ウィルの話を聞いて
どのくらい時が経ったのだろう。それでもまだ人は日が照っている中で楽しそうに話していたり、のんびりしている。
ここを離れないでくれと言われれば、聖女だった自分は離れない。
きちんと人の話は素直に聞いてしまう。
これがいけないのだろうか。
人の裏など分からないのに。
段々と本当に戻って来るのか不安になって来た頃、彼は走って戻って来た。
言った通りの剣と他にもたんまりと入った荷物の袋を一つ手に持っている。
「これ……」
「ああ、公衆浴場に行く前に君が聖女だと分からないように変装をしよう。それからこれは食べ物。お腹が空いてそうな顔をしてたから」
にこっとウィルは笑った。
本当に彼はオーウェンのように世話を焼いてくれるようだ。
少しだけウィルの持って来たサンドイッチをかじり、今まで着たことのない黒いローブを着てみた。
「似合うとは言えないけれど、その白い服よりも黒の方が目立たないだろうし、その長い髪はおさげにでもしてみたらどうだろう?」
そうは言ってもそのおさげをウィルがしてくれるはずもなく、ローズは自分でそうする。
「上手いもんだー」
そんなお褒めをいただき、ローズは意気揚々とした気分でウィルの後を歩く。
「その公衆浴場は皆どのようにして入っているのですか?」
「ああ、薄い体を洗う物を一枚、ざっと体に巻いて入るんだけど。気にならない人は全裸かな?」
ウゲ! となった。
想像を絶する。
「女の人もそうなのですか?」
「いや、女の人については分からないけど」
そこでウィルが振り返った。
「そんなに嫌な顔をされちゃ困るから、その公衆浴場近くにある足湯でも良いんだけどね、お湯は全て同じだと聞いたし」
「あ、足湯とは、あれですよね?」
何だかローズの様子がまた変だ。何を考えているのだろう? とウィルが思えば彼女は答える。
「足を湯に入れる……」
「そう、素足だけをお湯に入れるんだ。だから男女関係なく一緒に入れる。公衆浴場のように素っ裸になる人もいない。まあ、皆濡れないように膝下くらいか? そのくらいまでは服を折るけれど。それは問題アリかい?」
「いいえ、ありません。公衆浴場より全然良いです!」
「じゃあ、決まりだね。このままその足湯に行く。俺の隣でそっと一般人のように入るんだ。そのローブはまあ濡れても良いや。持ち主のない物だから。誰も困らない」
「そうですか、それならこのままで入りますね。やっぱりそこには魔王を倒す為に頑張った人達もいるのでしょうか?」
「ああ、たくさんいる。けれどそれは誰も言わないよ。昔話みたいには言うけど。でもそんな昔じゃないのにね、変だよね」
そう言って彼は笑った。
屈託なく。
そう、彼は魔王を倒した後もこんな感じで仲間と笑っていた。
その笑顔が今、ローズの前にあった。
「さあ、行こうか。こんな所でちんたらしてて良いやつじゃないからね」
そう言ってウィルは歩き出す。
待ってとばかりにローズも少し小走りになった。
「速いかい? 歩くの」
「いいえ、ただ少し、距離を離して歩くのが嫌になっただけです」
「大丈夫だよ、変なのはいない。分かるだろ?」
「分かりますが……」
きょろきょろと周りを見なくても、彼の言う敵はいない。
けれど、少しの間が心細い。
これは何だろう? 守ってほしいというのとは違う。
「何か――話して下さい」
「え?」
「何でも良いです。あなたの魔王を倒すまでの話でも、恋の話でも」
「そうだねー、そんな話を長くする時間はないけれど、君がそう言うならそうするよ。ローブが熱いわけじゃないだろ?」
「それはそうです」
「ローブのせいでしっかり見えないっていうことでもないよね?」
「ええ」
「じゃあ、あれだ。どうして君に憧れたのか? っていう話にしようか」
「え?!」
それはこちらが驚く話だった。
「いや、そういうのは良いです。もう話さなくて良いです。黙っていて下さい」
「え? 別に変な話じゃない。君が俺と変わらない年齢なのに小さい時から人の役に立っていてすごいな! と思ったから俺も何かしたい! と思ったんだ。最初の気持ちはこんなもんだった」
それが段々と強くはっきりと今のようになったのだと彼は話して聞かせてくれた。
どうだ? ってことなのだろうか。
「いや、ごめんさない。とっても恥ずかしい思いをしたので何も聞いてませんでした」
「え? じゃあ、また最初から話す?」
「いえ、秘めておいて下さい。そのうち、オーウェン様にでも言いに行って下さい。とても快く聞いてくれると思います」
「そっか! じゃあ、そうしようかなー」
早く着いてほしい! と心の底からローズは願った。
そのくらいウィルの気持ちは純粋だった。
自分もローズと同じように人の役に立ちたい。だから今もそうしてるって――あっけらかんと凄すぎる! とローズは心の中だけでウィルをこっそり見直していた。




