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聖女は魔王のいない異世界で婚活をする  作者: 久沢陽雲
リザードマン

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12/13

思い切って

 うだうだとずっと悩んでいたローズだったが、ウィルが隣に居る間にやってしまおうとひらっと懐から出した紙は普通の紙と伝書鳩を出す物でそのうちの普通の紙にローズは考え込みながら返事を書き出した。

 それを見ていたウィルが言った。

「もしかしてエイダンに?」

「ええ、でもずっと返事を返していなかったのです。少しでも忙しいアピールをする為に」

 いや、でも全然本当はそんなことないのだけど。

「できました! どうでしょうか?」

 確認してほしくてウィルにローズはその返事を見せてみた。

「見ても良いの? 俺が」

「はい、変だったら言ってくださいね。角が立ったものを送りたくないので」

「慎重にしたいってことか、相手は怒ると怖そうだから?」

「え? 何でそんなこと分かるんですか?」

 ウィルには何も言ってないのに――という目をしてローズはウィルを見た。

「分かるよ、最近よくローズの話し相手になっていたしね」

 誰でもそう思うだろうとウィルはその目を気にすることなくそれを読み始めた。

 とても丁寧な分かりやすい文章と字で書かれていた。

「そうだね、クエストはそんなにしてないけど、毎晩の寝床探しの忙しさを書くよりは良いと思うし、とてもそつのない良い忙しいアピールになってると思うよ。連絡頻度は一日一回くらいが良い! とはっきり書いてあるから向こうだって理解力があればそれは完全に分かるだろうさ」

 きちんと折りたたんでウィルはローズにその返事の紙を返した。

 これはジョイアグリュックの人としての対応だった。

 だからローズは安心して、魔法陣が描かれた紙から伝書鳩を出し、それに託して伝えてみた。

 その伝書鳩は普通の鳩ではない。

 魔法のかかった使い魔みたいな存在の白い可愛らしい伝書鳩で大空を自由にでも確実に一刻も早く相手に大事なそれを送り届けてくれる。

 だから皆使うのだ。

 自分ができない事を託して。


 数日後、ローズはルンルン気分でユミトにやって来た。

 ウィルが訳を聞けば、何でもあの返事を出してから、それまで頻繁に来ていたエイダンからの伝書鳩はプッツリと途絶え、お見合い直後にさっさと次の予定を決めておいたのでそれまではたくさんお金を稼ぎます! と意欲満々だった。

「じゃあ、行こうか。その服でまた行くことがないようにね」

「はい……」

 少しローズは困ったような赤くなったような、恥をかかせてしまっただろうか? とウィルが気にする頃にはもうそんなことは気にしていないようで目の前のクエストに集中していた。

 次の相手はゴブリンか。

 クソだ――とウィルは思い、密かに自分の大剣を手にして陰でこっそり始末して、宝箱の鍵開けに集中しながらも苦戦するローズを明るく応援した。

 それでしか自分は関われないのだから、彼女がしやすいように手を回すのは当たり前だ。

 少し心が暗くなってるのかもしれない。

 怒りはどうしたらなくなるのだろう。

 そんな事を考え続ければ、ガチャッとローズが宝箱の鍵を開けた音がダンジョン内に響いた。そして「できましたー!」と全身でその喜びを表す笑顔のローズがそこに居た。

 やっと笑った。

 心がほっとした所で一瞬でウィルは何もやって来ないのを確認してから近付いたがその前にローズが宝箱の中を見る。

「危ないよ?」

「でも悪さをしそうな感じはしません。だから平気かな? って」

 そうだった。ローズは普通の女の子ではない。聖女だ。

 その力はなくなったと言いながら秘めている。

 だから守らなくとも本当は平気かもしれないけれど、それでもオーウェン様は守っていた。彼女を一番大事な存在として。

 だから自分もそれに倣っているだけなのだ本当は。

 そう思いたかったなのに、彼女の瞳から現れるその喜びは自分のように嬉しかったし、褒めてやりたくなった。

 その衝動にこんなにも駆られるのはオーウェンが関係しているだろうか?

