第12話 緊急クエスト
「糸は切れたよ。」
俺と白石の部屋に集まって打ち上げ中、俺はサユに魔道具を見せた。
「私が使った時は大丈夫だったんだけど……不思議ね。まあ、また探しておくわ。」
「ああ、よろしく頼む。」
サユは知り合いに魔道具を収集している人がいるらしく、そこから俺の元へ魔道具が渡ってくる。
これまでも色んな魔道具を試してきた。
しかし、どれもそこそこは使えるが、決定打にはならない。
今日のクエストがいい例だ。
俺が一体のジュートも拘束できずにいる中で、拓郎さんと白石は数十体、サユは数百体のジュートを討伐する。
そんな彼らも未だ探索者の中では中の下に位置しているというのだから、上が高すぎて見上げれば首を痛めてしまいそうだ。
白石がルーレットを回す。
「わ! 医者になれた。」
「給料は……十万ドルですね。」
俺の番が来て、ルーレットを回す。
少し大きすぎる値が出て、嫌な予感がした。
「フリーターですね。」
ゲームでまでこれか。自分が嫌になる。
そのまま初めての給料日。ルーレットで『二』が出たため、お札を二枚受け取りつつ番を終える。
「なあ、なんの才能もない人間が、異能を得たら一気に強くなることはあるのか?」
「簡単よ。異能の種類次第だけど、一気に強くなる人もいるわ。」
「その異能を確実に得る方法が知りたいんだよ。」
「異能を使う方法なら簡単よ。」
サユは焼酎を片手に、つまらなさそうに言う。友達の話だけど、と前置きして。
「手足を千切って、基礎異能の封呪印を刻んで、深い穴に入れるの。一日一度だけ水と食料を上から垂らして、後は虫なんか入れてみて、地獄を作り出すの。そして上には本物としか思えないほどリアルな空と鳥の絵を流すのよ。そしたらほら、誰だって翼が欲しいと思うでしょう? 現に、そう思えなかった人は全員死んだわ。」
ね、簡単でしょ。と。
それが本当に友達の話なのかと、突っ込める奴は誰もいなかった。
「何にせよ、ゆっくり決めればいいわ。一度発現したらやり直せない。本当の願いも分からなくなるくらいなら、私は異能なんていらなかった。」
サユはそう言ってルーレットを回した。
止まった数字は俺よりも小さかったが、彼女のコマが進んだ先は——。
「あら、私もフリーターみたい。お揃いね。」
サユはくすりと笑った。
だけど、やっぱり異能は欲しい。
願わくば、それが本当にやりたいことであるといい。ただその場の危機を脱するためだけの異能では、意味がないんだ。
自分を変えるチャンスを、経験が積めるチャンスを。
いつものようにギルドの掲示板を眺めていると、目の前に真っ赤な紙が貼られた。
近づいて見てみる。
「…緊急クエスト?」
「はい、良ければ受注ください。違約金はゼロになりますので。」
受付けの職員が言う。
クエストには達成できなかった場合に違約金が発生することが多い。受注時点で費用が発生しており、冷やかしを防ぐための制度だ。それが免除されるということは、誰でも歓迎、何が何でも受注してほしいということ。つまり、相応に面倒で危険なクエストである可能性が高かった。
少し考えて、掲示板から紙を剥がす。
ここに貼られているということは、俺のようなランクでも受けていいということだ。
振り向くと、ちょうど向こうから二人が歩いてくるのが見えた。俺は紙を持ったまま合流する。
「なあ…これなんだが」
「ああ…私達も、ちょうどその話をしていたところで…。」
見れば、二人の手元にも同じ真っ赤な紙があった。
考えていたことは同じだったらしい。
拓郎さんは神妙な面持ちで問いかけてくる。
「それで…どう…しますか?」
「そうだな、危険かもしれないが…。」
「そうだよね! 仲間が困ってたら助け合わなきゃ。邪魔する奴は皆殺しだー!」
「白石さん! ただでさえ怪しまれているんですから…慎重に…。」
いつものようにはしゃぐ白石。だけど、どこか様子がおかしい。今のは本当にただの冗談なのだろうか。
「…動くにしても、どうする…? とりあえず受けてみる?」
「そうですね…そうでないと話も始まりませんし、もっと詳しい事情を聞けるかもしれません。」
「そうだね。」
会話を進めながら、俺は何だか話がかみ合っていないことに気づく。
……二人は、一体何の話をしているんだ?
違和感を覚えて持っていた紙に目を落とし、内容を熟読する。
緊急クエスト。そのタイトルは——
『高坂抄の捕獲』
こうさか……続きはなんと読む? しょう?
というか、魔物の討伐依頼ではない。人? こんな依頼もあるのか。
詳細欄には、この人物が犯した罪状がずらずらと書き連なられていた。そして、一番下に手配写真が貼ってある。
それを見て、思考が凍りついた。
真っ白な髪と、天使のような翼。それは、彼女の異能形態の写真だった。
そうか、抄は「サユ」と読むのか。
つい昨日まで一緒にボードゲームをし、酒を飲んでいた少女。
そこに写っていたのは、紛れもなく俺たちの知るサユだった。
「サユはどこだ?」
「分からない。昨日は一緒に寝たんだけどね。朝起きたらいなかった。」
白石が低く答える。
異能が欲しい。劣等感、強くなるチャンス。そんなことは一瞬で頭から吹き飛んでいた。
「探そう。」
気づけば、口が勝手に動いていた。
紙の詳細欄の一番下には、こう締めくくられている。
『——死生を問わず』




