第四話 虚数戦闘機を撃墜せよ!
『虚数時空間防衛隊』とは、日本の虚数時空間を守るために組織された部隊である。
■部隊の構成
・隊長 : 山崎良平
・副隊長 : 坂井陽太、石川美佳
・第一部隊 : 坂井陽太の率いる部隊。5人の隊員からなる。
・第二部隊 : 石川美佳の率いる部隊。5人の隊員からなる。
■タキオンを使用した武器と装備品
(1)虚数センサー : 虚数時空間に居る者やタキオンを使用した製品に反応する。
(2)虚数グラス : 虚数時空間に居る者やタキオンを使用した製品を特定できる。
(3)虚数銃 : 虚数時空間に居る敵のみを攻撃できる。銃弾が敵に命中すると大規模な虚数電流が流れ敵を感電させる。虚数電流を放出し続けるようにも使用可能。
(4)虚数ボディスーツ : 虚数時空間での運動機能を著しく向上させる。現在までにレベル1からレベル3のものが開発済みである。
グルサーとの戦いで味わった圧倒的な力の差――その残酷なまでの現実が、陽太の胸の内に消えない焦燥と闘志を焼き付けていた。
「もっと強くならなければ、あいつには勝てない……」
陽太は日が変わるのも忘れて自分を追い込んだ。地を這うような戦闘トレーニングに明け暮れ、限界を超えて筋肉が悲鳴を上げても手を緩めない。全身に血の滲むような鍛錬の跡が刻まれていた。
そんな陽太の鬼気迫る姿を間近で見つめていた藤本博士もまた、胸を熱くしていた。陽太の覚悟に応えるべく、博士は寝食を忘れ、研究室の明かりを夜通し灯し続けて虚数ボディスーツの改良に没頭した。そして、血と汗の結晶とも言える最新型のスーツがついに完成したのだった。
「陽太、頑張っておるな」
「博士、おはようございます。石川さんと隊員達の様子はどうですか?」
「石川はかなり良くなったが、隊員達はまだ入院中じゃ」
「そうですか……。俺がもっとしっかりしていれば……」
「レベル4の虚数ボディスーツが完成したんじゃ。試してくれ」
「はい!」
陽太は差し出されたスーツを受け取り、素早く纏い直した。着用が完了した瞬間、全身が熱くなるような、これまでとは全く異なる虚数エネルギーの奔流が全身を駆け抜ける。拳を握りしめると内側から底知れない虚数エネルギーが湧き上がってきた。床を踏み締めるだけで、足元から確かな手応えが伝わってくる。
「これ……凄いですね! 体の芯から力がみなぎってくる感覚がします!」
陽太は驚愕に目を見張り、自身の両手をまじまじと見つめた。
「そうじゃろ。虚数ボディスーツはレベルが1上がるごとに、力の最大値は劇的に跳ね上がる。基本設計として、レベル1を基準にするとレベル2で10倍、レベル3で100倍、そしてこのレベル4では実に1000倍もの爆発的な力が出せるんじゃ。さらに、レベル4からは重力制御が可能となり、空中浮遊や自在な飛行も可能となる」
「飛べるんですか?」
半信半疑のまま陽太が意識を集中させると、足がふわりと床から離れた。
「うわっ……本当だ! 自分の意思だけで自由に飛べる!」
陽太は興奮を抑えきれず、狭い研究室の中でふわりと宙を舞ってみせる。
「ふふふ、素晴らしい適応力じゃな。まあ、今はまだ浮くのがやっとじゃが、訓練次第で戦闘機をも凌駕するほどの超音速飛行も可能になるはずじゃ」
「はいっ、ありがとうございます! これなら、あのグルサーにも……!」
「それと、もう1つ嬉しい知らせがある。お前が普段かけている虚数グラスに、視界内の相手の戦闘能力をリアルタイムで数値化して表示させる新機能を組み込んだ」
博士はタブレットを操作しながら、満足そうに髭を撫でた。
「ちなみに、レベル1の虚数ボディスーツを着た標準的な戦闘員の戦闘力を『1』として基準化してある。ちなみに、今の段階で正確なお前の戦闘能力を測定してみたところ……数値は『300』を示しておる」
「300……ですか」
「ああ。だが、お前のポテンシャルはこんなものではない。さらに極限まで訓練を重ね、体内の虚数エネルギーを極限まで溜め込めば、『1000』以上にも引き上げられるはずじゃ。……期待しておるぞ、陽太」
