第20話:地下ドル戦隊カガヤキタインジャー登場! キラリンジャー……敗れたり!!!!
【アバン】
昨日のチカノコたちとの戦いの後味の悪さは、一晩寝ても消えてくれなかった。
怪人を倒したときの、あのスカッとした達成感がどこにもない。
むしろ、泥水を無理やり飲まされたみたいに喉の奥が重たくて、ジャージに着替えても、シャワーを浴びても、体にあのジメジメした黒いススの匂いがこびりついている気がする。
「……茜、お味噌汁冷めちゃうよ」
桃の声にハッとして視線を下げると、朝食の豆腐とワカメのお味噌汁から上がっていた湯気が、すっかり消えていた。
事務所の食堂。テーブルを囲む咲も、葵も、翠も、みんな箸を持ったままぼんやりとお茶碗を見つめている。
「ごめん……なんか、考えちゃって」
私がぽつりと漏らすと、咲がナスのお漬物を突っつきながら溜息をついた。
「分かるよ……。なんかさ、今まで倒してきた怪人って『悪い奴らを叩き潰せば勝ち!』だったじゃん? でも昨日の奴ら、『自分たちも輝きたい』とか『ちやほやされたい』とか叫んでて……なんか、私たちが自慢げに踊ってるのを責められてるみたいでさ……」
「数値の上でも、昨日の戦闘は非効率的でした」
葵がメガネのフチを指でつまみながら、淡々と言葉を継ぐ。
「私たちの放つ『光』が強まれば強まるほど、その影で虐げられていると感じる者たちの『怨念』が加速度的に増幅される。……物理的な破壊力ではなく、私たちの精神を直接削ってくる厄介な毒です」
「チッ……要するに、ただの逆うらみだろ」
翠がお行儀悪く足を組み、ハシを噛んだ。
「私たちが血吐くような思いで修行して掴み取った煌めきだ。日陰で指くわえて妬んでるだけの奴らに、申し訳なさなんて感じる必要ねぇよ」
翠はそう言い切ったけれど、その横顔にはいつもの切れ味がない。
みんな、分かってるのだ。
自分たちがキラキラと路上やステージで歌うたびに、その光が届かない地下深くで、誰かが嫉妬に身をよじらせているという事実に、胸のどこかがチクチクと痛んでいることを。
その時だった。
『――緊急事態です。全員、ただちに地上へ向かいなさい』
食堂のスピーカーから、月城玲奈さんの氷のように冷たい声が響いた。
いつもの冷静なトーンだけど、どこか緊張の糸がピんと張り詰めている。
「玲奈さん!? またチカノコですか!?」私が立ち上がる。
『チカノコどころではありません。……煌星市の中央広場に、異様な集団が現れました。市民の「応援エネルギー(歓声)」が、一方的に奪い取られています。……急ぎなさい』
嫌な予感が、背筋をダダダッと駆け抜けた。
私たちは味噌汁のお椀を置き、チェンジャーを握りしめて部屋を飛び出した。
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【Aパート】
煌星市・歩行者天国の中央広場。
普段なら週末のショッピングを楽しむ家族連れやカップルで賑わうはずの広場が、異様な異臭と、不気味な重低音に包まれていた。
「な……なに、あれ……!?」
現場に駆けつけた咲が、引きつった声を上げた。
広場の中央、噴水広場の特設ステージを占拠していたのは、5人の怪しい影だった。
身に纏っているのは、ホームセンターで買ってきたようなペラペラの安っぽいビニール地のスーツ。
頭には、プラスチックの仮面を色スプレーで雑に塗りつぶしたような不気味なお面。
赤、青、黄、ピンク、緑……いや、どれも泥を混ぜたように黒ずんだ、酷く濁った色だ。
両手には、黒く発光する極太のケミカルライトを何本も握りしめている。
『我らぁぁぁ! 地下の底から泥を舐め! 日の光を奪いに参上したぁぁぁっ!』
真ん中の黒ずんだ赤スーツの男が、マイク代わりに持った黒いメガホンでデスボイスを撒き散らす。
『地下ドル戦隊……カガヤキタインジャーーーッ!!!!』
『カガヤキタイ! カガヤキタイ! オレたちも路上でチヤホヤされたいーっ!』
名乗りとともに、背後でドカンと上がったのは、黒い煤煙の爆発。
そのあまりのダサさと、そこから漂う圧倒的なドロドロした怨念に、広場にいた市民たちは「ヒッ……」と声を漏らして後退していた。
