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白き観測者  作者: 春乃陽射
目覚めより

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4/5

花の名を数える



朝の鐘が、村に鳴り響いた。


澄んだ音が屋根を越え、畑の向こうへと広がっていく。


鐘楼の脇に建つ小屋には、窓から朝の光が差し込んでいた。


白き観測者は、その小屋の中に立っていた。


床には、昨夜老人が掃除をした跡が薄く残っている。壁際には古い道具が並び、窓の外からは鳥の鳴き声が聞こえていた。


やがて、扉の向こうから足音がした。


「おや。もう起きていらしたのですか」


扉を開けたのは、昨日の老人だった。


老人は白き観測者の姿を確かめると、穏やかに目を細めた。


「朝の鐘は、いかがでしたかな」


返事はなかった。


老人はそれを気にする様子もなく、鐘楼を見上げた。


「毎朝、同じ時刻に鳴らしているのですがね。こうして聞くと、日によって少しずつ響き方が違うような気がするのですよ」


風が吹き、老人の白い髪が揺れた。


「さて、私は鐘の具合を見てきます。村の中を歩かれるのでしたら、ご自由にどうぞ」


老人はそう言って、鐘楼へ向かって歩き出した。


白き観測者は、その後ろ姿を眺めていた。




やがて、小屋を出た。


村には、朝の支度をする人々の姿があった。


井戸のそばでは、女性たちが水を汲み上げている。

道の向こうでは、荷車を押す男が車輪を確かめていた。

家々の扉が開くたび、焼いたパンの匂いや食器の触れ合う音が外へ流れてくる。


昨日と同じように、人々はそれぞれの仕事を始めていた。


白き観測者は、石畳の道を歩いていった。


村の外れへ続く小道に差しかかったとき、聞き覚えのある声がした。


「あ! 昨日の!」


振り返ると、少女が籠を抱えて立っていた。


少女は白き観測者のそばまで駆け寄ってきた。


「また会えたね!」


籠の中には、摘んできたばかりの草花が入っていた。


少女は白き観測者を見上げ、それから小道の先へ目を向けた。


「ねえ、今日はこっちに来て。昨日はあんまり教えられなかったから」


そう言って、少女は歩き出した。


白き観測者は、その後に続いた。


小道の両側には、背の低い草が広がっていた。

朝露をまとった葉が光を受け、ところどころに咲く花が風に揺れている。


少女は道端の花の前でしゃがみ込んだ。


「これは紫水花。昨日も見たよね」


淡い紫色の花びらが、朝の光を受けて柔らかく輝いていた。


「雨が降った次の日は、色が少し濃く見えるんだって。おばあちゃんが教えてくれたの」


少女は葉についた水滴を指先で払った。


次に、少し先に咲いていた黄色い花を指さした。


「こっちは天照花。陽の光が当たると、花びらが明るくなるの」


黄金色の花が、風に揺れていた。


「この花がたくさん咲くと、畑もよく実るって言われているんだよ。だから、村の人たちは見つけると喜ぶの」


少女は立ち上がり、さらに小道を進んだ。


その先には、柵に囲まれた小さな庭があった。


庭の中には、いくつもの花が咲いていた。白いもの、淡い紫色のもの、細い茎の先に小さな花をつけたもの。


少女はそのひとつひとつを指さしながら、名前を教えていった。


白き観測者は、少女の指先を追い、花々へ顔を向けていた。


やがて、少女は柵の向こうに咲く青い花の前で足を止めた。


「あ、そうだ。この花なんだけどね」


少女は花のそばにしゃがみ込んだ。


「昨日、家に帰ってからおばあちゃんに聞いてみたんだ。名前は、やっぱりわからないんだって」


淡い青色の花びらが、風に揺れていた。


少女はその花をじっと眺めていた。


「でも、すごく綺麗な花だよね」


そっと顔を近づけ、花びらの一枚一枚を確かめるように見つめる。


「どんな名前なんだろう……」


小さく呟いた声は、風に溶けていった。


白き観測者は、少女の隣で花を眺めていた。


風が吹くたび、青い花はゆっくりと揺れた。


少女はしばらく花を見つめたあと、籠を抱え直した。


「いつか名前がわかるといいな」


そう言って立ち上がると、今度は村の広場へ向かった。



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