彼女を選んだ者
毎回お茶を無料でもらえるのはとてもありがたいです! という話を聞きたくてローズと話しているわけではないのに。
「ローズは本当に良いんだね?」
このジョイアグリュックにだってそれはいる。
他の結婚相談所だってそうだろう。
断ることはできない。
決めるのは入りたいと思う者だ。
だが――この元聖女ローズを選んだリザードマン。
名を『エイダン』と言うらしい。
ローズはまあ良いかと軽い気持ちでそのエイダンとかいうリザードマンとのお見合いを受けることにした。
以前にもお見合いはしたことがある。
けれどその相手は皆、人間だ。
このような相手は初めてでドキドキします。と本人は真面目に言っているが、こちらとしてはヒヤヒヤものだ。
どうしてこのような種族も結婚相談所に登録できるのかと言えば、人間の男よりも裏切ることが少ないから人気なのだとこの業界にそれを連れ込んだ人が言っていた。
でもそれは事情のある一部の人だけで、ジョイアグリュックはどうするのか? と問われたこともある。
あの人は本来の恐ろしさを知らないからそう言えるんだ――とウィルは思っていたが、いざ、自分がそういうのに関わるとなると勝手が違って来るというものだ。
物好きだと言われる覚悟はあるのか? それよりもローズは元聖女でもうそういう事にも慣れているような気がする。
普通の人と結婚したいと思うだろうが、普通よりも早く、安心や癒しやほっとする場所が欲しいのかもしれない。
ローズには絶対言えない。
隠れて見守っていると。もし、このまま仮交際、本交際になったら諦めよう。
そう決意して、ウィルはローズの話を聞いていた。
最後に彼女はこう言った。
「ウィルに相談ができて良かったです。また何かあったらしても良いですか?」
「ああ、もちろん!」
笑顔でそう言ったけれど本心としては違う。
けれど自分はジョイアグリュックを使う者ではなく、運営する側だ。
彼女はこれしかないとあのプベルスで作った新しい服を着て、お見合いをすると言う。
何とも嫌な思いがする。
やはり、言ってしまおうか、彼女に本当の気持ちを。
だが、ダメだ――そんな思いをずっとしながら、ウィルがユミトに行けば、バリーがやっと帰って来た! とばかりに見て来て、どうだった? 聖女様とのお茶は……等と言って茶化して来た。
「いや、全然楽しくはなかったよ。こういうのはやっぱりキャリーさんとかアメリアさんに直接言った方が良いと思うんだ。俺なんかが出る幕もない」
「だけど出たいだろ?」
本音を突かれた。
ああ――と言えたらどんなに良いだろう。
無言になるのも嫌でウィルはバリーに聞いた。
「そっちはどうなってる? あの足湯の件は何とかなりそうか?」
「まあ……」
何とも歯切れの悪い返事だ。
あの後すぐにバリー達はそういうのに特化した者達に直接掛け合って指示をしたそうだが、この分じゃ絶対尻尾を捕まえていない。
冒険者なら勝手ができるかと言えば違う。それなら勇者である自分の方が勝手が付くだろう。
「俺が行くか……」
「聖女様はどうする?」
「それは今日明日じゃない。何とかなる」
「へー、良いのか? 俺達がそういうのに関わっても」
「言うな、これはあの二人にも言ってないんだ。お前にしか言ってない」
「そうかい、分かったよ。それだけ俺はお前に信頼されていると」
「違う、たまたまだ。バリーがダメならブライアンやサイラスに話してた。足湯の件のついでに言っただけだ」
本当にそうだった。思うように動くには誰かに自分がどこで何をすると言っておいた方が後々面倒がなく良い。
「聖女様のお見合いの件はすでにオーウェン様の耳にも入っているだろう? かなり心配されていると聞いてる」
「そうだな、あの方は聖女様の事となると普通じゃなくなるから。聖女様が小さい時から側に居たわけだしな」
自分が勇者になる前はそのオーウェンの方が強かった。
でも今は逆だ。
それで優越感を得るわけじゃない。彼がしていた事を自分が代わりにやろうとも思わない。
ただ彼女に何かなければそれで良いのだ。
オーウェンは言っていた。
その通りだとウィルも思った。
彼女が安心して過ごしていることこそがこの世の平和なのだと感じたからだ。