「か……カガヤキタインジャー……!?」
桃が両手で口を覆い、目を見開く。「パチモン……戦隊……!?」
「ふざけるな……!」
翠が額に青筋を立てて、木刀を握りしめた。
「なんだあの安っぽい衣装は! なんだあのジメジメした名乗りは! 私たちの『戦隊』の誇りをバカにしてんのか!!」
「落ち着いてください翠」
葵がノートパソコンを開き、高速でキーを叩く。だが、画面を見た葵の顔から、一瞬で色味が失われた。
「な……なんですか、この数値は……!?」
「葵ちゃん? どうしたのさ?」咲が覗き込む。
「カガヤキタインジャーの周囲に、強力な『精神干渉フィールド』が展開されています! 彼らは広場にいる人々の『歓声』や『推しを応援する感情』を、黒いケミカルライトで強制的に吸い上げ、自分たちのパワーに変換しています!」
見れば、広場にいた人々が、虚ろな目をして黒いケミカルライトを振らされ始めていた。
「カガヤキタインジャー……すごい……」「オレたちのヒーロー……」と、夢遊病者のようにブツブツと呟いている。
『ヒハハハハ! 見ろ! 地上のバカどもがオレたちを応援しているぞ!』
レッド……じゃなくて『カガヤキタイ・レッド』が、濁ったメガホンで高笑いした。
『さあ来い、本物の煌坂パステリズム! お前たちの眩しい光を全部奪って、オレたちが真のヒーローになってやる!』
胸の奥で、カッと熱い火が撒き散らされた。
ふざけるのもいい加減にしろ。
私たちがどれだけの涙を流して、どれだけの泥を食って、仲間と手をつないでここまで来たと思ってるんだ。
そんな安っぽい嫉妬で、私たちの仲間の誇りを踏みにじらせてまるか!
「みんな……行くよ!」
私は左腕のチェンジャーを前に突き出した。
「私たちの煌めきで……あの偽物たちを叩き潰す!!」
「「「「「新・煌変!!!」」」」」
カチリッ!
五色のまばゆい光が広場に弾けた!
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【Bパート】
「炎の情熱! キラリンレッド!」
「水の知性! キラリンブルー!」
「雷の躍動! キラリンイエロー!」
「花の愛しさ! キラリンpink!」
「風の疾風! キラリングリーン!」
「「「「「輝け、夢の光! 煌戦隊★キラリンジャー!!!」」」」」
爆風とともに完璧な名乗りを決める!
いつもなら、この瞬間に観客から割れんばかりの歓声が上がり、私たちのチェンジャーの同調率が跳ね上がるはずだった。
だが――。
シーーーーーーン……。
広場は静まり返っていた。
観客たちは虚ろな目で黒いケミカルライトを振り、カガヤキタインジャーの背後で死んだ魚のような目をしている。
「な……歓声が……来ない……!?」
イエロー(咲)が戸惑ったように周りを見回した。
「エネルギー循環……遮断されています!」
ブルー(葵)が叫ぶ。「観客からの応援エネルギーが届きません! スーツの出力が、普段の70%まで低下しています!」
『ケケケッ! 無駄だ無駄だぁぁぁっ!』
カガヤキタイ・レッドが黒いケミカルライトを振り回す。
『地上のアイドルども! オレたちの真のオタ芸を見よ!……行けぇ! 影のヲタクロス陣形!!』
カガヤキタインジャーの5人が、異様な速さでスクラムを組んだ!
両手の黒いケミカルライトを狂ったように振り回し、地響きのようなデスボイスで叫びながら、ドスドスと地面を踏み鳴らして突進してくる!
「何あの気味の悪い動きーーーっ!?」
イエローが叫び、空中へ跳躍して回避しようとする。
だが――!
『逃がさん! オタ芸奥義・【暗黒高速マイルストーン】!!』
カガヤキタイ・イエローとグリーンの2人が、信じられない粘着力でイエローの着地点へ先回りし、黒いケミカルライトの超高速打突を叩き込んできた!
バキバキバキッ!!
「きゃあぁぁぁぁっ!?」
イエローが派手にコンクリートへ叩きつけられる!
「咲!」
グリーン(翠)が風の刃『キラリンスラッシャー』を構えて切り込む!
「偽物が調子に乗ってんじゃねぇぞッ!」
鋭い風の一閃! 確実にカガヤキタイ・グリーンの首元を捉えたはずだった。
ガキンッ!!
