第23話:輝きの証明! 散りゆく怨念と未来への歌!
【アバン】
ドクンッ!! ドクンッ!!
世界が、嫌な音を立てて波打っていた。
目の前で崩れかけている身の丈十メートルの巨体――『クイン=チカノコ』。
真の覚醒を果たした私たちの必殺技『キラリン・グランド・ミリオン・ブレイカー』を胸に受けて、その漆黒の甲殻はボロボロに引き裂かれていた。
なのに。
勝負は、まだ終わっていなかったのだ。
『ギシャアァァァァァァッ!! 許さない……絶対に許さないわぁぁぁっ!!』
クイン=チカノコの割れた胸の奥から、どす黒い紫色の毒気が、火口から噴き出すマグマみたいに溢れ出していた。
地面が激しく打ち震え、砕けたコンクリートの破片が重力を無視してフワフワと空中に浮き上がり始める。
「な……なに……!? 体内エネルギーが……急激に暴走しています!?」
ブルー(葵)が割れたバイザーの奥で、悲鳴に近い声を上げた。
「自爆する気だ!!」
グリーン(翠)が折れない風の刃を構え直すが、その腕がかすかに震えていた。
「自分たちの怨念の残りを全部叩きつけて……この街ごと、私たちを道連れにするつもりだぞ!」
『オレたちを……見捨てた地上の奴らも……ちやほやされるお前たちも……全部まとめて吹き飛べぇぇぇぇっ!!』
クイン=チカノコの胸元に浮かび上がった、パチモンスーツの不気味な5つの顔。
血の涙を流しながら、発狂したように叫んでいる。
その全身から溢れ出る暗黒エネルギーの塊は、すでに煌星市の中央広場全体を呑み込むほど巨大に膨れ上がっていた。
これが爆発すれば、周りのビルも、避難が遅れている街の人たちも、そして遠くで倒れている玲奈さんたちだって……木っ端微塵に吹き飛んでしまう。
「そんなの……絶対にダメえぇぇぇっ!!」
イエロー(咲)が泣きそうな顔で叫ぶ。
ピンク(桃)はシールドを握りしめたまま、必死に前に出ようとして足を滑らせた。
変身は取り戻した。絆も確かめた。
だけど……相手が命を捨てて襲いかかってくるこの土壇場で、私たちはどうすればいいんだ!?
私――レッド(茜)は、胸の前で握りしめた『キラリンセイバー』の柄に、全身の血を注ぐように力を込めた。
あきらめるな。
泥を舐めて、笑われて、それでも手をつないで立ち上がってきた私たちが……ここで負けるわけがないんだ!
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【Aパート】
ドズズズズズズ……ッ!!
クイン=チカノコから放たれる狂気のような圧力が、私たちのスーツの防護フィールドをミシミシと押し潰していく。
『死ねぇぇぇっ! 幸福な奴らめ! 光を浴びる者どもめぇぇぇっ!』
膨れ上がる黒い球体。
その黒いエネルギーの奥から、私には『声』が聞こえていた。
ただの怪物としての咆哮じゃない。
泥ドロとした毒気の向こう側で、泣き叫んでいる無数のちっちゃな影たちの声が。
『ずるい……ずるいよ……!』
『オレたちだって……練習したんだ……! 地下の暗い場所で……何百回も……!』
『なんでオレたちの歌には誰も振り向いてくれないんだ……! なんでお前たちばかり拍手を貰えるんだ……!』
パチモンスーツの5人――カガヤキタインジャーたち、そして何百体ものチカノコたちの、悲痛な叫び。
「あ……」
桃が、小さく息をのんだ。
「この人たち……本当に……歌いたかったんだ……」
「ええ……」葵が唇を噛みしめる。「彼らの原動力は、純粋な破壊衝動ではありませんでした。『誰かに認められたい』『光の下で歌いたい』という……あまりにも不格好で、抑えきれなかった情熱の暴走です……!」
その声を聞いた瞬間、私の胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。
