第15話:身バレの危機!? アイドルとヒーローの二重生活!
【アバン】
先輩たちとのあの大激闘の模擬戦を乗り越えて、私たちはついに『本物の戦隊』として月城玲奈さんやステラセイヴァーズの皆に認められた。
「よーし! これからはアイドルとしてもヒーローとしてもトップを目指すぞーっ!」
レッスンスタジオの鏡の前で、咲が金髪のポニーテールをブンブン揺らしながら豪快に勝どきを上げていた。
「咲、声が大きい。それにまだストレッチの途中です」
葵が静かにメガネをかけ直しながら呆れ顔を向けるけれど、その表情もどこか誇らしげだ。
だけど、浮かれていられたのは本当に一瞬だけだった。
「浮かれているところ水を差すようで申し訳ありませんが……深刻な問題が発生しています」
葵が表情をガラリと変え、ノートパソコンの画面を私たちに突き出してきた。
画面に躍っていたのは、ネットニュースのトレンドワードとSNSのバズ動画。
『【都市伝説】煌星市に現れる謎の5色ヒーロー「キラリンジャー」の正体とは!?』
『異界の怪人を一瞬で粉砕! あのキレッキレのアクション、現役アイドル説!?』
『比較検証:キラリンレッドと煌坂茜の立ち姿が完全に一致wwww』
「「「「「ええぇぇぇぇぇぇっ!?????」」」」」
スタジオに、私たちの絶叫がこだました。
「ちょっと待って葵ちゃん! なになにこれ!? なんで私の名前が出てるのさーっ!?」
咲が画面に顔を擦り付けんばかりの勢いで叫ぶ。
「前回の街での大戦、そして怪人たちとの戦闘映像が、市民のスマホや街頭カメラから大量にネット上へ流出しています」
葵の指先が高速でキーボードを叩く。
「現時点では『都市伝説』や『合成動画』として処理されていますが、画像の解析精度が上がり、私たちの骨格やダンスの癖、身体的特徴との一致率が89.4%に達しています。完全に『身バレ』の危機です」
「身バレって……正体がバレたらどうなっちゃうの……?」
桃が胸元で手をぎゅっと握りしめ、泣きそうな目で葵を見つめる。
「アイドルとしての活動は即座に停止。メディアは蜂の巣をつついたような騒ぎになり、事務所や私たちのプライベートは完全に崩壊します。最悪の場合、敵に日常の弱点を狙われることになります」
「ひぃぃぃ……嫌だよぉ! 正体がバレてアイドルクビなんて嫌だよぉぉ!」
桃が私の腕にしがみついてプルプルと震えだした。
「ヒーローの正体は秘密ってのが相場だろ。……隠し通してやるよ」
翠が壁に背を預けたまま、不敵に口元を上げた。
「バレなきゃいいんだ、バレなきゃ。怪人を倒すのも、ステージで歌うのも、全部完璧にこなして知らん顔決め込めばいい」
「翠の言う通りだよ!」
私は自分の胸に手を当てた。
「私たちは歌って踊って、影で悪を討つ! アイドルもヒーローも、どっちも諦めない!」
だけど、試練は容赦なく、しかも意外な角度から襲いかかってきた。
「皆さん、本日のTV生中継インタビューの準備はできていますか?」
楽屋のドアが開き、本日の番組担当アナウンサーが挨拶に入ってきた。
そこに立っていたのは――スマートなスーツを着こなし、鋭い知性あふれる瞳を光らせた女性。
元トップアイドルにして、現在はテレビ局の看板芸能アナウンサー、陣内まゆ。
まゆアナは私たちを上から下へとじっくり見分けるように視線を走らせ、口元に意味深な笑みを浮かべた。
「はじめまして、煌坂★パステリズムの皆さん。……噂の『街を護る輝き』について、今日はじっくりお話を伺わせていただきますね?」
その瞳は、完全に何かを確信している『追及者』の目だった。
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【Aパート】
テレビ局の控室。
エアコンが効いているはずなのに、部屋の中の空気は湿った熱気を帯びていた。
「……ねえ、あの人、絶対に何か感づいてるよね!?」
咲がドアの隙間から廊下を覗き込み、血の気を引かせた顔で戻ってきた。
「陣内まゆさん……元アイドルグループ『ルミナス』の伝説のセンターだよ!? 芸能界の裏も表も知り尽くしてる鋭敏すぎるジャーナリストだよ!?」
