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聖女は魔王のいない異世界で婚活をする  作者: 久沢陽雲
リザードマン

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11/14

仮交際一回目の前に

 ローズからの見合い結果が届いた日の深夜、 ジョイアグリュックで一人ウィルは頭を抱えていた。

 何かの冗談だ。

「嘘だろ?」

 二枚の紙をまた並べて見る。

 ローズの方は『相手に合わせる』だが、その見合い相手であるエイダンは完全にローズを気に入っていた。そこにこんな一文も書き添えられていた。

「何が『気が合うと思います』だ!」

 それはローズの友達としてではなく、彼の本音から来る怒りのせいだった。

 思わず大きな声になってしまったが、誰も居ないから良い。

 その返事を見たキャリーはすぐさまローズにその事を伝書鳩で伝え、仮交際に入るから次に会う約束をしてくださいね! とエイダンと連絡が取れるように計らった。

「はぁー」

 あの日、ローズが聖女ではなくなった! と言いふらす者がそこそこ、こそこそといた日。

 当の本人にはこの事を絶対伝えてはならないと念押ししたオーウェンが宵闇に紛れてユミトに一人現れた。

 その相手をしたのはウィルだった。

 たまたま一人そこに居残っていただけだったのだが、もしそのジョイアグリュックに聖女ローズがやって来たら、よろしくお願い致しますと深々と頭を下げて帰って行ったオーウェンは何とも物悲しさをまとっていた。

 それだけ彼にとってその聖女ローズは特別な存在だったとウィルにも解るほどだった。

 だからウィルは決めたのだ。

 もし、彼女が現れたというならば、彼に代わって救いとなろうと。

 少しでも役に立つことができればこんな嬉しい事はないと、そう思うのも強くなる為に一時目標としていた人だったからだろうか。

 だけど今はその彼とは違う方向に自分は向かっていると思うことも度々あるが、それでもウィルはローズの為に思っていた。

 ここ最近オーウェンはずっと教会に入り浸りとなっていると聞く。

 だからローズもオーウェンには会わないだろうし、この事は知らないはずだ。

 また彼が皆に言っていたから。

 それだけオーウェンは影響力がある人だった。

「お似合いのお二人か――」

 それはアメリアがぽろっと別の成婚者の事を話していた時に聞いた言葉だったが、ローズとエイダンがそんな二人になるのだろうか。

 どう見てもあれは――。

 それでもローズは決めたのだ。

 少しでも良い方向に行くように助けていかなければ、だが自分はやはりユミトを選んでしまう。

 キャリーさんがローズの担当だったか、たまたまキャリーさんが初めてジョイアグリュックに来たローズに声を最初に掛けたのが始まりだったと聞いたけれど、仮交際はまだないとローズは言っていたけれど。

「そうか、エイダンが初めての仮交際の相手か……」

 それはあの時のオーウェンと同じ気持ちだったかもしれない。

 けれどそれよりは易しい気がする。

 あのオーウェン様の物悲しさの比ではないだろう。

 パッとそれぞれの紙を半分に折り、ウィルはもうそれを見ないことにした。

 これから先どうなるかなんて自分には関係ないし、もし相談がローズから来ればキャリーさんにお任せすれば良い。その為のキャリーさんだ。

「俺は難易度の一番高いのをやって金を稼ぐしかないんだ。あの足湯の件でローズに強い女の誰かを付けるというのも考えたけど目立つだろうし、いやでも友達としている風にすれば問題ないか。そうすれば俺もローズから友達なんて言われないだろうし。まあ、でもそれは俺がローズの側に居ることで解決する。バリー達にはまだ言ってないけど、最近はよくそうなってるし、変には思わないだろう。それにやっぱりどう頑張ったってもう俺達くらいしか強いのはいないからな……」

 神から授けられしその力であるはずの聖女の力、それで出来た物を消滅させた時点でそれはもうその神の力をも凌ぐ力だと証明されてしまったに近い。

 だからこの国のミリレヴィースの王は俺達のことを『勇者』だと言ったのだ。

 それは聖女ローズよりも強い証だろうか。

「はぁ、明日にでもローズに話すか。何の手がかりもなかったけど安心してくれ、俺がずっとそばにいる! は重いか……。でもそれは本当ローズを守る為だし、まあ最近はずっとお見合いの事で頭いっぱいでそういうのは言わないようにしてたけど。すっきりと今なら話を聞いてくれる気がする」

