小さな手
広場からは、子供たちの賑やかな声が聞こえていた。
ひとりが走り出すと、ほかの子供たちも声を上げて追いかけていく。
「あ、みんなだ!」
少女が声を上げると、子供たちのひとりがこちらを振り返った。
「あっ、白いやつだ!」
その声を聞いて、ほかの子供たちも集まってきた。
「昨日もいたよね!」
「ねえ、いっしょに遊ぼうよ!」
子供のひとりが、広場の向こうへ駆け出した。
「捕まえられるもんなら、捕まえてみて!」
それを合図に、子供たちは一斉に走り出した。
白き観測者は、彼らの動きを追うように歩きはじめた。
子供たちは何度も振り返り、手を振った。
「こっちだよ!」
「走って!はやくはやく!」
白き観測者が近づくと、子供たちは歓声を上げて逃げていった。
広場には足音と笑い声が響いていた。
ひとりが石畳を横切り、別のひとりがその後を追う。子供たちは互いに声を掛け合いながら、広場を走り回っていた。
そのとき、小さな子供が石畳につまずいた。
膝を打ち、両手を地面につく。
一瞬、広場の声が途切れた。
子供は自分の膝を見つめたあと、泣き声を上げた。
走っていた子供たちが足を止めた。
「だいじょうぶ?」
ひとりが駆け寄り、もうひとりが手を差し出した。
「立てる?」
子供は泣きながら、その手を握った。
近くにいた大人もやってきて、膝についた土を払った。傷がないか確かめ、子供の頭をそっと撫でる。
やがて、子供は立ち上がった。
涙を拭うと、そばにいた子供がその手を握った。
「いっしょに帰ろう」
ふたりはゆっくりと歩き出した。
残った子供たちは、その後ろ姿を見送っていた。
しばらくすると、広場にはまた笑い声が戻った。
白き観測者は、広場の端に立っていた。
昼の陽射しが、石畳の上に落ちていた。
午後になると、少女は籠を持って家へ帰っていった。
「また明日ね!」
庭の入口で振り返り、少女は手を振った。
白き観測者は、その姿を眺めていた。
少女は家の中へ消えていった。
村の人々も、それぞれの仕事へ戻っていった。
荷車が道を通り、井戸のそばでは水を汲む音が聞こえていた。家の前で洗濯物を干す人がいれば、畑から戻ってきた人の姿もあった。
やがて、陽が傾きはじめた。
白き観測者は、鐘楼へ向かった。
塔のそばでは、老人が木箱を片づけていた。
「おや。今日は村を歩いていらしたのですな」
老人は白き観測者に気づくと、穏やかに笑った。
「子供たちと遊んでいたのですか?」
返事はなかった。
老人は白き観測者の姿をしばらく眺め、それから鐘楼の脇にある小屋へ目を向けた。
「今夜も、あの小屋を使ってくださってかまいませんよ」
老人は木箱を持ち上げた。
「明日も鐘を鳴らします。よろしければ、また聞いていってください」
そう言って、老人は鐘楼の奥へと歩いていく。
白き観測者は、その後ろ姿を眺めていた。
やがて、村の鐘が鳴った。
夕暮れの空に音が広がり、家々の窓に灯りがともりはじめ、昼間に聞こえていた子供たちの声は、少しずつ遠ざかっていった。
白き観測者は、小屋の前に立っていた。
風が吹き、村の外れに広がる草原が揺れる。
昼間に見た青い花も、紫色の花も、夜の闇の中では色を失っていた。
それでも、花はそこに咲いていた。
村の鐘が、最後にもう一度鳴った。
その音が静かに消えていく。
白き観測者は、夜の村に立っていた。
その白い姿だけが、月明かりの中に静かに浮かんでいた。