「静かにしなさい咲」葵がノートパソコンの画面を見つめたまま呟く。「陣内アナの過去のインタビュー記事を解析しました。彼女は演者の小さな癖、歩き方、筋肉の付き方からスキャンダルを暴いてきたプロです。誤魔化しは効きません」
「うぅ……どうしよう……」桃が半泣きで自分の衣装の裾を握りしめる。「私、嘘つくとすぐ目が泳ぐのに……」
「堂々としていればいいんだよ」翠が腕を組んで鼻で笑う。「『ダンスの練習で鍛えた筋肉です』で押し通せばいい」
「そうだよ!」私は四人の顔を見回した。「私たちが怯んでたら、向こうの思うツボだよ。アイドルとしての笑顔で乗り切ろう!」
だが、本番前の楽屋インタビューが始まった瞬間、その甘い考えは一砕かれた。
カメラが回る前、ソファに腰掛けたまゆアナは、優雅に紅茶を口に含みながら、何気ない様子で問いかけてきた。
「それにしても、パステリズムの皆さんは最近、急激にアクションのキレが増しましたわね。特に茜さん」
まゆアナの鋭い視線が、私の右手に注がれる。
「手のひら……綺麗なマメができていらっしゃる。まるで、重い剣や柄を毎日握りしめているようなマメですわね」
「っ!?」
私は思わず右手を隠しそうになった。
「あ、これは……ダンスの小道具でステッキを使う練習をしていて……!」
「そう? 咲さんのその左足首のテーピングも気になるわね」
まゆアナが微笑みながら咲を見る。
「先日のネットの『キラリンジャー』の戦闘動画……キラリンイエローがビルから飛び降りた際、着地で左足首を少し庇う素振りを見せていたけれど……全く同じ位置の負傷ね?」
「ひえっ! 誇り高きダンサーの足首は繊細なんです! 階段で挫いただけですーっ!」
咲の声が裏返る。
「……陣内さん」葵が冷静を装って間に割り込む。「根拠のない都市伝説と私たちを関連付けるのは、営業妨害に当たりますが」
「ふふ、ごめんなさいね。悪気はないのよ」
まゆアナは脚を組み替え、カメラマンへ合図を送った。
「ただね……私、元アイドルだから分かるの。あなたたちの身体から漂う匂い。それは単なるショービジネスの汗の匂いじゃない。……誰かを命がけで護ってきた『戦士』の匂いよ」
まゆアナの瞳から、バラエティ用の笑顔が消えた。
「今日の屋外特設ステージでの生中継ライブ……私も特等席で見せていただくわ。あなたたちの『真実』を、私のこの目で確かめさせてもらうためにね」
逃げ場のない宣戦布告。
私たちは、アイドルとしての本番ステージを前に、完全に追い詰められていた。
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【Bパート】
煌星市・臨海プラザ。
青空の下に設置された屋外特設ステージには、数千人のファンが集まっていた。
ステージの袖には、マイクを握り締め、カメラクルーを引き連れた陣内まゆアナが陣取っている。その視線は、一瞬たりとも私たちから外れていない。
「それでは登場していただきましょう! 今大注目のAIアイドルグループ、煌坂★パステリズムの皆さんです!」
歓声が弾けた。
『輝け! 夢の光〜♪ 未来を照らす僕らの……煌めき!!』
イントロとともに、私たちはステージへ飛び出した。
咲の眩しい笑顔、桃の可憐なステップ、葵の計算し尽くされたフォーメーション、翠の力強いダンス、そして私のボーカル。
修羅場をくぐり抜けてきた私たちのパフォーマンスは、客席を瞬時に魅了した。
だが――試練は、最悪のタイミングで訪れた。
グラリ。
ステージの床が小さく揺れた。
観客はライブの低音の振動だと思っている。だけど、私たちの左腕のチェンジャーが、衣装の下で冷たく警報を打ち鳴らし始めていた。
(歪み波形検知……! 舞台裏、距離三十メートル!)
葵が踊りながら、目線だけで私たちにサインを送ってくる。
見れば、ステージの裏手にある資材置き場の陰で、空間が紫色に歪み、二体の残党怪人『カゲノコ・エリート』が忍び寄っていた。
その狙いは――ステージ袖でマイクを握るまゆアナと、生放送用のTV中継車!
(まずい……! このままだと中継車が襲われて、まゆさんたちが危ない!)
