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【変身ヒロイン×アイドル】煌坂★パステリズム(煌戦隊★キラリンジャー) 修行譚  作者: おおたこ
第1章

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第3話: 激突! 魅せるステージと戦う覚悟


山奥での地獄みたいな『バラバラ合宿』から戻ってきた翌日。

私たちの全身は、笑えるくらいボロボロだった。


「たた、畳に足がつかない……痛い痛い痛い!」

事務所のレッスンルームの床で、咲が生まれたての小鹿みたいに脚をガクガクさせている。

「咲、騒がないで。筋肉が収縮して余計に乳酸が溜まるわ」

そう言っている葵だって、正座したまま固まっていて一歩も動けていない。メガネがずり落ちかけているのに、腕を上げるのすら億劫そうだ。

桃に至っては、壁際で丸まったまま、保冷剤を両頬に当てて「ううー……」と唸っているだけ。

翠だけが意地でストレッチを続けていたけれど、開脚したまま「……あ、股関節がいったかも」と呟いて静止していた。


私――煌坂茜は、そんなみんなの惨状を見回しながら、湿布の匂いが充満する部屋で小さく息を吐いた。

体は痛い。爪の先までだるい。

でも、胸の奥はすっきりしていた。

あの過酷な山の中で、一人ひとりが自分の弱さと向き合って、泥を啜って掴んできた「個の強さ」。

私たちはもう、ただ寄り添って傷を舐め合っていた頃のパステリズムじゃない。


「みんな、お疲れ様。……少しは、様になってきたかな」

「茜が一番ボロボロじゃん」

咲が床に顔を埋めたまま突っ込んできた。

「でもさ……なんか、ちょっと楽しかったかも」


その言葉に、みんながクスッと笑った。

そう、私たちは試練を乗り越えたのだ。

ここからは、少しずつ戦隊としての形を作っていけばいい。そう思っていた。


ガチャリ、と重いドアが開くまでは。


白いパンツスーツに身を包んだ月城玲奈が、一切の足音を立てずに入ってきた。

その手には、一枚の黒いバインダー。

嫌な予感がして、背筋が寒くなった。


「随分と余裕そうですね。筋肉痛を楽しむ余裕があるなら、次の課題に移りましょう」

玲奈の声には、相変わらず情赦という概念が存在しない。


「玲奈さん……次の課題って、まさか今日も山へ?」

葵が引きつった声で尋ねる。


「いいえ。山はもう終わりです。本日18時より、煌星のイベントホールにて、ステラプリズムの定期ファン感謝イベント『格闘&アコースティックライブ』が開催されます」


「あ、それ知ってます!」

桃が保冷剤を外して顔を上げた。

「ステラプリズム先輩たちの人気イベントですよね! アクションショーとライブが合体したやつ!」


「ええ。そのイベントのメイン企画である『格闘アクションライブ』の対戦相手として、あなたたち『煌坂★パステリズム』を急遽組み込みました」


……はい?


「えっ……? 対戦相手……? ええぇぇぇぇっ!?」

咲の悲鳴がレッスンルームの天井を突く。


「ちょっと待ってください!」葵が慌てて立ち上がろうとして、足がもつれてコケかけた。「ステラプリズムのイベントということは、観客は全員、彼女たちの熱狂的なファンですよね? そこで私たちが対戦相手として出たら……」


「その通りです」

玲奈は冷徹な銀色の瞳で、私たちを静かに見下ろした。


「会場を埋め尽くす数千人の観客は、誰一人としてあなたたちを見に来ていません。むしろ『誰だあの素人は』『ステラプリズムのステージを邪魔するな』という冷ややかな視線が注がれるでしょう。完全なるアウェー」


玲奈はバインダーを閉じ、コツンと胸元に当てた。


「身内だけの山奥で掴んだ強さが、冷意と敵意に満ちた本番のステージで通用するのか。観客のアウェーの洗礼を跳ね返し、その歓声を奪い取ってみせなさい。……断る選択肢はありません」


---


17時15分。煌星ライブハウス、楽屋裏。


廊下にまで漏れ聞こえてくる地鳴りのような歓声。

ステラプリズムのファンが開演を待ちわびて、ペンライトを振りながら手拍子を打っている音だった。

ドアが一枚隔てられているだけなのに、その熱気と、どこか排他的な空気の圧迫感が、重く皮膚にのしかかってくる。


「むーりーでーすー! 絶対無理だってばぁぁぁ!」

咲が姿見の前で頭を抱えてのたうち回っていた。

「相手は本物のセーラー戦士なんだよ!? 愛咲美玲さんの圧倒的センターオーラに、火ノ宮紅葉さんのガチの蹴り! 雷咲ひかりさんの爆発的なパワー! 勝てる要素がどこにあるのさーっ!」


