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聖女は魔王のいない異世界で婚活をする  作者: 久沢陽雲
半魚人

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17/18

夜のユミトで

 デドタルからやっとユミトに着いた時、もう日は落ちていた。

「はぁー疲れたー」

 と言うウィルよりバリーの方が何故か疲れていた。

 精神的にだが。

「どういうつもりで嫌がらせと言ったんですか? エマにするのはどうかと思いますけど?」

「いや、バリーにするんだ。それよりあのヨランダへの嫌がらせってのは何だ?」

「え?」

 気付いてないのか? この男は本当に。教えてやる気もないから放っておこう。

 自分への嫌がらせというならそれで良い。

 被害は最小限だ。

「ところで、やっぱりブライアンは連れて行った方が良かったですね。突っ立っていたヨランダはずっとこちらを無言で見ていましたし、少し怖かった。夢に出て来そうです」

「それは失礼だろ?」

 噂をすれば当の本人ブライアンがひょろっとやって来た。

「何だぁ? どっかの良い子ちゃんでも見つけて来たのか?」

「そうですね、ブライアンならすぐに打ち解けられるでしょう。魔女ですよ、エマの妹らしいです」

「へぇー、あの魔女さんの……」

「まあ、あなたが好みそうなタイプではありませんよ。かなり瘦せ細っていて、前髪で両目が見えません。それにおどおどしていて、男性とはあまり話さないそうです」

「それはまあ、うん、会って話してみたいものだね!」

 この無類の女好きには感心するが、今日のユミトの仕事はどうなっているのだろう。

 サイラスはずっと姿を見せていないし、ブライアンしか頼る者がなく心許ない。

「今日のユミトはどうでした?」

「大丈夫だよ! あとは少し事務処理をすれば終わる! こう見えて、バリーの次に事務仕事をしているのはオレだぜ? 心配すんな!」

 それが大心配なんですが。

 よっこらせとバリーは残りの仕事状況を見る度にそちらに向かう。

 その場に残ったブライアンはユミトのちょっとした休憩場所に座り、テーブルに突っ伏しているウィルに聞く。

「で、本当の所はどうなんだ?」

 少しにやついて聞いて来る。

 この男は――。

 自分と変わらない身長に焦げ茶色の短い髪。服の色は青系が多く、双剣使い。確か年齢は二十三だっけか? 自分達と同じ志を持っていて、自分の幸せを探すはずが結果的に人の幸せを喜んでいる自分に気付いた! とか言って、今でも一緒にいるが。

 女のこととなると自分達とは違って来る。

 とてもそう思う。

 彼と気の合うのはそう、冒険者時代に出会ったあの新米冒険者だが本当は亡国の姫君だったショートヘアのロッテのお付きの騎士であった二十代の男、イーサンだけだろう。

 彼からはさまざまな事を教えてもらった。もちろん、ウィルと同年代のロッテからもだが。

(あの二人、今は何をしてるのやら?)

 そんな現実逃避中にもブライアンはわくわくとウィルを見て来る。

 まったく、その間にどれだけの事を思ったのだろう。

「バリーが言ってた通りだ」

「本当か?」

「ああ、でも最後は何でか倒れていたな? 何でだろ?」

 あまりにもびっくりした事だったが、その真意は分からないウィルは頭をひねり、考え出した。

 まあ、大方の見当は付くとブライアンは言う。

「また何かやらかしたんだろ? お前」

「そうかなー?」

 心当たりがないわけではないが、彼女に対しては何も思い付かない。

 普通に接しただけだ。

 それだけでそうなるのだろうか?

「まあ、良いさ。それよりコレ見てみ?」

 そう言ってブライアンがウィルに差し出した紙には全体的に薄青く、肌の色も良くなさそうな魚人間が描かれていた。

「何だこれ?」

「半魚人だ」

「新しくジョイアグリュックに入るのか?」

「いいや、聖女だった嬢ちゃんが今日申し込んだ相手だ」

「え?」

 こんなに早く?! と絶句してしまった。

「その反応、面白いな! まあ、そんな表情を見たくて渡したわけじゃない。キャリーさんに聞かれたんだ。こういう時に何か役に立つ物を持ってないですよね? って」

「どういう意味だ?」

「その紙をよく見てみろ。人の言葉の所、喋れないって書いてあるだろ? それが問題なんだ」

 そういえば、プロフィールにそんなのを書く所があったな……とウィルは思い出す。

 大体は人相手だから心配はいらないが、時にこの国の言葉でない言葉を話す人もいるが、それは翻訳者を探せば何とかなる。

 だが、こうもはっきりと書かれているとこういう時にどうしたら良いのか前例を調べるしかなくなる。

 大体はエマの所の者達だから人の言葉を話すが――。

「その相手はどこの相談所なんだ?」

「これは港町の方だな。こちらの言葉を理解できなくても生活できる人が向こうの希望だ。確かあそこら辺に一人、人もこういう者も関係なくその者の真意だかが読める子がいて、その子が大いに役立っているって言ってたけど。その子は今、旅行中でいないらしく、その子を連れて来るわけにもいかないだろう」

