してもらえると。
その他にも役に立つ情報が多く載っている。意外にもしっかりしている資料だ。
翌朝、身支度をして外に出ると、白石と拓郎さんが待っている。
「見てください、この街の地図です。宿泊施設のフロントにありました。今日は街を探索しつつ、仕事を探しに行こうかと…。」
「いいと思うよ。あ、そういえば俺、いつの間にかタメ口になってたが大丈夫か?」
「ええ、むしろ、その方が楽でいいです。後輩でさえ私にはタメ口でしたし、はは。」
「はは…。」
この人は地雷が多いな。苦笑いしつつ地図を見ると、歩いてでも行ける距離だった。
観光がてら歩いていく。
街はそれほど荒れていない。
それほどというのは想像よりという意味で、それなりに汚れてはいる。
だが、銃弾や怒号が飛んでくることもない。普通に女性や子供も歩いている。普通の街だと感じた。
白石は時々立ち止まっては、端末で写真を撮っている。
俺は特に撮るものがあるとも思えなかった。
通行人は、他人に目を向けることはない。
昨日来たばかりだと言うのに、誰も何も説明せず、警戒もしない。
万別街の『来る者拒まず去る者追わず』とは、本当なのだと実感する。
執政院に到着する。
古びた建物だ。恐らく執政院本部ではないだろうが、それなりに歴史を感じた。
中には大勢の人がいた。
皆、慌ただしく動いている。どこに行ったらいいのか分からない。
「誰かに聞いてみる?」
「そうだな…。」
「いえ…あそこでしょう。」
拓郎さんはそう言うと、すたすたと歩いていく。
たどり着いた受付には、確かに職業案内所と書かれていた。
「悲壮な顔をして、だけど働かなければならないことに対する絶望の顔をした人が多くいましたので。」
「そうなのか…。」
しかし、少し混んでいる。待たされることになりそうだ。
「先ずは住居じゃないか?」
「…そうですね。」
確か、サユが無限がどうのと言ってた気がする。
「そこの君って、家を探していたりいなかったり?」
背後から、声がかかる。
振り向くも誰もいない。
「足元だよ。」
下を見ると、そこには服を着たうさぎがいた。目をこするも現実だ。
「喋るうさぎもまあいるの。ところで家を探してる?」
「うん。探してるけど……ウサギさんは不動産屋さん?」
「そうだよ。オッケーね。じゃあいこう。」
うさぎは床に、どこからとも無く取り出した鍵を突き刺した。
そこに扉が現れる。それが開いたかと思うと、気がついたら足元が失われていた。
「さあゆこう、いざゆこう、内見へー。」
真っ暗な空間に、俺たちは放り出された。