「落ち着きなさい咲、声が大きいわ」

葵はパイプ椅子に座り、膝の上に置いたノートパソコンのキーボードを猛烈な勢いで叩いている。

だが、その指先はわずかに震えていた。レンズの奥の目が泳いでいる。


「……葵ちゃん、データはどうなの?」

桃が不安そうに葵の顔を覗き込む。


「正攻法での格闘能力、アクションの精度、ステージでの認知度……どれをとっても勝率は0.4%以下です」

葵が吐き捨てるように言った。

「会場の感情測定センサーの事前データを取得しましたが、観客の98%はステラプリズム目的。『パステリズム』という名前すら知らない層が過半数です。私たちがステージに立った瞬間、会場の空気は凍りつくでしょう」


「アウェーどころか、完全な処刑台だな」

翠が壁に背を預け、腕を組んでつぶやいた。

言葉とは裏腹に、翠の視線は鋭く研ぎ澄まされている。合宿で陽菜から叩き込まれた『場を支配する要』としての覚悟が、その身体に宿り始めていた。


「でもさ……引き下がるわけにはいかないよ」

私が声を出すと、四人の視線が一斉にこちらを向いた。


「玲奈さんは、私たちを潰すためにこのステージを用意したんじゃないと思う」

「……本当にそうかなぁ? 玲奈さんならあり得そうだけど……」咲が口を尖らせる。

「ううん、違う」

私は自分の胸元、キラリンジャーの衣装の胸章をギュッと握りしめた。


「山で言われたじゃん。『自分たちの存在価値を示せ』って。私たちが目指してるのは、誰かに守られるアイドルじゃない。戦隊として立って、見てくれる人を元元気にする存在なんだよ」


「……でも、茜」

葵がパソコンの画面を私たちに向けた。

「客観的な事実として、私たちの殺陣(たて)の技術では、美玲さんたちの熟練したアクションに対抗できません。観客は『本物』を見に来ているんです。生半可な殺陣を見せれば、ただの失笑を買って終わります」


「なら……『本物』とは違うやり方で勝負すればいいんじゃない?」


突然の桃の声に、全員がハッとして振り向いた。

桃は怖がっていた顔を引っ込め、真剣な目で葵を見つめていた。


「桃……?」


「葵ちゃん、私たちの名前ってなにか覚えてる?」

「……煌坂★パステリズムですが」

「そうだよ。私たちは『現役AIアイドル』としてデビューして、今『戦隊』の修行をしてる」

桃の言葉に、咲が目を丸くする。

「それって……」


「AIアイドルの武器って、完璧なダンスや歌だけじゃないよね」

桃は自分の胸に手を当てた。

「観客の表情、手拍子のテンポ、会場の空気の揺らぎ……それをリアルタイムで感じ取って、ミリ秒単位でパフォーマンスを変化させる『同調能力(センシング・ライブ)』。それが私たちの本来の強みだったはずだよ」


葵の瞳が、ハッと大きく見開かれた。

「……同調能力」


葵は猛烈な勢いでキーボードを叩き直し始めた。

画面上のグラフと数値が、目まぐるしく書き換わっていく。


「……そうです。なぜ気づかなかったんでしょう」

葵の声に熱がこもる。

「ステラプリズムのセーラー戦士たちは、圧倒的な『個』の武力と美しさで観客を平伏させるスタイル。いわば『提示型』のステージです。しかし……私たちは違う」


葵がメガネのブリッジを押し上げた。冷たいレンズの奥に、知性の炎が燃え上がる。


「観客の歓声、視線、空気の揺らぎをセンサーで拾い、それを私たちの動きとアクションの殺陣に即座にフィードバックさせる。観客の熱量をリアルタイムでエネルギーに変換する『共鳴型格闘ライブ』……これなら勝機があります!」