既視感だ。
有明のステージで冷ややかな目で見られて、ネットで変顔を晒されて笑われて、「お前らなんかアイドルじゃない」って叩かれた、あの頃の私たち。
合宿の冷たい滝の中で、震えながら「諦めたくない」って泣いていた、あの時の私たち。
一緒じゃないか。
やり方が違っただけだ。
届かなくて、悔しくて、嫉妬して、暴走してしまっただけで……根っこにあるのは、私たちと同じ「輝きたい」っていう、泥臭い命の叫びだったんだ。
「茜……」
咲が、私の隣でそっと手を重ねてきた。
変身スーツ越しなのに、咲の手の温もりが、まっ直ぐ私の中に流れ込んでくる。
「私さ……あいつらのこと、安っぽい偽物だって笑っちゃった……」
咲のバイザーの奥から、綺麗な涙がこぼれ落ちていた。
「でも……ちやほやされたくて必死だったあいつら、前の私にそっくりなんだよ……。笑えるわけ、ないじゃんか……!」
「ああ」翠が不敵に、だけど寂しそうに口元を歪めた。「殴り飛ばして終わり、なんてのは……私たちのやり方じゃねぇよな」
「はい」葵が静かに頷く。「物理的な破壊では、彼らの怨念は消えません。……包み込むのです。私たちのすべてで」
「みんなの歌声を……未来へ届けるんだから!」
桃が前に出た。その手には、シールドではなく、みんなの想いをひとつに繋ぐ柔らかな桃色の光が宿っていた。
そうだ。
叩き潰して勝つんじゃない。
あいつらの泥臭い情熱も、悔しさも、全部受け止めて……私たちの歌で、光の下へ引っ張り上げてやるんだ!
「みんな……新曲、歌うよ!!」
私が叫ぶと、四人の瞳に、今までで一番温かくて、強い火が灯った。
「「「「「応っ!!!!!」」」」」
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【Bパート】
『消えろぉぉぉぉぉっ! 怨念爆砕・カガヤキタイ・ファイナル・ディザスターーッ!!』
クイン=チカノコが、膨れ上がった漆黒の自爆エネルギーを、一気に解き放った!
ドドオォォォォォンッ!!!!!
天地を揺るがす暗黒の濁流。広場全体がブラックホールに呑み込まれるように黒く削り取られていく。
だが――。
私たちは逃げなかった。一歩も引かなかった。
五人が円陣を組み、固く手を繋ぎ合わせる。
「同調率……上昇……! 120%……150%……200%……計測不能域突破!!」
葵の叫びが響く!
「私たちの『覚悟』を……5人の絆を……ひとつに連動させます!!」
胸のチェンジャーから解き放たれたのは、破壊の光じゃない。
透き通るような、温かい五色のメロディの粒子だった!
『――輝け! 繋がる未来へ〜♪ 僕らの光で、世界を叩き開け!!』
私たちが歌い始めたのは、新曲『キラメキ・リコネクト』。
戦場に、私たちの生の声が響き渡る。
ダンスのステップを踏みながら、手を繋ぎ合い、五色の光のバリアを巨大な満月のように広げていく!
「ハぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドガアァァァンッ!!
自爆の暗黒濁流が、私たちの歌のバリアに激しく激突した!
凄まじい衝撃。スーツの表面が削れ、火花が激しく散る。
だけど、誰も手を離さない。
「届いてぇぇぇぇっ!」
ピンク(桃)が叫ぶ!
「あんたたちの悔しさも! 歌いたかった情熱も! 全部……全部私たちが受け止めてあげるからぁぁっ!」
イエロー(咲)が声を張り上げてサビを歌う!
「逃げずに聞きやがれ! これが……本物のライブだぁぁぁっ!」
グリーン(翠)が旋風を巻き起こし、暗黒の毒気を光の粒子へ変えていく!
「計算など要りません……! 私たちの魂を……重ねます!」
ブルー(葵)が水流の旋律を奏で、怨念の濁流を優しく包み込んでいく!