 そんな意気揚々気分で翌日の昼間、誰も行かなさそうな人気のない原っぱにいくつかある大きな木の下にできた木陰の一つに行ってみれば、ちょこんとローズが一人で座り込んでいた。

「元気? ではなさそうだね。ずいぶん探したよ?」

 そうなったのはいつもうろちょろとしているユミトに居なかったり、困っている人を探す為に居そうな所にローズが居なかったからだ。

「ごめんなさい。でも私は今日、少し気を休めたい気分なんです」

「そうか。前に話してたね、気を休めたい時はここに来るって」

「はい」

 だからウィルもここに来た。

 というかここしかもう見当がつかなかったからだ。ローズは未だお金のある日は超激安宿でしか過ごさないし、それ以外の時はどこで寝るか教えてくれない。

 野宿する場所さえ分かれば少しは安心するのにそれだけはご勘弁! という感じでまだ自分が信用されていないと感じる。

 不服だ。

「気落ちすることがあった?」

 何気なく聞いたのだが、彼女は突如わなわなと感情を体の内側から溢れ出して来た。

「聞いてくれますか?!」

 その声は何故だか怒っていた。

 あの初めてローズに会って話し出した頃に似ていて、明らかに不機嫌だ。

「何かあった?」

 言い直してみて気付く。

 こちらが連絡もなしに会いに来たから怒っているのだろうか? いや、だったら話を聞いてくれとは言わないだろう。では何か? 答えを探すにしても彼女の言葉はそれを物語っていた。

「でも、ウィルに話すことではないかもしれません。これはキャリーさんに言うべきかも」

「え? それだと……」

 結婚相談所の事か? だとしたら自分でも良いはず。というか、そんな痛手をローズに与えてしまったのだろうか?  ジョイアグリュックは。

「いや、その……エイダンさんの事についてなんです」

 彼女は周りに誰もいないにも関わらず小声になった。

「エイダン?」

 彼はジョイアグリュックに登録していたのを今朝知ったのだが、そいつが何をしたって言うのだろうか、ローズとエイダンは仮交際に入ったばかりだっていうのに。

「それがその――」

 彼女のお悩み相談はこうだった。

 たくさんの伝書鳩が次々にやって来て、お金を稼ぐ暇がなく、非常に困っていると。

「ウィルでさえ、こうして私と会って話をしたとしても長々はないですよね? それなのに、仮交際になったので伝書鳩伝いに『今日はありがとうございました。これからよろしくお願いします』と向こうから来たんです。それから次に会う日時と場所も決め、その会う日までは連絡をしないことにしたんです」

「どうして?」

「稼ぎたいからです! 私が。お金に困ることがないように、たくさん使っても大丈夫なようにしとく為に。ウィルに相談してその間にクエストとかやろうかと思っていたのに」

 でもそれはきっとエイダンと行く為に使われる物だろう。それに俺は付き合うのか――と一瞬考えたが、まだあるようでローズの話にウィルは耳を傾ける。

「それで、その仮交際一回目に行く所にも不満があるんです!」

「え?」

「聞いてた話とは違くて! 周りの人達はもっと良いお店でお食事とかするらしいのに私は何故冒険者達が集うという激安酒場なのでしょうか? もう少し気の利いた所が良かったです!」

「あ、そうなんだ……」

 自分もそれに似た所がある。けれどそういう所はやめておけとブライアンに言われ、女の子受けするお店に連れて行くことが多いのだが、ブライアンは正しかったんだなと思えば、ガミガミとローズは日頃の鬱憤も一緒になったかのように言い続けた。