「格闘アクションと、アイドルのライブの融合……!」

咲がポンと手を叩いた。

「それって、私たちにしかできないやつじゃん!」


「アウェーの客を冷ややかに見させない」翠が口元を不敵に歪めた。「私たちのパフォーマンスで、無理やり巻き込んで、自分たちのホームに変えるってことだな」


「うん!」

私は全員を見回した。

身体の痛みも、アウェーの恐怖も、もう吹き飛んでいた。


「観客の歓声をエネルギーに変えて……行こう、みんな! 私たちの真骨頂を見せてやろう!」


---


『――さあ、続いての特別企画! ステラプリズムのセーラー戦士たちに挑む、期待の修行生たち! “煌坂★パステリズム”の登場だぁぁぁっ!』


実況のアナウンスが響き渡ると同時に、照明が暗転した。


ザワ……ザワザワ……。


数千人がひしめく会場から、あからさまな戸惑いの空気が漏れ出す。

「え、誰?」「修行生?」「知らない子たちだな……」「早く美玲ちゃんたちのライブ見たいんだけど」

ステージに立ち、スポットライトを浴びた瞬間に肌を刺すような冷気。

ペンライトの光もどこかまばらで、ほとんどの観客が様子見のように腕を組んでいた。


ステージ中央。

向かい側に立つのは、戦闘スーツを身にまとったセーラー戦士たち。

愛咲美玲、火ノ宮紅葉、雷咲ひかり、美咲あき。

その立ち姿だけで絵になる圧倒的な存在感と威圧感。


「来ましたね、パステリズム」

美玲が優しく、しかし挑戦的な笑みを浮かべてマイクを構える。

「遠慮はいらないよ。全力でかかってきて!」


「ブザーとともに試合開始です!」あきが冷静に宣言する。


ブゥゥゥゥン――!


シグナル音が鳴り響くと同時に、ひかりと紅葉が疾風のようなスピードで踏み込んできた!


「ハァッ!!」

紅葉の鋭い木刀の突き! ひかりの重厚な旋風脚!

初日なら、それだけで私たちはパニックになって弾き飛ばされていただろう。


ガッキィィィン!!


「くっ……おおぉぉぉっ!」

私が正面から紅葉の突きを木刀で受け止める! 衝撃で腕の骨が軋むが、足の裏をステージに強く叩きつけ、踏みとどまった!

合宿で鍛えた「折れない軸」が、紅葉の攻撃を受け止める!


「なっ……! 止めた!?」紅葉が驚愕に目を見開く。


「今です、葵ちゃん!」桃が叫ぶ。


舞台袖に設置された簡易モニタリングシステムから、葵の耳元のインカムへ膨大なデータが流れ込んでいた。

葵の目には、客席のペンライトの揺れ、観客の視線が集中しているポイントが、リアルタイムの熱源データとして視覚化されていた。


「観客の関心度、現在18%……ですが、紅葉さんの攻撃を受け止めた瞬間、Bブロックのボルテージが3.2%上昇!」

葵はステージ上で華麗に身を翻しながら、マイクへ叫んだ。


「咲! そのままCブロックへ向かって跳躍! 観客の視線を惹きつけて!」

「ラジャーッ! 見ててね、みんな〜〜っ!」


咲が地を蹴った!

滝修行で手に入れたブレない体幹。ただのアクションではない。ステージの照明の反射を味方につけ、金髪のポニーテールを躍動させながら、観客の頭上を越えるほどのハイフリップを披露する!


「うわ、すげぇ跳躍……!」「あの子、めちゃくちゃ動けるぞ!?」

客席から、小さな歓声が上がり始めた。


「桃! ひかりさんの攻撃をかわすな、視線を合わせろ!」

「はいっ!」


ひかりの重い大振りに対して、桃は正面から飛び込んだ!

恐怖で目を閉じることは、もうない。桃はひかりの拳を寸前でかわしながら、目の前の客席に向かって、最高のウインクと笑顔を炸裂させた!


「応援、よろしくねっ★」


ドッ……と会場が湧いた。

「かわっ……!」「なんだあの子、格闘中にファンサしたぞ!?」


「観客の感情同調率、45%突破!」葵が叫ぶ。「翠、舞台中央を制圧してください!」


「任せろ!」

翠が木刀を豪快に振り回し、あきと美玲の連携を分断!

ただ防ぐのではない。観客の手拍子のリズムに合わせて木刀を打ち鳴らし、殺陣そのものを「ライブの演出」へと変えていく!


タン、タン、タタン!

木刀が打ち合わされる音が、心地よいリズムとなって会場に響き渡る。

いつの間にか、観客の手拍子がそのリズムと同期し始めていた。


「すごい……!」

美玲が攻撃を交えながら、驚きの声を漏らした。

「自分たちのパフォーマンスで、会場の空気を……リズムを支配してる……!?」


---


観客の同調率は、すでに70%を超えていた。


最初のアウェーの冷気はどこへやら。会場全体を覆っているのは、「この新人たち、めちゃくちゃ面白くて強いぞ!」という爆発的な熱狂だった。


「がんばれーっ! キラリンジャー!!」

「赤の子、押し返せーっ!」

「黄色ちゃん、回転キック見せてー!」


客席から飛んでくる声援。

その一つひとつが、私たちの全身に染み渡り、疲労で動かなくなりかけていた足に、無限のパワーを送り込んでくる。


(聴こえる……みんなの声が……!)


