第18話:一日警察署長!? 狙われた事件と乙女のプライド!
【アバン】
「敬礼ッ! 本日、煌星署一日警察署長を拝命いたしました、煌坂★パステリズムです!」
ポニーテールを揺らし、警察官の制服に身を包んだ咲が、事務所の姿見の前でピシッと敬礼してみせた。胸元には金色の警察章、頭にはつばの立った制服帽。
「……咲、帽子の角度が少し傾いています。あと、敬礼の指先は眉の横にまっすぐ伸ばすのが正解です」
同じくネイビーの警察官制服を着た葵が、メガネの位置を直しつつ冷静に突っ込む。でも、葵自身も制服の襟元を気にして、姿見をちらちら確認していた。
「いいじゃないですかぁ! 咲ちゃん、すごく似合ってますよ!」
桃は少し大きめの制服の袖口を両手でギュッと握りしめ、パタパタさせながら微笑んでいる。
「へっ……着慣れねぇ服だけど、案外悪くねぇな。なんか背筋が伸びるっていうかさ」
翠は上着のボタンを一番上まで留め、腰に下げたダミーの警棒をコンコンと叩いた。
新曲発表ライブの大成功から数日。
まだライブの熱気が冷めやらない私たちのもとに舞い込んできたのは、まさかの『煌星警察署・一日警察署長』のオファーだった。
私――煌坂茜は、自分の制服の左袖をそっと撫でた。
生地の下には、あの【炎】の属性キーをセットしたキラリンチェンジャーが巻かれている。
「歌って踊るAIアイドルが、今度は一日警察署長かぁ……」
ポツリと漏らした私の言葉に、ドアの陰から冷たいヒール音が近づいてきた。
「浮かれてはいけませんよ、パステリズム」
白いパンツスーツ姿の月城玲奈さんが、黒いバインダーを抱えて入ってくる。後ろには、愛咲美玲さんたちステラプリズムの先輩方も一緒だ。
「今回のイベントは、市民への防犯意識向上と交通安全キャンペーンが目的です。ですが、制服を着るということは、たとえ一日であっても市民の命と安全を背負うということ。……その覚悟はできていますね?」
玲奈さんの銀色の瞳が、私たち5人を射抜くように見つめる。
「はいっ! 警察官の制服も、私たちの衣装と同じ……誰かを笑顔にして、安心させるための大切な服です!」
私が胸を張って答えると、玲奈さんはほんの少しだけ口元を緩めた。
「よろしい。……行きなさい。煌星市の平和と、あなたたちのプライドを見せていらっしゃい」
こうして私たちは、期待とちょっぴりの緊張を胸に、煌星駅前の特設会場へと向かったのだった。
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【Aパート】
「みなさ〜ん! 振り込め詐欺や歩きスマホには、くれぐれも気を付けてくださいね〜っ!」
煌星駅前の大広場。
秋晴れの空の下、特設ステージの上で咲がマイクを握り締め、飛び切りの笑顔でファンや集まった市民に呼びかけていた。
「「「「「はーいっ!!署長ーーっ!!」」」」」
客席から大きな歓声と拍手が巻き起こる。
「防犯標語の『いか・の・お・す・し』、覚えていますか?」
桃が可憐な身振り手振りで説明すると、子供たちが「ついて『いか』ない!」「車に『の』らない!」と元気いっぱいに声を揃えた。
警察官の制服を着た私たちが歌い、踊り、防犯トークを繰り広げる。広場には警察関係者や報道陣、そしてたくさんの市民の笑顔が溢れていた。
「順調ですね。会場内の危険要素なし。市民の防犯意識も向上しています」
ステージ袖でインカムを付けた葵が、手元の端末で周辺データをチェックしながら呟く。
「へっ、警察の仕事も案外いけるじゃねぇか」翠が腕を組んで不敵に笑う。
私も胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
ヒーローとして怪人を倒すのも大事だけど、こうやって歌と笑顔で事件を未然に防ぐのも、立派な『街を守る』仕事だ。
だが――平和な時間は、唐突に打ち破られた。
ドガアァァァンッ!!!!!
爆音。
駅前広場からわずか数十メートル離れた『煌星中央銀行・ベイエリア支店』の強化ガラスが、凄まじい衝撃とともに吹き飛んだのだ。
「キャーッ!?」
「な、なんだ!?」
広場が一瞬でパニックに包まれる。
黒煙が立ち上る銀行の入り口から、自動小銃と爆薬を構えた重武装の強盗団……『ブラック・ファング』の男たちが、人質を取って飛び出してきた!