「どうしてだ? そんなに遠くにいるのか? その子は」

「いや、でもこれから先を考えれば最初からお互いその子が居ない方が良いんじゃないか? 結婚した後にその子はいないんだし、その方がはっきり分かるだろう。それにこういうのは案外上手く行かない。こちらも選べるがあちらも選べる。手当たり次第にではないなら、まず成立しない」

 ブライアンがそれを言うか……という気持ちだが、そうだなとウィルは思う。

 全員が全員、申し込みをされたからってそれを受けるとは限らない。

 放置する者だっている。

 心を少し軽くして、どうなるか見守るか――と考えていれば、バリーが戻って来た。

「どうしたんですか?」

「いや、これを見てくれ。人の言葉を話さない半魚人をローズが選んだらしい」

「ほーぅ、それはまた……」

 声を出さずに読む。

「ふーん、まあ、私にも分かりませんよ。エマがどうやってこういう者達に言葉を授けるか」

「同じ魔法使いなのにか?」

 ブライアンの言葉にバリーは言う。

「ええ、全く。そもそも私は言葉を授ける方法が分かったとしても授けないでしょうね。それだけ違いますから」

「じゃあ、魔王はどうやって言葉を理解してたと思う?」

「それは……分かりませんが」

「やっぱりその港町に居るっていう子みたいに心が読めたか聞こえたか……じゃないか?」

 三人集まっても全く良い案が出ないことだけが分かり、ここにサイラスが居たら良い案が出たんじゃないか? と語り合った。

 そういえばと過去の話に花が咲いたのはごく自然のことだった。

 それだけ語り合う暇もなく今まで来てしまったから。

「そうだな、サイラスはそういうことを考えるのが得意だった」

「あー、確かに。あの魔王をこれならどう? とか言って、何回も倒す方法をずっと出し続けていましたしね」

「そうそう!」

 けれどサイラスは今、ずっと一人で何かをやっていてなかなか姿を現さない。

「蹴破るか、ドア」

「ダメですよ。待ちましょう。彼は何かがなければ何もしない人です」

「それは言えてる」

「では、もう遅いし、帰りましょうか?」

「ああ、そうだな」

 ブライアンがユミトを出てすぐ、ウィルはバリーにあの薄ピンク色のネックレスを返した。

「どうしてです?」

「それをずっと持っていたら、俺がまるでローズばかりだと言ってるようなもんだ。それにそこまでしてローズを心配していたくない」

「またまたー」

「それでもだ。ローズだって、俺に心配されたくなくて今もどこで寝てるかなんて一々言わないし」

「だからいらないと」

「そうだ」

 そう言ってウィルもユミトを出る。

 でも、そうだとしてもこれは役に立ったのだろう。

(仕方ないですね、これは私が預かっておきましょう。貴重な聖女の力も入っていることですし)

 他の誰かに悪用されるのも良くないとウィルはそれをユミトの隠し金庫の中に入れることにした。

 この金庫が開けられるのはバリーとサイラスだけだった。

 複雑な魔法が掛かったこれをそれでも開けようとする者はなかなかいない。

 少し経ってからユミトを出れば、まだウィルとブライアンが居た。

 何か騒いでいる。

「どうしたんですか? もう皆さん寝静まっている頃ですから、静かにしないと」

「だって、こいつ。そんなにローズのことが気になるならデートでもしてもらえ! そうすれば少しはそのイライラ怒りっぽいのも落ち着くだろ? って言っただけで、すごい怒って来たんだぜ? で、デートだとぉ?! って」

 おかしいだろ? という感じのブライアンにウィルはどぎまぎとしている。

「初々しいウィル。あなたをどうにかできるのはもう、やはりローズしかいません」

「あん?」

 怒って来た。怒りマックスみたいだ。

 言い方が悪かったか。

「浄化をしてもらってはどうですか? 聖女はそういうのも得意でしょう?」

「そうだな! バリーにされるよりは良いんじゃないか? 鎮静剤を仕込まれるよりは良い」

「鎮静剤と言えば、あの時は大変でしたよね――」

 そんな話は今どうでも良いとウィルは言う。

「分かった。俺も最近思ってはいた。何か変なんだ。一回前にローズに浄化をしてもらったことがあるんだが、その時はサキュバスだかのせいでそうなっていると。ローズは嫉妬だとか言ってたけど」