「まあ、俺が行った所で何も変わりはしないんだろうけど」
それでも行くのは危険をなくす為だ。
「行ってらっしゃーい」
そんなのんきなことを言うバリーも連れてウィルは行くことにした。
どう考えても魔力感知してほしい所だったし、バリーのお得意は攻撃魔法だ。何かの役には立つだろう。
「自分だって魔力感知くらいはできるでしょう!」
「ああ、だけどあれは俺の感知力じゃ無理だ。あの聖女様が足を入れてやっと分かったくらいだ。平時には効かない」
「それほどの魔力ですか……。とてもスゴイ方なのでしょうね、相手は」
褒めてどうする? とウィルは思ったが、バリーはそういう男だった。
男だというのに髪を束ねられるくらいの長さで魔法使いとはこういうものだと思っていませんか? と常識にはあまり囚われていないかと思えば囚われていて、優しく包み込んでくれそうな感じを一瞬で無にするのが得意。だけども、幸せは誰にでも等しくあるという信条を持っている。
そんな優しさをウィルは見習っているのかもしれない。
そうでなければきっと一緒にはやれないだろう。
「サイラスは連れて行かないんですか?」
「見当たらない」
「そうですね、彼は部屋に籠って何やら作っているようです」
「何を?」
「世紀の発明をする! と言っていましたよ。薬ではないでしょうし、同じ魔法使いとして気になる所ではあるのですが、なかなか教えてくれず、ブライアンも知らないと言ってましたよ」
じゃあ、ユミト関係ではないな……とウィルは長年一緒に居る勘で思った。
「まあ、サイラスはいつものようにふらーっと出て来るだろ。できたーとか言ってさ」
「そうだと良いんですが、部屋に籠ってもう何日目なのか思い出せないくらいなんですよね」
「それは心配だな」
「ご飯はちゃんと食べてるんですがね」
そんな話をしながらウィルはバリーと共に探すことにした。
そうしていれば少しでも気が紛れるからだ。
あのリザードマン、許すまじ! などと思わない為にもこれは必要な事だった。
そして、そのお見合いの日。
彼女はそのリザードマンより早くジョイアグリュックにやって来た。
ウィルが言ったのだ。
ローズにどこでお見合いすれば良いでしょうか? と尋ねられた時に、ジョイアグリュックではどうか? と。飲食もできるし、知っている中でならリラックスもできるだろうと。
それに彼女は賛成した。
お見合いは初めてではありませんが、お相手がリザードマンさんというのは初めてなので、軽い気持ちでこういうものかと知る良い機会なのかもしれません!
リザードマンさんなら言葉の壁も少ないでしょうし……。
ある意味現実を見ている。
このお見合いが終われば仮交際に入り、本交際となる。そして成婚だ。
そうなればもうこうしてローズと話すこともないのだろう――。
だがしかし、その仮交際は本交際や成婚とは違い、この人とだけ! ではない。
言わば、お友達期間のようなものであり、その彼以外の何人とでもそうしたお食事やお出掛けができ、その中からこの人だ! という人を一人見つける。
それまではこうしていられる!
いや、自分は『友達』としてならそれにあてはめなくても良い。
いやしかし――そうした悩みはその時になってから考えれば良いのかもしれないが何故だろう。
ローズにはその相手がふさわしくないと思ってしまう。
自分はユミトの方ばかりでジョイアグリュックに関して言えばまだ手探り状態だ。
だからキャリーとアメリアを雇った。
テオさんは魔王がいた頃からの知り合いで、声を掛けてみたら職に困っていたと言うので快く引き受けてくれた。
そして、自分はユミトの方で自由気まま暮らしをしてたのだが。
(やっぱり俺はローズが心配なんだなー)
と自覚した所で変わるものは多少あったとしてもあのローズが相手ではないに近しいのだけれど、より近くに居られるならとローズの事をもっと見守る為にもウィルはその日からユミトよりもジョイアグリュックでの方が多くなった。
入り浸りだ――と言われても、その思いに気付いてからはじっとしていられない。
おかしな人と言われたら考えてしまうが彼女は何も気付いていない。
だから好都合というわけではないのだけれど。
かくして彼は密かにお見合いを見守り続ける人となったのだった。