「な……に……!?」
グリーンの刃が、敵の安っぽいビニール地の胸当てに弾かれたのだ。
よく見ると、カガヤキタインジャーの表面には、観客から吸い上げたドロドロした応援エネルギーが、黒い粘着質なバリアとなって纏わりついていた。
『ヒハハハ! 効かないぜ! オレたちは地下の怨念と、地上の歓声を吸い上げた無敵のアイドル戦隊なのだからな!』
『お返しだ! キラリンジャーの真似事……【裏・五色連鎖】!!』
「な……っ!?」
カガヤキタインジャーの5人が、不気味な手つきで私たちの連撃フォーメーションを真似し始めたのだ!
しかも、ただの真似じゃない。私たちの動きの癖、隙、連携の繋ぎ目を完璧に計算し尽くした、悪意に満ちたコピー攻撃!
「くっ……フォーメーションが……破られる……!?」
ブルー(葵)が水のバリアを張ろうとするが、カガヤキタイ・ブルーの放った黒い毒水の矢にバリアごと撃ち抜かれる!
「嫌ぁぁぁっ! 近寄らないでぇっ!」
ピンク(桃)のシールドが、カガヤキタイ・ピンクの泥臭いタックルで木っ端微塵に粉砕された!
「ハハハ! どうだ! 綺麗なだけの衣装を着て、ちやほやされてきたお前たちに、泥水をすすり続けてきたオレたちのしぶとさが分かってたまるかぁぁっ!」
カガヤキタイ・レッドの黒いメガホンから、超音波のような暗黒デスボイスが放たれる!
ドガアァァァンッ!!
「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」
レッド(茜)は胸元を強打され、地面を何十メートルもゴロゴロと転がされた。
強い。
いや、技の精度や美しさは私たちの方が遥かに上だ。
だけど……相手は観客の歓声を盾にし、私たちの連携の『隙』を汚い手段で徹底的に突いてくる。
爽やかさも、華やかさも、一切通用しない。
ドロドロとした泥沼の中に、私たちの脚が、じわじわと引きずり込まれていく!
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【Cパート】
「ハぁ……ハぁ……っ」
膝をつき、必死に『キラリンセイバー』を地面に突き立てて身体を支える。
周りを見渡すと、凄惨な光景だった。
イエロー(咲)の黄色のスーツは、黒い煤で汚れ、肩の装飾が引きちぎられている。
ピンク(桃)は恐怖で身体を震わせ、地面に伏したまま動けない。
ブルー(葵)はバイザーが割れ、血の滲む唇を噛みしめている。
グリーン(翠)は木刀……じゃなくて風の刃を折られ、屈辱に顔を歪めていた。
「どうした……キラリンジャー?」
カガヤキタイ・レッドが、ゆっくりと私たちを見下ろしながら歩み寄ってくる。
その背後では、虚ろな目をした観客たちが、カガヤキタインジャーに向かってパチパチと死んだような拍手を送っていた。
『見ろ。地上のファンもお前たちを見捨てたぞ』
『オレたちが本物だ。お前たちはもう、いらないんだよ』
「違う……」
私は掠れた声を絞り出した。
泥のついた手で、地面を強く叩く。
「私たちは……ファンのみんなと……絆を作ってきたんだ……! こんな汚いやり方で奪われた歓声なんて……本当の応援じゃない……!」
『うるさいなぁ』
カガヤキタイ・レッドが、黒いケミカルライトを極大発光させた。
『敗者は大人しく、地下の泥の中に消えるんだよ!』
カガヤキタインジャーの5人が、手を重ね合わせた。
そこに集束するのは、観客から吸い上げた歓声と、地下のドロドロとした嫉妬が混ざり合った、邪悪極まりない漆黒のエネルギー球!
『必殺・怨念爆炎……【カガヤキタイ・ブレイカーーーッ】!!!!』
ドズオォォォォンッ!!!!!
閃光すら黒かった。
巨大な闇の濁流が、私たち5人を正面から呑み込んだ。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
身体が引き裂かれるような衝撃。
防護フィールドが木っ端微塵に砕け散る音。
チェンジャーから、キーが焼き切れるような高熱と激しい火花が吹き飛んだ。
ドガアァァァンッ!!
