新しい服
ローズの服が出来たのはそれから一か月後だった。
その間もローズは婚活を頑張ろうとしていた。
気になる相手を見つけては申し込みをして過ごしていたが、誰もそれに応えてくれる人はいなかった。
婚活を始めた最初の頃は優先的に選ばれるような仕組みになっているはずなのに――と悩んだり、落ち込んでいたのを完全に忘れさせたその服は誰のよりも優先的に作られたらしく、もう出来たのか? という感じで細部まで丁寧な仕上がりで上出来。
やはりこの店を選んで良かった。
プベルスは最高の服屋だ――と皆が噂するだけはある。
そのプベルスの一室をお借りして、すぐにそれに着替えたローズは一目散にウィルに見せて来た。
とてもはしゃいでいるその姿はとても眩しかった。それだけ喜びに満ち溢れている。
「見て下さい! ウィル。とても素晴らしいです!」
「ああ、そうだな」
もしまたここで作るなら今度こそぼったくられるだろうが、ここ以外にローズの良さを出す服が作れる所はないだろうから仕方ない。今日からまた難易度の高いやつを仕事に選ぶか――。
ウィルがそう思っているとローズがこそっと言って来た。
「私にもユミトの仕事できないのでしょうか?」
「いや……」
これにはウィルは困る。
彼女に出来そうなのは本当、日頃彼女がしている事と変わらない。それでも報酬としてはユミトからの方が良いだろうし、そうした難易度が低い仕事は誰もやりたがらないから良いのだが。
「君はモンスターではなく宝を発見できるかい?」
それぐらいのしかないのだ、今は。
ローズの力だけでやるのは難しいだろう。
一人で出来るものがない。
なら、一緒にやってくれる人を探すか――でもそれはローズの報酬が半分、悪くてそれ以下になることを示唆していた。
それで良いわけがない。
彼女はとても気にしていた。
お金がもっとあれば――といつも考えているようだった。
「困らせていますか? 私、ウィルを今……」
いや、待て! その困ったような上目遣い。
それもまたイチコロにされるやつだ。
ウィルはもうローズにダメにされそうだった。
(何て破壊力! あの店主、侮れん!)
似合いすぎるローズの服は当分ウィルを危険から遠ざけた。
そのくらいローズをとても魅力的にしていた。
だから、俺は今こうしてここに居るのだ――。
この服しかないんです! あの白い服は思い切って捨ててしまって……と言って、新しい服でやって来たローズの未踏ダンジョンでのお宝発見クエストが終わったら、難易度の一番高いクエストをやろう。
魔王を倒す時、聖女であったローズの力が要ると分かるまでは自分は勇者とは言われなかった。
魔王をほぼ倒したのはこの今、モンスターってこんなにとろけるものなのですか? とか意味の分からないことを言っている女の子なのだ。
尊敬する。
「それはスライムだ。魔法使いとか居れば簡単に倒せる。けど、君は今素手でこねくり回しているけれど大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫です。ぬねぬねしてます……」
そうか――としかウィルは言えなかった。魔王を倒したから勇者だと言われた。王にそう言われれば誰もがそう呼ぶ。怖さを感じていないのだろうか? そういえば、ローズの結婚相手の希望欄には種族を問わないとか書いてあった気がする。
元聖女だとは言ってもその力は今も健在である。
魔物はモンスターは、その悪意あるもの達は全て浄化されるだろう。
だから魔王もそうなった。
「ウィル? 私、手を洗いたいです」
泣きそうな声で言って来た。
「そうだね、どこかでその手を洗おう。死に絶えてるよ、そのスライム」
どうやったらそうなるんだろう? とウィルが疑問を持ってそのローズの手を見る。
「あんまり見ないでください。ぐちょぐちょなので」
「そうだね、でもまあ何もなくて良かった。今度からは気を付けてね。何でもぱっと素手で触っちゃいけないよ。毒を持っているかもしれないし」
でもまあ、ローズは聖女。それを浄化するだろう。
だから危険はないか。
いや、これだと俺が付いて来た意味が――。
ウィルがローズの仲間として行動を共にしているのはその報酬を全てローズの物にする為だった。
そうすれば誰に取られることもない。
未踏ダンジョンとは言ってももうモンスターも出ないだろうさ。悪さする奴は消されるって奴らもよく分かってるだろう――なんてバリーが言っていたけれど、それでもローズを一人行かせることもできなくて、ウィルは付いて行くことにした。
護衛として居れば良い。何かあった時のお守り代わりに。
ようやく綺麗そうな水を発見した時にはそのスライムは干からび、ローズの手からポロポロと石畳の道の上に落ちていた。
これほどの姿になるまで一緒にいることはなかったから知らなかったが、スライムはこうなるのか――勉強だーとウィルが思っているとローズがその水の前で躊躇していた。
「どうした? ローズ、この水は大丈夫そうだけど」
「そうなのですが、私、婚活で種族は問わないと書いておきながらこうして――」
罪悪感を感じているらしい。
「まあ、仕方ないよ。それはローズの行く手を阻んでいたし、そうなっても仕方ない」
ここは割り切らないと先には進めない。
そうローズも分かっているだろう。
なのに彼女はもうそれしか考えられないようにじっとしている。
仕方なく、ウィルはローズに声を掛けて彼女の両手をその水で綺麗に洗ってあげた。
「はぁ、できた」
女の子の手を洗うのは初めてで疲れた。
だが綺麗になったその手を見て喜んでくれるはず。
そう思ってウィルがローズの顔を見れば静かにぽろぽろ泣いていた。
「い、痛かった?」
咄嗟にそう言ってしまって、何かこれは変だとウィルは思った。
そんなに力を入れたつもりはないし、この死に絶えたスライムもこの水で復活することはない。
それほどまでに彼女の力は強力で、どこにもそうなる要素はないのに。
「私、本当に結婚できるのでしょうか?」
急にそんなことを言われてウィルは困った。
もしこのスライムのように相手をこうしてしまった場合を考えてしまったのだろうか――だとしたら。
「大丈夫だよ、結婚できる! ローズなら、優しく相手を思いやれる。今もきっとそうだろう?」
ウィルができることはこれくらいだった。
彼女をこれ以上傷付かせたくなかった。
だからその数日後にやっとジョイアグリュックで初めてのお見合いが決まったローズの喜びとは裏腹にその相手がリザードマンだと知った時は、ローズ以上にウィルの方がどうしよう! と思ったのだ。
彼女は本当にどうかしている! と言いたくなったが、ぶつくさとそれを難易度の一番高いクエストにぶつけながら、新しい服を着た彼女のお見合いの阻止を考えたくらいだがそれも良くないと陰ながらウィルはそのお見合いを見守ることに決めたのだった。