 それは憂さ晴らしではなく、本当に困っている事だった。

 けれど、決まりがある。

「それでも仮交際一回目は会わなくちゃいけない。それは知ってるよね?」

「はい……だからウィルに相談しているのです。どうすれば良いのかと」

 困った問題だ。それこそキャリーさんに一刻も早く伝えるべきだ。

 でも、彼女もまたウィルと同じようにもう一度会ってから考えましょう! となるのだろう。

 決まりを破るわけにはいかないから。

 これはジョイアグリュックだけの決まりではなく、全体でのものだった。

 でも、この問題はエイダンに言えばすぐに解決しそうな事でもあった。

 一度エイダンに言ってみれば良いのではないか? とウィルは言おうと思った。

 けれど、それで変わらなかったら今度こそキャリーさんに一刻も早く言わねばならない。

 いや、自分がキャリーさんに言えば終わる話か――まだ釈然としないのは自分が全然ジョイアグリュックの仕事に馴染めていないからだ。

 不慣れな事に首を突っ込むのもいけない気がしたが、友達としてなら言えるかもしれない。

 けれど彼女はそんなことも言わせてくれないくらいに喋り続けていた。

「勘違いか何かしてると思うんです! まだ仮交際だから他の方ともそういうのは良いはずなのに! もう自分のものと勘違いしてるのかと思ってしまって、どれくらいの頻度で連絡を取るか、それをお見合いの時に話さなかったのも悪いとは思うのですが!」

 ふんすー! と鼻息が荒くなって来た。

 ローズを落ち着かせて自分の意見を言ってみよう。

「これは友達としての俺からの言葉だと思ってほしいんだけど」

  ジョイアグリュックとは関係ないと前置きし、ローズに伝えてみた。

「そうですね、それも一理あると思います」

 本当はローズにそんなにエイダンが嫌ならやめてしまえ! そんな仮交際は! と言ってしまいたかったけれど、そうもいかない。

 冷静にウィルは対処する。

 これは長年冒険者として過ごし、今や勇者と言われるようになったおかげだろうか、自分の気持ちを抑え込んで別人になったような気がして来る。

 狂ってる! と言いたいのを我慢して優しくして何が自分の為になるのだろう。

 けれどそうなってしまったのだからそうするしかない。

「それで時間ができたら、この前のクエストの続きをしよう。全然まだクリアしてないからね」

「そうですね……」

 ズドーンと落ち込んでしまったのは全然クエストができない自分を思い出してしまったからだろうか。

「いや、ああいうのは慎重にやるべきだから、そんな落ち込まなくても!」

「ありがとうございます。でも、私、エイダンさんに似ていると感じることがあって、それであんな返事にしたんです」

「似てる事?」

「はい、何と言うか好みが一緒というか、気になる物が同じみたいで、エイダンさんが使っていた物をちらっと見てしまったのですが、私が前から気になってた物をしてたり、エイダンさんはものすごく不思議な石だと言っていたんですが、あれは魔石です。お守りとかにも使ったりするのなんですが、それの話もちらっとできたり。そんな話は今まで誰ともできてなかったからすごく嬉しくて!」

 その表情はとてもにこやかで晴れやかだった。

 なのにすぐに陰る。

「でも、よくよく思い出してみると、うん? ってなる所が必ずあって……。だから、もう一度会って確かめようと思ったんです! 本当に次も会いたくなる人かどうか」

 その意見はウィルの想像を超えていた。

「ローズは好きだから会いに行くの? それともその疑問に思う事を解決する為に会いに行くの?」

 その違いが分からないとローズは言わなかった。

「本当にそれだけの事なんです。本当に気になるのはそこだけなんです」

 知らぬうちにローズの怒りは収まっていた。

「じゃあ、俺も内緒でそこに行こうかな? いつかの時のローブのフード被ったローズみたいにして」

 軽口のように飄々とウィルは言う。

「ウィル、本気ですか?!」

「ああ、気になるからね、ローズの事が」

 ふいの真面目口調のウィルの言葉にローズは少し慌て出した。

「え? 何故?!」

「冒険者達の酒場は酔っ払いも多いし、気が気じゃなくて、危なくなったら助けるよ?」

「大丈夫です。きっと周りに誰か居ると思いますし、平気です」

 やはり、ローズはまだ自分のことを思ってない。それだけは分かったウィルだった。

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