18 ブリーフィング
昨日、山脈の切れ目の峠の砦に移動した私達は、峠を越えてフォート・アントン側に進出する事になった。情報収集の結果、フォート・アントンに想定以上の規模の魔物軍が接近中であると判明したからである。フォート・アントンは前線都市の名に違わず、多重城壁を有する堅牢な城塞都市ではあるが、もっと魔境との境界が奥地にあった頃に築かれた都市を元に人類の生存圏の後退に連れて徐々に改修してできた拠点である為、欠点がある。それは他の人類側拠点から若干遠いのである。遠いと言っても、平時であれば峠の砦を朝に出発した輸送隊が夕方には到着できる程度の距離ではあるし、その欠点を補うため、峠の砦とフォート・アントンの中間地点にそれなりに堅牢な砦(中間砦)が築かれているのだが、最新の情報によれば、魔境の複数のダンジョンから出撃した魔物軍Bの総規模は(当然、ゴブリン種が数的主力であるとは言え)合計数万に及ぶ大軍であり、その規模にふさわしいだけの攻城兵器(大楯、梯子、穴掘り用工具(塹壕用)、手持ち式破城槌クラスの装備だけでなく移動櫓、投石機、吊り下げ式破城槌等を組むための資材なども)を所有している様子である。それだけの大軍であってもフォート・アントンそのものを完全に陥落させるには時間が必要であるとは考えられるが、付属施設(周辺農地や監視砦含む)は確実に無事では済まないし、外郭の城壁は早期に援軍が到着したとしても相当の被害が予想されるし、何より先に中間砦を落とされると連絡が経たれ、増援が動きにくくなる。無論、それらの被害を低減し、中間砦の戦力増強も兼ねる為にライタウンの冒険者たちが先遣されているのではあるが…パーティー単位で行動すれば斥候・斥候狩りが精々であるし、纏まり過ぎればパーティー単位で完結した戦闘単位であるという利点を生かせない。よって、緒戦では数パーティーが協力して伏撃で行軍を止めさせて時間をかせいだり、攻城戦の為に広く展開した所を後方から襲撃したり、輸送段列に攻撃を仕掛けたり、などといった活動を主にしている筈である。なお、ハリー君たち漆黒の番犬は全員斥候の心得がある上、希少な魔導師を抱えているのでパーティー単位で伏撃・遊撃を積極的に行っていると推定している。加えて、フォート・アントンの神殿騎士団や辺境伯騎士団の分遣隊も活動はしているであろうが数が足りない。私達が行けば数が足りるという訳でないのが歯がゆいが。
話を纏めると、フォート・アントンに迫りつつある魔物軍は数万に及ぶ規模であり、フォート・アントンの守備隊主力は城壁に依って戦うしかなく、敵の規模に対して遊撃戦力が大幅に不足している。よって、昨日、一昨日の戦闘で余裕ができた(と言うか、元々よほどのミスをしない限り、被害の程度はともかく陥落は考え辛い)ライタウン側ではなく、フォート・アントン側で活動する事にしたのである、主にライタウン神殿騎士団団長たる母が。
「さて、諸君。本日から我々ライタウン神殿神殿騎士団は人類の最前線の一つであるフォート・アントン防衛の為、遊撃の任につく。我々の町、ライタウンを我々の手で守りたいという気持ちもわかるが、今はこらえて欲しい」
その言葉に私含め、団員たちがざわつく…一般常識で言えば、騎士団と言う存在が第一に考えるのは所属母体の防衛である。まあ、神殿騎士団と言う存在は人類その物に属しているという建前があるので比較的その縛りが緩く、事前計画でもフォート・アントン側での活動が示唆されていたとはいえ、私含めて団員の大半は魔物軍A本隊がいまだ健在にもかかわらず転戦するとは思っていなかったはずである。少なくとも私は、辺境伯閣下の立場ならばそうして欲しいのだろうなとは思っても、団長がそう言う決断をするとは思っていなかった。
「既にライタウンを襲う魔物軍Aはその脅威度を大きく下げている。辺境伯殿が率いる兵力で十分防衛は可能であり、ヨーク・ウォールからの援軍の活躍次第では予定を変更し、王国騎士団の増援前に打って出て瓦解させる事も可能である」
私達がライタウンの戦闘に参戦すれば、それを数日内に成し遂げる事も可能なのでは?という言葉を押し込め、団長の演説を聞く。
「一方、フォート・アントン側の戦況は非常に厳しい。作戦の想定では1万5千程度、最大2万を想定していたにもかかわらず、魔物軍Bの総兵力は昨日までに捕捉できただけで既に2万を超えており、さらに奥地のダンジョンからの増援さえありうる。正直言って、都市陥落さえ覚悟しなければならない規模の氾濫であると私は考える。言うまでもない事だが、フォート・アントンが陥落すればライタウンが次の前線都市となる。よって、私は人類の守護者たるライタウン神殿神殿騎士団の団長として諸君らに命ずる。フォート・アントン防衛の為、その全力を尽くせ、と」
数舜の沈黙の後、騎士団から歓呼の声が上がる。当然、私も歓呼の声を上げた。
「よろしい。では2時間後に遊撃装備で出撃する。それまでに各隊は隊長の指導の下、装備を選定せよ」
と、言う事で私達は装甲を減らした機動力優先の装備で峠の砦から出撃、フォート・アントン側に進出した。