「動くなぁぁぁっ! 警察ども! 一歩でも動いたらこの女の頭を吹き飛ばすぞっ!」
強盗のボスが、若い女性行員の髪を掴んで銃口を突きつけている。周囲を警備していた本物の警察官たちが、拳銃を構えたまま身動きを取れなくなった。
「人質……!?」
私の血が、一気に冷え切っていく。
「葵、歪み波形は!?」
「検知できません……! 相手は異界の怪人ではなく、本物の人間……重武装した強盗団です!」
葵の声が緊張で跳ね上がる。
「本物の事件……!?」咲が息をのむ。
「くそっ……人質を取られてちゃ、本官たちも手が出せねぇ……!」
側にいた警察署長が、唇を噛みしめて悔しさに顔を歪めていた。
市民の悲鳴。怯える子供たち。人質の女性の涙。
そして、その前に立っているのは――警察官の制服を着た、私たち5人。
(どうする……!? 変身してキラリンジャーになれば、あんな強盗団一瞬で倒せる……!)
私の頭の中で、警告音が鳴り響いた。
だめだ。ここで変身すれば、集まった大勢のファン、警察官、報道陣の前で「パステリズム=キラリンジャー」であることが完璧に白日の下に晒される。
身バレすれば、アイドル活動は終了。二重生活も破綻する。
かといって、変身せずに黙って見ていれば……目の前で人質が傷つけられる!
「変身は……ダメです……!」葵が震える声で私に耳打ちする。「身バレのリスクが高すぎます。ですが……放置すれば人が死にます……!」
どうすればいい。
変身して正体を明かすか。
それとも、指をくわえて見ているのか。
「……迷う必要なんて、ねぇだろ」
低い声が響いた。
翠が、警察官の帽子を深くかぶり直し、腰のダミー警棒を固く握りしめていた。
「私たちは今日、一日警察署長だ。この制服を着てる以上……目の前で泣いてる奴を見捨てる選択肢なんか、最初からねぇんだよ!」
翠の言葉に、咲がハッと顔を上げ、桃が涙を拭い、葵がメガネを正した。
「そうだよ……!」
私は自分の胸の警察章を強く握りしめた。
「変身なんかできなくたって関係ない! 警察官の制服だって、みんなの安全を守る本物の『制服』だ!!」
私たちは目配せを交わすと、変身チェンジャーを起動させることなく、生身のまま強盗団へ向かって駆け出した!
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【Bパート】
「おい、なんだアイツら!? 女のサツ……いや、アイドルのガキ共か!?」
強盗団のボスが、警察官の制服を着て突っ込んでくる私たちを見て鼻で笑った。
「死にたいらしいな! 撃てぇっ!」
ダダダダダダッ!!
自動小銃の掃射! 銃弾がアスファルトを跳ね、火花が散る!
「咲、桃! フォーメーション・サイドステップ!」
「ラジャーッ! 警察官のキレ、見せてあげる〜っ!」
咲と桃が、日常のダンスレッスンで叩き込んだ爆発的な瞬発力で、ジグザグに地を蹴った!
銃弾の軌道を完全に見切り、壁や街灯を蹴り台にして、弾丸の雨を紙一重でかわしていく!
「なっ……速ぇ!? 動きが読めねぇ!?」
「警察署長を舐めないでください!」
葵が警備用のパイロン(カラーコーン)をサッカーボールのように蹴り飛ばし、強盗の一人の顔面にジャストミートさせる!
「グハッ!?」
「道をあけな!!」
翠が風のように敵の懐へ潜り込んだ!
生身の格闘術――木刀修行で培った圧倒的な間合いの見切り!
ダミーの警棒が一閃し、強盗の手首を正確に叩いて自動小銃を弾き飛ばす!
「ギャッ! 手が……!?」
「手錠を回すヒマもねぇ! 眠ってろ!」
翠の鋭い膝蹴りが敵の溝おちに突き刺さり、巨体が崩れ落ちた!
生身での激闘。
スーツの防護フィールドも、属性エネルギーのバフもない。一発でも弾が当たれば死ぬ。
だけど、私たちの動きには一切の迷いがなかった。
毎日毎日の過酷な特訓。泥を啜って掴み取った体幹とステップ。
そして何より、「市民を守る」という警察官の制服を背負ったプライド!
「茜ちゃん! 今です!」
桃が落ちていたシールド代わりのパイロンで銃弾を防ぎながら、私に道を拓く!