「何ですか? その話は」

「言ってなかったか? ローズと一緒にクエストに行った時に起こったんだが」

「ふーむ……」

 バリーは考え込んでしまった。

 この辺の明かりはもう消え掛かっていて暗い。

 それでも話し込むのは必要なことだからだ。

「結構強力らしくて、今もそうだと思うか?」

「どうでしょうね。最近は弱体化していると聞きますし」

 それはローズも言っていたことだった。

「浄化、もう一度してもらうか……」

「そうですね、念の為、一番効果のある方法でしてもらった方が良いでしょう。軽くでは済みそうにありません。そんな感じがします」

「どういう意味だよ、それは!」

 そういう所です! とはバリーは言わなかったが、ウィルを見て言う。

「それには教会が必要でしょう。オーウェン様にお願いしてみましょうか?」

「それはさすがに……というか、ローズは聖女の力がないってことになってるからな、表向きは。知ってしまったらまた大変だ」

「ですが」

「だったら、あの村にあった廃《すた》れた教会でもできるだろ、それは」

 今まで黙っていたブライアンの言葉にバリーは言う。

「まあ、できますけどね。邪魔が入らなければ」

「じゃあ、その間はバリーが結界を作って守っておいてくれ。で、ブライアンが今日見たくユミトの仕事をする! これで行こう!」

「うえー!」

「簡単に言いますね」

「あとはローズに話してみるだけだな!」

 ウィルはその事で頭がいっぱいになったようで明るく帰って行った。

「いや、あの儀式のような浄化はそんな簡単なものではないのですがね」

 ローズと同じような物を使う者としてバリーは思う。

 廃れた教会でももちろんそれはできるが、オーウェンのいる教会で行うのが一番安全だ。

 それだけ守られているから。

 浄化中は何もできなくなる。

 ただ一心に悪なるものを追い出し、その者を救う行為だ。

 果たして今もそのサキュバスの影響がウィルの中にあるのかも分からないのに。

(それが分かるのが聖女なんですが)

 ブライアンはとっとと帰っておけば良かった! と言いながら帰って行った。

 あれはきっと家に着く前にどこかで酒を一杯飲んでから帰るやつだとバリーは思ったが止めはしなかった。

 今日の仕事ぶりなら別に問題がない。

 本当ならサイラスにお願いしたい所だが、彼は居ない。

 居るのにそれをお願いできなのがもどかしい。

 そして、新たな聖女は現れていない。

 もしもその聖女が現れたら別にローズに頼らなくても良くなるのに。

「それにあんなに一緒に居るのだから聖女ローズだって気付いているはずです。なのにそれがないのだとすると、これはもうウィル個人の問題となって来る」

 それだけ彼はローズにぞっこんということになる。

 そんな方程式を自分だけでなくブライアンまでもが気付いている。

 それなのにあの初々しいウィルと来たら――。

 はぁ、と思わず溜め息が出てしまった。

 自分も帰ろ。

 てくてくとまた歩き出し、バリーは思う。

 何がそうさせたかは分からないが、今のウィルではまともに判断ができないだろう。

 一応そのようにして、また自覚し直すべきだ。

 自分がどういう人間かを。

 そして、本当にサキュバスが関係しているのだとしたら、どうして正面から姿を現さないのか。弱体化していても姿を現しそうなものなのに。

「ウィルに男の魅力がないのでしょうか?」

 それは問題だが、夢にそんなのが出て来たー! と言うこともない。

 だとしたら、本当にサキュバスに狙われているのだろうか? ウィルは――。

 疑問を一つ持つと一気に不安が増して来る。

 サイラスがここに居たとしても良い案を出してくれるわけではない。

 彼は回復魔法や人のちょっとした役に立つことに重きを置いているからだ。

 それがなければただのんびりとしている魔法使いだ。

 だからブライアンより信頼ができるのは彼の性格によるところだが。

 少し興味があると言っていたのは何だったか、家に帰って思い出しながら寝よう。

 まあ、もうあと何時間もすればすぐに朝が来て起きてまたユミトに行って仕事をすることになるのだが。

 これは冒険者の時より少し窮屈だが仕方ない。

 もうそんな仕事しかないのだ。

 あの頃のような自由さはないに等しい。

 だけれどクエストやそういう時だけはその頃と変わらないような自由さや楽しさがあふれ出て来て止まらなくなる。

 だからこういうことに携わる人も多いのだ。

 城の人間になりたいとも思わないし、変わってると言われても良い。

 ただ毎日を気兼ねなく過ごしたいだけだ。

「さてさて、どうなりますかね?」

 未来など自分でも分からないのに、決めなくてはいけない日々が億劫なだけだった。

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