ローズの過去
これはウィルと未踏ダンジョンでのお宝発見クエストに行く前の事だ。
「あら、ローズさん! 良いお知らせですよ!」
アメリアはローズが通い慣れたようにジョイアグリュックに入って来た瞬間、平和そうな声で言った。
「何ですか?」
ローズは少し疑わしくアメリアを見る。
「そんな目をしないで、ここで登録されて初めてのお相手様からの申し込みが数件あるのですが、お見合いをするか決めてもらえますか?」
「はい……」
ドキドキと店の隅の席に座り、テーブルにその相手のプロフィールが書かれた紙を一枚一枚ローズは見る。
その間にアメリアに「これは婚活をされる方、全員に毎回一杯だけ無料でお出ししているものなんだけど……」と言われて、紅茶の一杯がテーブルに置かれた。
「ありがとうございます」
「無理強いはしないからね、自分が気になった方だけで良いのよ。上手く行かない方はずっと上手く行かないから早めに終わらせて、次に行った方が良いわ」
経験値からだろうアドバイスにローズは頷いた。
一杯の温かい紅茶が美味しい。
久しぶりだった、温度もちょうど良い。
カップは安そうだが中身が良ければ何も問題はない。
一口、二口飲んでからまたその紙を読み始める。
皆、似顔絵だから本当はどうだか分からない。
けれどすぐに結婚を決めてしまいたいローズは全員と会うという選択もありだと思って隅々までその相手のプロフィールの紙を見ていたのだが、その思考が途中で止まった。
皆、自分の好みではない。
人間としての悪さが似顔絵以外の自己紹介の文で全面的に出てしまっている。
趣味も自分とは合わなそうだ。
「――えっとー」
迷っていればキャリーが声を掛けてくれた。
「あ、お受けする場合はこの用紙に会員番号を書いて下さい。ここに会員番号があるので、それで紐付けて管理しているので」
「分かりました」
何とも手間暇がかかりそうだ。
今の時代、それ以上に簡略化できるものは魔法しかないけれど、魔法ではそれはなかなかできないだろう。
「自分からの申し込みを一人でもして、今日の活動は終わりになります。その会員番号を書く紙に申し込む方の会員番号も書いといて下さい」
「はい」
テキパキとキャリーに説明されて、分厚い本のような書類の束を二つほどローズは手渡され、自分の申し込みたい相手を選ぶ為にそれを開いた。
何となくこの人にしましょうか……とローズは決める。
その人は自分と年齢も近く、故郷も近かった。
ローズはその神から与えられた力を初めて発揮した数日後にはオーウェンの元に連れて来られ、聖女として生きる運命になった。
まだ三歳の時の事だ。
両親はそれがこの子の運命ならばと素直に受け入れた。
ローズ以外にも子供がたくさんいるから大丈夫だとオーウェンに言い、きっとたんまり手放してくれてありがとうという意味を込められた礼としての多額のお金をもらっているだろう。
それは良い。
それでそこで暮らして行く家族が裕福になるのなら、自分の存在価値は少しは役立ったということになるのだから――。
「決まりました」
ローズは手を高々と上げて言った。
それに反応してアメリアがやって来た。
会員番号が書かれた紙を見て言う。
「一人? なのね」
「はい、一人です」
キッパリとローズは言った。
選んだ相手はなかなかに穏やかそうな顔をしていたのだが、後日返事が来た。
聖女だったと聞くとお断りされたらしい。
その代わりに新たな申し込みがあったとキャリーが言って来た。
「えっと、ローズさんは『種族関係なく』をご希望でしたよね?」
「はい、そうですが」
「その、それで申し込みがあったのですが……」
何やら歯切れが悪い。
何故だろう?
「あのー、リザードマンさんはお好きですか?」
「え?!」
思いもよらない所からの申し込みだった。