私は汗で濡れた髪を払い、正面の美玲を見据えた。

美玲の瞳にも、本気の火が灯っている。


「美玲さん……行きます!」

「来なさい、茜ちゃん!」


美玲がセーラー戦士としての真の力を解放し、高速の連撃を繰り出してくる。

速い。重い。プロのアクション。

だが――私には、後ろに四人の仲間がいた。


葵の精密な指示。

咲の華やかな撹乱。

桃の勇気ある死角カバー。

翠の絶対的な空間支配。


「みんなの想いを……観客のエネルギーを……この一撃に!!」


四人が私の背中に手を重ねるような錯覚。

観客の「うぉぉぉぉっ!」という地鳴りのような大歓声が、私の背中を強力に押し出す!


私が跳躍した。

ステージの照明を背に受け、紅い光を纏った一筋の閃光となって、美玲の懐へ飛び込む!


美玲の竹刀と、私の木刀が、互いの胸元で作差した――!


バゴォォォォォンッ!!!


すさまじい衝撃音とともに、紙吹雪のような光の演出が弾け飛ぶ。

会場の電圧が限界を突破し、照明が一瞬真っ白にフラッシュした。


---


【エピローグ】


静寂。


そして――地鳴りのような拍手と歓声が、ホール全体を揺らした。


「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! パステリズム! キラリンジャー!!!」」」」」


ステージの上。

私は膝をつき、激しい呼吸を繰り返していた。

向かい側では、美玲が驚いたように自分の竹刀を見つめ、それから笑った。


「……一本、持っていかれたね」

美玲の竹刀の先が、わずかに割れていた。


試合結果は、規定時間終了による引き分け。

だが、客席を支配していたのは、紛れもなく「煌坂★パステリズム」の名前だった。


赤、青、黄、ピンク、緑。

まばらだったペンライトの光が、今や会場全体で五色に輝いていた。観客全員が立ち上がり、私たちに向かって惜しみない拍手を送っている。


「やった……やったよ、茜ちゃん!」

桃が泣きながら抱きついてきた。咲も葵も翠も、互いの肩を組み合って、ボロボロになりながら笑い転げた。


アウェーの洗礼を跳ね返し、観客の心を奪い取った。

私たちは今日、本当の意味で「自分たちのステージ」を作り上げたのだ。


舞台袖。

暗がりの中で、月城玲奈が手元のバインダーを静かに閉じた。

その隣には、天照陽菜。


「どうでしたか、玲奈さん?」

陽菜が微笑みながら尋ねる。


「……不合格にする理由が見当たりませんね」

玲奈の口元が、ほんのわずかに、柔らかく緩んでいた。

「ただ守られるだけのAIアイドルではない。観客と共鳴し、戦場を自分のホームに変える……あれこそが、彼女たちだけの『戦隊アイドル』の形です」


玲奈はステージ上で歓声を浴びる五人の背中を見つめ、静かに呟いた。


「……よくやりました、キラリンジャー」


楽屋へ戻る廊下。

汗を拭きながら歩く私たちの前に、玲奈が立っていた。


「玲奈さん!」

私が駆け寄る。「私たち……約束、果たせましたか?」


玲奈は五人を順番に見回すと、いつもの冷徹な声……ではなく、少しだけあたたかい声で言った。


「合格です。あなたたちは『アウェーの洗礼』を乗り越え、自分たちの存在価値を証明しました。……ですが、浮かれるのはここまでです」


玲奈がバインダーを開く。


「明日からは、さらに実践的な戦隊アクションと、新曲の本格的なレッスンに入ります。覚悟しておくように」


「「「「「はいっ!!」」」」」


五人の元気な返事が、廊下に響き渡る。


筋肉痛はまだ痛いし、明日からのレッスンもきっと地獄だ。

でも、もう誰も怖がっていなかった。


私たちは、強くなれる。

五人で一緒なら、どこまでだって輝けるんだから。


---


【次回予告】


茜「次の試練は……まさかの『テレビ生放送での特撮アクション披露』!?」

咲「全国のお茶の間に私たちの姿が流れるの!? ヤバいヤバい、緊張で胃が痛いよ〜!」

葵「ですが、生放送特有のトラブル発生確率は87%……予期せぬ事故への対策が必要です」

桃「あ、あの……カメラの向こうのみんなにも、私たちの気持ち……届くかな?」

翠「届かせるんじゃない。叩き込むんだよ」

茜「失敗なんて恐れない! 画面の向こうの君へ、私たちの煌めきを届けにいくよ!」


次回、煌戦隊★キラリンジャー 修行譚 第4話:

『生放送の大暴走? 届け、画面越しの熱狂!』


燃え上がれ、勇気の煌き★!

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