五人の歌声が重なり合い、虹色の光の波となって、クイン=チカノコの暴走する暗黒エネルギーを、丸ごと包み込んでいった。
自爆の圧力が、じわじわと殺意を失っていく。
黒い毒気が、ジュウウゥゥ……と音を立てて、温かい桃色や黄色の光の粒子へと精製されていく。
『な……なに……!? 攻撃が……殺意が……消えていく……!?』
クイン=チカノコの胸元で、パチモンスーツの5人が呆然と叫ぶ。
『温かい……なんだこの歌は……!? オレたちの怨念が……溶けていく……!?』
「拒まないで!」
レッド(茜)は、バリアを押し開きながら、一直線にクイン=チカノコの胸の奥……怨念の核へと手を伸ばした。
「あんたたちも……光の下で踊りたかったんだよね!?」
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【Cパート】
光の濁流の中で、私の意識は、クイン=チカノコの精神世界の奥深くへと潜り込んでいた。
そこは、冷たくて、暗くて、誰も来ない棄てられた地下街の片隅。
足元に座り込んでいたのは、怪物の姿じゃない。
ボロボロの、安っぽいビニール地のスーツを着た、傷だらけの5人の男たちと、無数のちっちゃなチカノコたちだった。
彼らは膝を抱え、泥にまみれた顔を伏せて、シクシクと泣いていた。
『……欲しかったんだ』
カガヤキタイ・レッドの男が、掠れた声で呟いた。
『ただ……拍手が欲しかったんだ。お前たちみたいに、綺麗衣装を着て、スポットライトを浴びて……「かっこいい」って言われたかったんだ……。でも……誰もオレたちを見てくれなかった……』
『オレたちの歌なんて……誰も聞いてくれなかったんだよぉ……っ!』
チカノコたちが、泥の中で声を上げて泣く。
私は、彼らの前に歩み寄った。
そして……躊躇うことなく、膝をついて泥の中に腰を下ろした。
「茜ちゃん!?」
精神世界についてきてくれた咲や桃たちが、驚いて声を上げる。
私は、一番前で泣いていたカガヤキタイ・レッドの手を、両手で優しく包み込んだ。
「あ……」
男が弾かれたように顔を上げた。
私の手も、泥で汚れている。
爪の中には土が入り、ジャージはボロボロだ。
「……知ってるよ」
私は、男の目を見つめて、静かに笑った。
「誰も見てくれない悔しさも。冷たい目で見られる悲しさも。……私たち、全部知ってる」
「な……なんで……お前たちみたいなトップアイドルが……!」
「トップなんかじゃないよ」
咲が横に座り込み、カガヤキタイ・イエローの背中をポンポンと優しく叩いた。
「私たちさ、有明のステージで大失敗して、ネットで変顔晒されて笑われて……山の中で正座させられて泣いてたんだよ? 泥なんか、あんたたちと同じくらい喰ってきたよ」
「え……?」男たちが目を見開く。
「綺麗に勝ってきたんじゃない」葵がメガネを直しながら呟く。「泥を啜り、嘲笑され……それでも手を繋ぎ合って、ここまで足掻いてきたのです」
「だからさ」
翠がカガヤキタイ・グリーンの肩を組み、乱暴に笑った。
「嫉妬するなら、諦めずに足掻けよ。ズルい手使って足を引っ張るんじゃなくてさ……本気で歌って、踊って、地上の私たちを倒しに来いよ!」
「はいっ!」桃が温かい笑顔を向ける。「次は……パチモンじゃなくて、ライバルとして……同じステージで歌おうよ!」
「あなたたちも……光の下で踊りたかったんだよね」
私がそう言うと、カガヤキタイ・レッドの目から、溢れ出た涙がボロボロとこぼれ落ち、泥のついた男の頬を綺麗に洗い流していった。
『……勝てねぇよ』
男は、泣き笑いのような顔で、私の手を強く握り返した。
『こんな……こんな温かい歌歌われたら……勝ち目ねぇよ……っ!』
『ありがとう……キラリンジャー……!』
チカノコたちが、一人、また一人と、温かい光の中に包まれていく。
彼らの手に握られていた不気味な黒いケミカルライトが、綺麗で鮮やかな七色の光に変わり、満天の星空みたいに夜空へ舞い上がっていった。