頭上の数値と、己の内に眠る巨大な虚数エネルギーの塊を実感し、陽太は力強く頷いた。
「はいっ! 限界を超えて、絶対に強くなってみせます!」
それからしばらく経った頃、平穏な日常の裏側で、世間を底知れぬ恐怖に陥れる奇妙なニュースが連日世間を賑わせていた。日本各地の夜間、突如として前触れもなく発生する原因不明の大爆発。その現場を警察や関係機関が徹底的に調査したところ、いずれの現場からも最新型の小型誘導ミサイルの残骸が発見された。物理的な痕跡から、何者かによるミサイル攻撃を受けたことは明白だった。
だが、事態をより異常なものにしていたのは、その迎撃体制の空白だった。日本の領空を守るはずの自衛隊も、厳重な警戒態勢を敷く在日米軍も、いかなるレーダー網であっても、飛来したはずのミサイルを一切捉えていなかったのだ。影も形も見えないまま、突如として爆発だけが引き起こされる――その不可解すぎる事実が、政府や軍の首脳部を深く混乱させていた。
この世を揺るがす不気味なニュースを深刻な表情で知った山崎さんは、事態の重大さを重く受け止め、藤本博士、石川さん、そして陽太を秘密裏に招集した。閉ざされた会議室の空気は、重く張り詰めていた。
「……みんなもニュースで見ているな」
山崎さんはテーブルに資料を叩きつけると、鋭い視線を3人に向けた。
「俺は、これは敵国の仕業だと思っている。レーダーに映らない以上、通常の兵器ではない。藤本博士はどう思われますか?」
山崎の問いかけに、博士は腕を組み、険しい顔つきで唸った。
「ああ、敵国の仕業である可能性は非常に高い。だが厄介なことに、我が方の虚数センサーには今のところ全く反応を捉えられておらんのだ」
静まり返った部屋の中で、陽太が口を開いた。
「もしかして……空からなら、虚数センサーを反応させずに攻撃できるんじゃないですか?」
陽太の素朴ながらも核心を突いた意見に、博士は深く頷いた。
「あり得る話じゃ……。おそらく敵国は、巨大な虚数トンネルを地上からは探知できない高空に構築している。そして、そのトンネルの内部から、『虚数戦闘機』を日本領空に密かに侵入させ、地上を攻撃してきているのじゃろう」
博士は眉間に深いしわを寄せ、悔しそうに拳を握った。
「極めて高度で悪質な手口じゃ。これに対抗するには、既存の常識を覆す専用の『虚数レーダー』を新しく開発せねばなるまい……」
山崎さんは力強く博士を見据えた。
「一刻も早くそのレーダーが必要です。作って頂けますか?」
「1ヶ月ばかり待ってくれ。必ず奴らの侵入を暴くレーダーを完成させてみせる」
約束の1ヶ月後――ついに『虚数レーダー』が完成した。しかし、その開発期間中も容赦なく被害は日本各地へ拡大し、世間の不安は最高潮に達していた。
そして最新レーダーが稼働を始めて間もない、その日の夜。静まり返った研究室に、けたたましい警告音が鳴り響いた。
「伊勢湾の上空に、巨大な虚数トンネルの反応が現れたぞ!」
藤本博士が血相を変えて叫ぶ。モニターには、これまで隠されていた敵の居場所がはっきりと映し出されていた。
「俺が行きます!」
陽太は迷うことなく立ち上がり、レベル4の虚数ボディスーツを瞬く間に纏い、虚数グラスを装着した。外へ出ると、夜風が吹き抜けるなか、山崎さん、藤本博士、石川さんが陽太の見送りに来ていた。
「陽太、奴らの野望を打ち砕いてきてくれ!」
「はいっ!」
力強く答えると、陽太は地面を蹴った。ドゴォッ!と足元が激しく鳴り響き、陽太の身体は凄まじい推進力で垂直に飛び上がる。一瞬で夜空を切り裂き、わずか数秒で上空1000メートルの高度へと到達した。上空の冷気と強風の中、陽太は飛行しながら徐々に身体の軸を傾けていく。水平姿勢をとった瞬間、虚数ボディスーツの出力が限界まで引き上げられ、飛行速度は爆発的な加速を始めた。直後、陽太の周囲の空気が悲鳴を上げ、凄まじい衝撃波が夜空に轟いた。――バンッ!