爆発が収まったあと。
広場のコンクリートに横たわっていたのは――変身を完全に剥ぎ取られ、ズタズタのジャージ姿に戻った、私たち5人の生身の体だった。
「あ……くっ……」
指一つ、動かない。
視界が赤く染まっていく。
私の左腕で、チェンジャーがパチンと音を立てて冷たく沈黙した。
コアに嵌まった【炎】のエンブレムが、黒い煤に覆われ、二度と光を宿さないかのように消灯している。
「あ……ね……」
すぐ横で、咲が泥に顔を押し付けたまま、掠れた声を漏らした。
「チェンジャーが……光らないよ……茜……っ」
葵も、桃も、翠も。
全員のチェンジャーが、真っ黒に焼け焦げていた。
『ヒハハハハハ! 勝った! 勝ったぞーっ!』
カガヤキタインジャーの歓喜の叫びが響く。
『今日からオレたちが、この街のヒーローだ! カガヤキタインジャーだーっ!』
観客たちの虚ろな歓声が、パチパチと響く。
私たちが命がけで守ってきた街。
私たちがみんなと築いてきた笑顔と絆。
そのすべてが、目の前で、あの泥ドロの偽物たちに奪われていく。
「嫌だ……っ……こんなの……嫌だ……っ!」
私は泥を舐めながら、涙をボロボロとこぼした。
悔しい。情けない。
手に入れたはずの強さも、本当の戦隊になったという自信も、全部全部、虚飾だったと思い知らされるような、完全な敗北。
煌戦隊キラリンジャー……惨敗。
私たちの『煌めき』は、地下の暗闇へと叩き落されたのだった。
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【エピローグ】
ポツリ、と冷たいものが頬に当たった。
空を見上げると、いつの間にかどんよりとした暗雲が街を覆い、冷たい雨が降り始めていた。
雨は、泥にまみれて倒れる私たち5人の身体を無情に叩き、洗い流すことのできない屈辱を刻み込んでいく。
「う……うぅ……っ……」
桃が冷たいアスファルトの上で、幼子のように声を上げて泣いていた。
咲も、葵も、翠も……誰一人、立ち上がることができない。
変身の力を失い、歓声を奪われ、自信を打ち砕かれた私たちは、ただ雨の中で震えることしかできなかった。
◇
一方、事務所の最上階・コマンドルーム。
モニターに映し出される、雨の中で動けなくなった5人の無残な姿。
「……愚かな」
月城玲奈は、静かにバインダーを閉じた。
その銀色の瞳には、怒りでも失望でもなく、氷のように冷徹な決意が宿っていた。
「玲奈……出撃させてくれ!」
火ノ宮紅葉が拳を握りしめ、前に出た。「あいつら、このままじゃ本当に潰される! アタシたちがカガヤキタインジャーを叩き潰す!」
「ダメです、紅葉」
玲奈の声には、一切の揺らぎがなかった。
「今のあの子たちは、自らの慢心と『光の重み』に押し潰された。……他人の応援に頼り、相手の泥臭さを蔑んだ結果がこれです。……今のあの子たちに、再びキラリンジャーを名乗る資格はありません」
玲奈は冷たく言い放った。
「これより……『煌戦隊キラリンジャー』の変身機能を、全ライン凍結します」
「玲奈さん!?」美玲が目を見開く。
「彼女たちからチェンジャーを回収しなさい。……自分たちの力で『光と影』の本当の意味を見つけ出さない限り、二度と変身は許可しません」
玲奈は窓の外の冷たい雨を見つめた。
そして――彼女たちの知らぬところで。
煌星市の地下最深部。棄てられた地下水路の闇の奥。
敗れ去ったキラリンジャーから奪い取った大量の『応援エネルギー』を吸い込み、カガヤキタインジャーたちの背後で、巨大な黒い卵がドクン……ドクン……と不吉な脈動を始めていた。
『ウフフ……素晴らしいわ……地上の光が潰れた……』
卵の中から漏れ聞こえたのは、艶やかで、けれど凍りつくほど残酷な女性の声。
『集まりなさい、日陰の落とし子たち……。私こそが、あなたたちの真の女王……【クイン=チカノコ】……』
ドクンッ!!
黒い卵にヒビが入り、この世の全ての嫉妬と怨念を統べる、最凶の女王が産声を上げようとしていた。
奪われた光。凍結された変身。そして迫りくる真の女王。
絶望のどん底に叩き落とされたパステリズムに、明日は訪れるのだろうか――。
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【次回予告】
茜「カガヤキタインジャーに完敗し、チェンジャーまで玲奈さんに没収されちゃった私たち……」
咲「変身もできない……アイドルとしても歌えない……私たち、もう終わりなの……?」
葵「そして……地下の最深部で生まれた『クイン=チカノコ』が、街を侵食し始めました」
桃「嫌……もう誰も傷つけたくない……でも、私……動けないよぉ……」
翠「泥の中から立ち上がるって言ったのは……嘘だったのかよ……!?」
茜「光と影。私たちが背負うべき本当の『輝き』とは……!? 立ち上がれ、パステリズム!」
次回、煌戦隊★キラリンジャー 修行譚 第21話:
『変身封印!? 誕生・女王クイン=チカノコと絶望の選択!』
燃え上がれ、命の火★!