『次は……本気で……追いついてやるからな……!』
感謝と、爽やかな誓いの言葉を残して。
怨念の影たちは、柔らかな光の粒子となって、青空の向こうへ消え去っていったのだった。
◇
ドガアァァァン……。
静かな光の弾ける音が響き、クイン=チカノコの巨体が完全に浄化された。
崩壊した煌星市の中央広場。
紫色の黒雲は完全に吹き飛び、雲の隙間から、眩しい、祝福のような太陽の光が差し込んでいた。
「はぁ……はぁ……」
変身が解け、生身のジャージ姿に戻った私たち5人。
膝から崩れ落ちそうになるのを、お互いの肩を支え合って踏みとどまる。
全身の皮脂が抜け、疲労骨折しそうなくらい体はボロボロだったけれど。
胸の中は、澄み切った秋の空みたいに、爽やかで、温かい光で満たされていた。
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【エピローグ】
「……見事でした」
足音が近づいてきた。
振り返ると、変身が解除されたステラセイヴァーズの先輩たち――美玲さん、紅葉さん、ひかりさん、あきさん、陽菜さん、そして月城玲奈さんが立っていた。
玲奈さんは、折れた銀色の剣をそっと鞘に収め、私たちの前に歩み寄ってきた。
その銀色の瞳には、もう冷たさなんて微塵も残っていなかった。
涙を堪えるような、だけど最高に誇らしげな微笑みが、その口元に浮かんでいた。
「敵の怨念すらも受け止め、自らの歌で浄化してみせた。……あなたたちは今日、ただの『怪人を倒すヒーロー』を超えて、人々の心に寄り添う『真の偶像』となりました」
玲奈さんは、自分の手元にあったバインダーをそっと閉じ、私たち5人に向かって、深く、深く頭を下げた。
「感謝します、パステリズム。あなたたちの輝きが……この街を、そして私たちを救ってくれました」
「玲奈さん……!」
美玲さんがたまらず駆け寄ってきて、私と咲を同時に抱きしめた。
「すごかったよ……! すごかったよ、茜ちゃん、咲ちゃん……っ! 私、途中で泣いちゃったよぉっ!」
「へっ……甘っちょろい倒し方だと思ったが……まあ、お前たちらしくて悪くねぇな」
紅葉さんが不器用そうにフンと鼻を鳴らす。
「最高だったぞ、妹分どもーーっ!」
ひかりさんが私の頭をクシャクシャに撫で回し、あきさんと陽菜さんも温かい拍手を送ってくれた。
見上げると、青空の向こうに、大きな綺麗な七色の虹がかかっていた。
「ねえ、茜」
咲が私の横顔を覗き込み、破顔した。
「私達……また少し、強くなれたかな?」
「うん」
私は自分の胸に手を当てた。
トクン、トクンと、力強く打つ心臓の音。
「強くなれたよ。……一人じゃなくて、みんながいたから。あいつらの声も、聞くことができたんだよ」
五人で手を取り合い、太陽の光を浴びる。
泥の中から掴み取った私たちの輝きは、もうどんな闇にも、どんな嫉妬にも、決して消されることはない。
さあ、行こう。
新しい日常へ。
歌って、踊って、誰かを笑顔にする……私たちの、最高のステージへ!
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【次回予告】
茜「チカノコ編も無事に解決して、平和が戻った煌星市!」
咲「よーし! 心機一転、パステリズムの『ファン感謝祭イベント』を開催するぞー!」
葵「ですが……イベントの準備中に、予期せぬトラブルが発生しました」
桃「えっ……ファンのみんなに届ける『限定グッズ』が届いてない……!?」
翠「届かねぇなら自分たちで作るまでだ! 徹夜作業、開始だおらぁっ!」
茜「笑顔と感謝を届けるために! 私たちのドタバタ感謝祭、開幕!」
次回、煌戦隊★キラリンジャー 修行譚 第24話:
『感謝を込めて! ドタバタファン感謝祭と手作りの絆!』
燃え上がれ、命の火★!