 いや、これは自分の感情であり、オーウェンは関係ない。

 本当に嫌なのだ、ローズが自分以外の者と交流を持つことが。それでこんな事をしているのだ。

 次にアイツと会う時は何を着るか、気になってしまう自分がいる。

 それを把握したい自分がいる。

 ――アイツと同じだ、自分も。

 良い顏をしているだけで内面はそんな事はない。

 なのに、いつまでそうするのかと自分で問いても答えは出ない。

 ああ、本当にそれが自分だったらどんなに良いだろう。

 ウィルは宝箱の中の当たりの宝石をザクザクと袋に詰めるローズを見ながら思う。

 ここに居るのは俺達二人だけで、誰も見る者はいないから――。

 何があったとしてもそれは分かりっこないのに。

「本当にウィルはいらないのですか? けっこうな大金になりそうですよ?」

「ああ、それは全部ローズの物だ。後で換金所に行って申請をしよう。そうするとクリアになる」

「何か引かれたりしません?」

「大丈夫だよ、その分も含めてもらえるから」

「何の分なんですか? それは」

「自分の命さ」

 事もなげにウィルは言う。

 そういえば、いつの間にか彼はいつも持っていた剣ではなく、大剣を持っている。

 ここに来る時からそうだったろうか?

 あまり思い出せないくらい自分は浮かれていた。

 やっと解放された! と気分が明るくなっていた。

「ウィルに甘えていますね、私はずっと」

「別にそれで良いさ。その方が俺は嬉しいし」

 そう言うとウィルはローズの物になる袋の中に残りの宝石を入れ始めてくれた。

「二人でやった方が早いからね。今日はここまでにしよう。まだまだ深部には遠いから気長にね」

「はい」

 それはずっとこのクエストが終わらないという意味をしていたが、ウィルはそれでも良いようだった。

 さっさとお金を貯めるにはそういう所での方が良いと聞く。

「私、頑張りますね!」

「ああ」

 ウィルは笑っていたけれど、その顔の奥に潜むのは反対の感情のような気がした。

 そして無性にローズはそんな彼を抱き締めたくなった。

 これは変だ。

「ちょっと失礼しますね」

 そう言って彼女はウィルの身体をそっと抱き締めてみた。

「え? ローズ?!」

 今度はウィルがビックリする番だ。

 ローズってもしかして大胆? ――そう思った時だ。

「これは……」

 ローズは少し具合が悪そうな顔をした。

「え? 何?」

「嫉妬、サキュバスですかね?」

「サキュバス?」

「はい、最近は弱体化したモノがうようよしてますけど、結構強力ですね。浄化しておきますね」

 そのままローズはウィルを浄化した。

 ほうっと心が綺麗になった気がした。

「終わりましたよ」

「あ、ありがとう」

 放心状態だ。

 これが聖女の浄化力か――そんなことを思えばするっとローズの両手はウィルの身体から離れ、距離を取る。そして首を傾げて言った。

「ウィルが何故そうなっていたのか不思議です。まだ十代で若いからでしょうか?」

「そう言う君もそうでしょ!」

 普段通りになったと自分でも思いながらウィルは喋っていた。

 こんなにも分かりにくいのは初めてだ。

 それより、彼女は聖女としてなら誰でもああやって抱き付くことができるのだろうか?

「ローズはその……皆にああするのか?」

「え?」

「抱き締めたりとか……」

 最後の方は恥ずかしさでか小声になってしまったけれど、彼女は何とも思っていないようで答えた。

「いえ、しません。ただ今回はすうっとそうしたくなったんです。不思議ですね、これが聖女の力と関係しているかは分かりませんが、そうしたいからそうしたんです。きっといつもだったらそんなのをせず祈って終わりだったんですけど、緊急事態みたいなものだったので」

 そんなに自分は大変な状態だったのかと改めてウィルは自分の身体を見る。

 もう終わった事だと思ってもそれはとっても嫌なものだった。

「もっと自分を大切にしなくちゃな」

「そうですね、さて、ザクザクのお宝入り袋を換金に行きましょう!」

「ああ」

 今度こそ、ウィルは明るく清々しく言った。

 良かった――そう思えど、内心ローズとしては今更ながらどぎまぎしていた。

 心臓が飛び出そうだ。

(身体が大きかった……)

 この真っ赤な恥ずかしさを見られなくなくて必死だった。

 うわー! やっちゃったー! で済まされないような気がする。

 迂闊だった。

 本能のままそうしてしまった。

 好きな人にしかきっとできないやつだ。

 手で顔を覆いたい! 逃げ出したい! 恥ずかしい! ――そんな思いを悟られたくなくて、全身でローズはウィルの目を欺く為、その日は諸々奔走した。

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