「ハァァァァッ!!」
私は一直線にボスへ向かって踏み込んだ。
「くそっ、調子に乗るな小娘ぇぇっ!」
ボスが人質の女性を突き飛ばし、私へ向かって至近距離で手銃を引き金を引こうとする!
「させないっ!!」
私は身を躍らせ、ボスの手首を掴んで銃口を上空へ逸らした!
ババンッ! 空へ放たれる銃弾。
そのまま首根っこを掴み、警察学校直伝……ならぬ、合宿で仕込まれた体さばきでボスの巨体を背負い投げ!
ドガァァァンッ!!
アスファルトに叩きつけられるボス。
「ガハッ……! な、なんだ……このガキども……化け物か……!?」
「化け物じゃないよ」
私は帽子を正し、ボスの目の前でまっすぐに言い放った。
「煌星署一日警察署長……煌坂★パステリズムだ!」
パシャパシャパシャッ! と集まった報道陣のカメラが一斉にフラッシュを焚く。
集まった市民から「うわぁぁっ!? アイドルが素手で強盗団を倒した!?」「かっこいいーっ! 本物の警察官より強いぞ!」と地鳴りのような大歓声が上がった。
だが――事件は、ここでは終わらなかった。
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【Cパート】
倒れたボスの胸元。
そこから、どす黒い紫色の毒気が、ジュウウゥゥ……と不気味な音を立てて噴き出してきたのだ。
「キシャアァァァァッ!!」
ボスの体内から実体化したのは、強盗団の『悪意と恐怖』を吸い込んで巨大化した、残党怪人『カゲノコ・グラットン』!
「な……なにあのバケモノ!?」
「ひぃぃっ! 逃げろーっ!」
せっかく鎮まりかけた広場が、再びパニックに包まれる。
カゲノコ・グラットンが巨大な爪を振り上げ、私たちへ向かって振り下ろしてきた!
「くっ……生身じゃ、流石にあの質量は受け止めきれない……!」
翠が警棒を構えるが、顔には汗が滲んでいる。
変身するしかない。
ここで変身しなければ、周囲の市民も、私たちも潰される。
たとえ正体がバレて、アイドル生命がここで絶たれたとしても――!
私が左腕のチェンジャーに手をかけた、その瞬間だった。
『――そこまでです』
静かな、だけど耳の奥に透き通る声が響いた。
シューーッ!!
広場全体を、幻想的な純白の煙幕が瞬時に包み込んだ。
観客からも、報道陣のカメラからも、私たちの姿が完全に遮断される。
「え……!? この光……!」
煙幕の向こうから歩み出てきたのは――白いセーラー服の魔法装束に身を包んだ、月城玲奈……セーラールナリアと、ステラセイヴァーズの先輩たちだった!
「ルナリアさん……! 先輩たち!?」
ルナリアは銀色の剣を手に、静かに私たちを見つめていた。
「見事な覚醒でした、パステリズム。あなたたちは警察官の制服を着て、見事に市民の命と、自分たちのプライドを守り抜きました」
「ですが……ここからはヒーローの領域です」
セーラーウェヌリオン(美玲)が優しく微笑む。
「周囲の視線とカメラは、私たちが張った『星の結界』で完全に遮断しました。正体がバレる心配はありません」
セーラーシヴァイアサン(あき)がタブレットを操作しながら告げる。
「思う存分、暴れてきな!」
セーラーフレイム(紅葉)とセーラーエクレール(ひかり)が不敵に笑う。
「自分たちの正体とプライドは、私たちが守ります。……変身しなさい、キラリンジャー!」
ルナリアの言葉に、私たちの胸の奥が熱く燃え上がった。
「はいっ!!」
五人は警察官の制服の上から、チェンジャーを高く掲げた!
「「「「「新・煌変!!!」」」」」
カチリッ!
眩い五色の光が弾け飛ぶ!
ポリス制服が光の粒子となって弾け、鮮やかなキラリンジャーのバトルスーツが装着される!
「炎の情熱! キラリンレッド!」
「水の知性! キラリンブルー!」
「雷の躍動! キラリンイエロー!」
「花の愛しさ! キラリンピンク!」
「風の疾風! キラリングリーン!」
「「「「「輝け、夢の光! 煌戦隊★キラリンジャー!!!」」」」」
「キシャアァァッ! 変身したところで同じだぁっ!」
カゲノコ・グラットンが襲いかかってくる!
「同じじゃないよ!」
レッド(茜)が先陣を切った!
『キラリンセイバー』が一閃! 炎の刃が敵の巨大な爪を真っ二つに斬り払う!
