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聖女は魔王のいない異世界で婚活をする  作者: 久沢陽雲
婚活の始まり

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2/3

プロフィール作り

 勇者一行が開いた結婚相談所『ジョイアグリュック』も他の結婚相談所と同じだった。

 その相談所に登録した多数の男性の中から何人か気になる人を選び、相手が会っても良いですよとなれば初めて会えるというシステム。

 これはそれを選ぶ為のプロフィールが重要なのだ。

 自分の顔は似顔絵が得意な人に描いてもらうのだが、それにもお金が要る。

 ローズは成婚料の一部となるはずだった銅貨1枚を渡し、ジョイアグリュックの専属絵描きだというおじさんにお願いをした。

「別に可愛く描いてほしいわけではありませんが、ちゃんと選んでもらえるように描いてほしいのです!」

「分かった、分かったよ。さあ、こちらを見ずに自分が思うステキな顔になってごらん。そして、そのまま動かずにそう」

 シャッシャとおじさんは手早くローズの似顔絵を描いた。

 その出来栄えはあまりにも自分にそっくりすぎていて大変驚くものだった。

「すごいですねー!」

「じゃあ、ローズさん、次はあなたの好きな事や趣味なんかをこちらの紙に書いてもらえますか?」

「はい」

 ジョイアグリュックで働くてきぱきとした二十五歳のキャリーと優しそうな三十歳のアメリアは共に既婚者で、勇者一行にこの結婚相談所を任されていた。

 ジョイアグリュックもまた魔王軍がいた頃は冒険者達の溜まり場となった酒場かギルドだったのだろう。

 そんな風な面影が残る店内でローズはさらさらと何回目かのプロフィール作りに挑戦する。

 絵描きのおじさんはまだ居て、キャリーと話をしていた。

「今日も勇者一行はこちらには来ないのかい?」

「ええ、でも、ここよりあっちの方が忙しそうですよ?」

「そうか、オレにはもう関係のない所だが、勇者一行はあのギルド『ユミト』を買い取ったんだろう?」

「ええ、魔王を倒し、王から感謝の印として爵位をもらい、たんまりとお金をもらったそうです。そのお金ですよ」

「そうかい、それじゃあ、そこの聖女様には一文無しなのは何故なんだい? 何でもあの聖女様の力によって、倒せたとウィルが言っていたが」

 こそこそと絵描きのおじさんは言う。

 けれど、この店内は響く。

 それで聞こえてしまう。

「まあ、聖女はずっと守られて行くものですからね、そんなのは必要ないと判断されたんでしょうね……」

 それなのに、ここにその聖女だった子が居る。それは何故かと人は問うているのだろう。

 答えは簡単だ。

(私が神に愛されなくなったからだ)

 そう言えば良い。

 それで終わる話だ、なのにローズは言えなかった。

 そんなの恥ずかしくて言えない。

 だからプロフィールの職業欄にも無職としている。

 家事手伝いなんて出来やしない。そんな家はないのだから。

「こらこら、ちゃんと働いてます? テオさん」

「おや、噂をすればウィルじゃないか? 何しに来た?」

「様子を見に来たんですよ。ここは良いなー。人がいない」

「いるよ」

 そう言ってテオはローズをちらっと見た。

「あっ」

 彼は言葉を途切れさせた。

 勇者一行の一人であり、その四人の中でも一際目立つのはその強さから来る確かな自信と陽気な人柄。

 剣一本で確実に仕留める腕を持っているからだろう。

 まだ若き十七歳の少年だ。

 ローズと年齢が一つしか変わらないのにその強さはどこから来るのかと少し疑問に思ったこともあるが、あの最後の雄姿を見た時に感じた。

 この鋭さはきっと本物で、どのくらいの努力の末に習得したのか、そんな力強さ。

 それをこの普通の人のような見た目からは判断させない所が凄いのだ。

 ウィルは足音を立てずにローズが座る席に近付いた。

「あの」

「うわ! はい!」

「驚かせてしまってすみません。あなたは昨日さくじつこちらのジョイアグリュックに入られたと今聞いたのですが」

「そうですけど?」

 何か問題があるのだろうか。

 お金はちゃんと払ったし、何か言われる筋合いはないのだが。

「ずっと憧れでした! あと、いろいろとその、ありがとうございましたっ!」

 何だ? この感謝のされようは。

「あの? どういう事ですか?」

「いや、俺の気持ち的にずっと言っておきたくて、あなたのおかげで今があるというか。あなたは今、何かお困りではないですか? 力になりますよ?」

「え?」

 ずっとこの男はにこにことしている。

 変だ。

「誰かとお間違いじゃありませんか?」

「いいえ、そんな事はありません! 俺ずっと聖女ローズ様が憧れだったんです。だから強くなった。簡単な事ですよ。俺はあなたの力になりたくて勇者までになったんです。冒険者から始めて」