「ほう……! もう超音速に達したのか。なんという凄まじい加速じゃ……」
地上から見守っていた博士が、あまりの進化の度合いに感嘆の声を漏らす。陽太から発せられたソニックブームがビリビリと空気を震わせて伝わってきた。陽太は音をも置き去りにする全速力で、現場である伊勢湾へと急いだ。
わずか15分ほどで、陽太は目的地である伊勢湾上空に到着した。
「……あそこか!」
虚数グラスを覗くと、闇夜の海上にぽっかりと口を開け不気味に黄色く光る巨大な虚数トンネルがくっきりと浮かび上がっていた。まさにそのトンネルから、『虚数戦闘機』が姿を現したところだった。
敵機はそのまま名古屋市街の方角へと針路を向け、容赦なく一発の小型誘導ミサイルを発射した。都市が再び炎に包まれる――。
「そうはさせないぞ!」
陽太の闘志が頂点に達する。超音速の機動力を活かし、陽太は凄まじいスピードで逃げるミサイルを猛追し、一瞬で追いつくと、両手でミサイルのボディをガッチリと捕らえた。
陽太は敵ミサイルの推進装置を力任せにねじり切り、破壊すると、海の方角へと思い切り投げ捨てた。制御を失ったミサイルは暗い海面に叩き付けられ、轟音とともに激しい水柱と爆炎を上げて消滅した。
今度は虚数戦闘機が機首を翻し、猛然と陽太めがけて襲いかかってきた。機関砲の銃口が火を吹き、無数の弾丸が夜空を切り裂く。
「くっ……!」
陽太は超音速の機動力を活かして宙を舞い、鋭く旋回しながら弾幕を紙一重でかわしていく。そして一気に敵機の真上へと飛び込むと、全身の体重を乗せた強烈な一撃を主翼に見舞った。
メキメキッ!と金属がひしゃげる音とともに主翼がへし折れる。バランスを失った戦闘機はコントロールを完全に奪われ、エンジンから黒煙を噴き上げながら、大きく旋回しながら虚数トンネルの彼方へと逃げ帰っていった。
――ふう、と息をつき、敵を追い払ったと安堵したその瞬間。突如として、冷徹なグルサーの声が夜空の闇を切り裂いた。
「エルミートアターック!」
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※エルミートアタック
:高速の飛行速度で威力を増した突きや蹴り、頭突き、体当たりなどで相手に強い衝撃を与える技である。直進方向に力を集中させることで、通常の攻撃よりも威力が増す。
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「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」
逃れる間もなく直撃を受けた陽太は、彗星の如く吹き飛ばされ、はるか下の暗い海面へ激突した。凄まじい水柱が上がり、陽太の身体は冷たい海の底へと沈んでいく。しかし、燃え盛る闘志のままに水面を大きく盛り上がらせ、陽太は再び宙へと飛び出してきた。全身のあちこちから血が流れ、ダメージは尋常ではない。
「はあ、はあ、はあ……!」
荒い息を吐きながら、陽太はグルサーを睨み据えた。
「ふっ……俺のエルミートアタックをまともに食らって、よくぞ耐えたな。以前よりも格段に強くなっている。だが、その身体はもう限界のようだな……今日こそ、ここで貴様を葬る!」
陽太はすかさず虚数グラスの視界をグルサーに向けた。はじき出された数値は――『1000』。今の俺の最大値と同じだ……! 全力を出せば、勝てる! 緊張感がピークに達した極限の空間で、2人は互いの出方を窺うように緊迫した間合いを取り合う。先に動いたのはグルサーだった。
「ヒルベルトウェーブ!」
放たれた強烈な波動が迫る。陽太は全速力で真上に跳躍し、紙一重でその技を回避した。
「甘い! お前の動きなど見えているぞ! エルミートアタック!」
上空へ逃れた陽太を追うように、グルサーが猛烈な加速で直撃の突きを放つ。だが、陽太の目は死んでいなかった。凄まじい勢いで迫る拳を前に、陽太は直前で身体を反転させ、鋭く頭を沈めて回避する。そして、溜め込んでいた全ての虚数エネルギーを右拳に爆発的に集中させ、渾身の拳撃をグルサーの腹に突き刺した。
「虚数衝撃拳!」
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※虚数衝撃拳
:全身の虚数エネルギーを拳に集中させて相手に直接打撃を加えることで相手に強い衝撃を与えることができる。接近戦で有効な技である。
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「ぐはっ……!」
陽太の渾身の拳撃が、グルサーの硬質な腹部に深くめり込んだ。虚数エネルギーの衝撃波が敵の体内で炸裂し、グルサーの巨体が大きくくの字に曲がる。しかし、強敵グルサーは陽太が攻撃を放った直後のほんの一瞬に生じた隙を見逃さなかった。
「ヒルベルトウェーブ!」
零距離から放たれた波動の直撃を受け、今度は陽太がたまらず弾き飛ばされた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」
「はあ、はあ、はあ……クソッ、まさか陽太がここまで強くなっているとは……!」
深手を負ったグルサーは、悔しげに顔を歪めると虚数トンネルへ身をひるがえし、その姿を消していった。直後、不気味なトンネルは消滅し、夜の伊勢湾には静けさが戻った。
しばらくして、救助のサーチライトを照らしながら、山崎さん、藤本博士、石川さんの3人を乗せたヘリコプターが現場へ急行した。
「あそこです! 陽太が浮いています!」
機体から降ろされたロープで引き上げられた陽太は、全身に酷い傷を負い、荒い息を繰り返していた。すかさず3人が駆け寄り、手際よく応急処置を施す。
「坂井! しっかりしろ、大丈夫か!」
「はい……なんとか、大丈夫です……」
「よくやった。お前の死闘の一部始終は、虚数レーダーとグラスを通してすべて見えていたぞ」
「……グルサーは?」
「奴は逃げて行った。だが、あんな化け物を退けただけでも、今の我々にとっては大きな勝利だ」
山崎さんの言葉に、陽太は痛む身体を奮い立たせ、力強く拳を握りしめた。いや……まだ決着はついていない。あいつは、必ずまたやって来る……! 次こそは必ず奴を討ち取る――。朝焼けの空を見上げる陽太の瞳に、揺るぎない決意の炎が宿っていた。
(第4話 終わり)