「警察官の誇りと、ヒーローの絆……舐めないで!」
ピンク(桃)のシールドが敵の巨体を吹き飛ばし、イエロー(咲)とグリーン(翠)が空中からの同時連撃を叩き込む!
「フィニッシュです、茜!」
ブルー(葵)が水の帯で敵を完全に拘束!
「みんなの平和を……乱させないっ!!」
レッドの剣に五色のエネルギーが集結する!
「必殺・煌炎……キラリン・グランド・スラッシュ!!!」
虹色の巨大な光の刃が、カゲノコ・グラットンを縦一文字に引き裂いた!
ドガアァァァンッ!!!!!
盛大な爆発音とともに怪人は消滅。
結界が解除されると、そこには強盗団を全員手縄で縛り上げ、爽やかに立ち並ぶ『一日警察署長』の私たちの姿だけが残されていた。
「うおぉぉぉっ! 怪人を撃退して、強盗団も捕まえたぞーっ!」「パステリズム最高ーっ! 最高の警察署長だーっ!」
割れんばかりの歓声と拍手が、駅前広場全体を揺らしていた。
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【エピローグ】
夕暮れ時。煌星警察署の署長室。
「いやはや……感謝の言葉もありません! 強盗団の検挙と怪人の撃退、そして市民の安全確保……見事というほかありません!」
本物の警察署長さんから、立派な額縁に入った『感謝状』が、私たち一人ひとりに手渡された。
「ありがとうございます! 街の平和を守れて、私たちも誇らしいです!」
私が受け取ると、咲や桃も嬉しそうに感謝状を掲げた。
警察署を出ると、秋の涼しい風が吹き抜けていった。
「ふぅ〜! 一時はどうなるかと思ったけど、身バレも防げて、事件も解決できて、最高の1日だったね!」
咲が警察官の帽子をクルクルと指で回しながら笑う。
「葵ちゃんの臨機応変なサポートと、翠ちゃんの思い切りの良さのおかげだね」
桃がふんわりと微笑む。
「ふん……まあ、あの制服を着た以上、当たり前のことをしただけだ」
翠も照れくさそうに首の後ろを掻いた。
「ですが……気になるデータがあります」
葵がタブレットの画面を見つめながら、少し表情を曇らせた。
「事件解決の陰で……街の地下街や、日当たりの悪い路地裏で、微小な暗黒波形の群れが発生しています」
「え……? 暗黒波形?」私が聞き返す。
「ええ。今回のように華やかなステージや表舞台で光が強まれば強まるほど……その光を浴びられず、陰に追いやられたカゲノコたちが、強い怨念を溜め込んでいるようです。彼らは自らを『チカノコ』と称し、蠢き始めています」
「チカノコ……?」咲が首をかしげる。
遠く、夕闇が迫る街の路地裏。
光の届かない地下道の暗がりで、赤く濁った無数の目が、ギラギラと不気味に蠢いていた。
『チヤホヤサレタイ……オレタチモ……ヒノタラナイバショカラ……ヒカリヲウバイ・トッテヤル……!』
黒いケミカルライトを握りしめた影の群れが、不気味なデスボイスを漏らしながら、街の路上ライブ会場へと忍び寄っていく。
私たちは、まだ知らなかった。
表舞台での大成功の裏で、光に恵まれない陰の怨念が、新たな脅威となって街を呑み込もうとしていることを――。
「さあ、事務所に戻りましょう。玲奈さんが待っています」
葵の声に、私たちは頷いた。
一日警察署長の制服を着た5人の影が、夕焼けの街並みに長く伸びていく。
どんな陰が迫ってこようと、私たちの胸にある火は、絶対に消えはしない。
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【次回予告】
茜「一日警察署長のお仕事も無事に終えて、ホッとしたのも束の間……街の路上ライブ会場が謎の集団に襲われた!?」
咲「何あれ〜!? 黒いペンライト振って、デスボイスで叫んでるんだけど〜っ!?」
葵「彼らの名は『チカノコ』……日の当たらない地下から現れた、怨念の影です!」
桃「ちやほやされたいからって……人のライブを邪魔しちゃダメだよぉ!」
翠「地下だろうが地上だろうが関係ねぇ! 私たちの歌と力で、打ち払ってやるよ!」
茜「陰の怨念を吹き飛ばせ! 輝け、キラリンジャー!」
次回、煌戦隊★キラリンジャー 修行譚 第19話:
『地下からの怨念!? 暴走するチカノコと路上ライブ!』
燃え上がれ、勇気の煌き★!