 そんな経緯を嬉々と話されても困る。

「私はもう聖女ではございません。ただの人です。あなたの憧れていた聖女様はもういません」

 なのでお引き取り下さいと言いたかった。

 それなのにウィルは言う。

「申し遅れました! 俺はウィル。今はいろいろとやってます!」

「分かっています。それはもう十分に!」

 言い合いになりそうな所だった。

 普通ならこうならないのに、聞いてしまったからだろうか。

 私はあのままあの教会のお世話になっていても良かったのだろうか、奇跡の力がなくなったというのに――。いや、ダメだろうとローズは思う。

「こんな所で会えるとはまさに奇跡! 俺、もうここで働こうかな!」

「そうですか、それは良いですけど。あちらの方はどうなんです?」

 それがさー! とウィルは話しに行ってしまった。

 良かった。

 さっさと書いてここを出よう。

 本当はずっとここに居て、今晩の泊まる所を見つけたかったが、それは無理だろう。

 趣味――読書。理想の結婚は、普通の家庭だ。幸せな家族、それを作りたい。

 簡潔に書いてしまったのはウィルがまだ居たからで、こそこそとそれをアメリアに渡してローズはジョイアグリュックを出た。

 さて、今日はどこで寝よう。

 昨日は森の木の中で寝たが、今日は岩の中か――。

「ローズさん?」

「わ!」

「また驚かせちゃいましたか?」

「はい。どうしてここに居るんです? ウィルさん」

「それはあなたが出て行くのが見えたから追い掛けて来たんですよ」

「何故?」

「あなたに用はないと言ったら嘘になるのですが、どうもその……」

「何ですか?」

「……こんなのを俺が言うのは悪いと思うのですが、ここ最近お風呂か水浴びをしてませんよね? 服も洗ってないでしょう? 白いふわふわのワンピースがだいぶくたびれてる」

 ギクッとなった。

 正解だ。そんな暇はないくらいきちんと働いている。

 お金がなかなか発生しないのが悔しいくらいだ。

「ええ、まあ、その……ちょっとは」

「ちょっとじゃないですよ! 俺の嗅覚的にはざっと一週間はお風呂に入ってないはずです!」

 正解です。とローズは心の中で言った。

「俺の家の風呂入って下さい!」

「え?!」

「いや、変な意味はありませんよ。偽善でもありません。普通に助けを求めれば良いのに求めないあなたに言っているんです。俺の家、すぐそこだし、一人暮らしで俺以外は居ませんし、どうかな? と。そんな嫌そうな顔しないで下さいよ」

「ごめんなさい、でも、あなたの迷惑にはなりたくないんです。だったら、自力で歩いて天然温泉に行きます! 山の方の」

「あそこは遠いでしょ。ふふっ、面白い事言いますね。そんなに嫌ですか?」

「はい、まだ私は気軽に男性宅に行きたくありません」

「そうですか、じゃあ、その天然温泉ではありませんが、ここ最近出来たという公衆浴場に行きますか? おごりますよ?」

「何故、おごってくれるんです?」

「あなたの力がもしかしたら役に立つかもしれないからです。ずっとユミトの方で解決できないままだったものがありましてね、それが解決すれば、報酬は全てあなたの物になります。一晩ではなく何拍か宿屋で寝れるでしょうね」

「それはこの奇跡の力が必要だと言いたいのですが?」

「ええ、あの中ではそれは言えない。まあ、本心でもありました。憧れていたのは事実ですし、あなたを助けたいのも事実だ。だからこそ、親愛なる者になるべく、あなたには『ウィル』と呼んでいただきたいのですが」

「私もそう言うなら『ローズ』で良いです。私はもう聖女ではありませんから、あなたの求める力は発揮されませんし、敬語を使う必要もないと思います」

 強情だなーとウィルは言わなかった。

「じゃあ、行こうか。ローズと出掛けるのはあの魔王を倒した時以来だ」

「そうですね」

 つんとローズはウィルに背を向ける。

 何故だろう、ウィルが悪い人ではないことは重々承知しているのに何故だか上手く行かない。

 何を意地になっているのか自分でも分からない。

 すぐにこちらが言ったことを受け入れ実行するからだろうか。

「あ、その前に剣を一本持って来ても良いか? ここで絶対待っていてほしい! すぐに戻るから!」

 そう言ってウィルはすたこらと走って行ってしまった。

 ウィルが敬語でなくなった途端、本当はすんなりと腑に落ちることが増えた。

 もしかしたら彼も無理をしていたのかもしれない。

 性に合わない事をするとボロが出ると言うけれど、あの人は今の方が活き活きしているように感じる。

 自分は今嘘をついているのだろうか、そんな事を考えるなんて。

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