「茜! どうする!?」
すれ違いざま、翠が低く囁く。
変身すれば、間違いなくカメラとまゆアナの前で正体がバレる。アイドル生命は終了だ。
だが変身しなければ、一般人であるまゆアナたちが犠牲になる。
「変身しないで……戦う!」
私は即座に決断した。
「えっ!?」咲が目を丸くする。
「アイドル活動の振り付け(パフォーマンス)に見せかけて、あの怪人たちを叩く! 観客にも、まゆさんにも『演出』だと思わせるの!」
「無茶苦茶です! 生身の人間が怪人を相手にそんな器用なマネ――」葵が叫びかける。
「やるんだよ! アイドルもヒーローも、どっちも諦めないって決めたんだから!」
曲は二番のアップテンポなダンスパートへと突入した。
「咲、翠! フォーメーションカゲロウ! 舞台裏へダイブ!」
「ラジャーッ! 見ててね、特大のアクロバット演出だよ〜っ!」
咲と翠が、ダンスの決めポーズの勢いのまま、ステージ袖のフェンスを軽々と飛び越えた!
「なっ……何事!?」驚くまゆアナの目の前で、咲のハイキックが忍び寄るカゲノコの顔面を強打!
「ハッ、舞台裏のサプライズ演出だ! 邪魔すんじゃねぇ!」
翠が木刀……ならぬ、ステージ用のアクリル小道具を振り回し、もう一体のカゲノコを強引に殴り飛ばす!
「桃、葵! ボーカルラインを維持しながらカバー!」
「はいっ! 踊りながら……守ります!」
桃と葵がステージの端で完璧なデュエットを歌い上げながら、マイクパフォーマンスに見せかけて、怪人が投げてきた鉄パイプを華麗なステップで蹴り跳ね返す!
観客からは「うわぁぁっ! 舞台裏を使った大迫力の演出だ!」「パステリズムすごーい!」と大歓声が上がった。
だが――まゆアナの目は誤魔化せなかった。
まゆアナは、目の前で怪人を生身で殴り倒す咲と翠、そして完璧な連携で見えざる脅威を防ぐ私たちを、口を半開きのまま見つめていた。
「これ……演出じゃない……。本物の……怪人……!?」
まゆアナのスマートフォンに、ネットでバズっている『キラリンジャー』の戦闘動画が自動再生される。
動画の中の赤いヒーローの踏み込み。
今、目の前で自分を守るために怪人を蹴り飛ばした茜の踏み込み。
二つの軌道が、完璧に重ね合わさった。
「あなたたち……やっぱり……」
まゆアナの呟きが、激しい音楽の音にかき消されていった。
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【Cパート】
ライブの曲が終わり、大歓声の中で幕が閉じた。
舞台裏。汗だくで息を切らす私たち五人の前に、まゆアナが一人で歩み寄ってきた。
カメラクルーはついていない。
「……見事なステージだったわ」
まゆアナの声は、落ち着いていた。
「観客には『派手な演出』と思わせ、TV中継の画面には怪人を一瞬たりとも映さず、命がけで私とスタッフを護った。……完璧なプロの仕事ね」
私たちは誰も喋れなかった。
どんな言い訳も、もう意味をなさないことを理解していたからだ。
まゆアナは胸元からICレコーダーを取り出し、私たちの前で静かに掲げた。
「このレコーダーには、あなたたちが生身で怪人と戦っていた音声、そして私が確信した『パステリズム=キラリンジャー』の証拠がすべて録音されているわ」
「陣内さん……」
私は一歩前に出た。四人が私の後ろに並ぶ。
「お願いです。ニュースで発表するのは……待ってください」
「どうして?」まゆアナが眉をひそめる。「スクープよ? 全国が驚愕する今年最大のスキャンダルだわ。元アイドルの私にとっても、ジャーナリストとして最高の功績になる」
「私たちが……正体を隠したいのは、自分が可愛いからじゃないんです!」
私はまゆアナの目をまっすぐに見つめた。
「正体がバレたら、もう普通にステージに立てなくなります。ファンのみんなが『ヒーローの女の子たち』として私たちを見るようになっちゃう。……私たちが届けたいのは、みんなを元気にできる純粋な『夢』なんです!」
桃が涙を浮かべて言葉を繋ぐ。
「それに……正体がバレたら、私たちのファンや、周りの大切な人たちが敵に狙われちゃう……。だから、秘密にしなきゃいけないんです……!」
「アイドルは、みんなに夢を見せる仕事です」葵がメガネを押し直す。「ヒーローは、その夢がある日常を守る仕事です。私たちは……どちらも絶対に投げ出せません」
まゆアナは、じっと私たちの顔を見つめていた。
茜、葵、咲、桃、翠。
擦り傷をつくり、汗と泥に塗れながらも、まっすぐな瞳で自分を見つめ返してくる五人の少女たち。
沈黙が、長く、長く流れた。
やがて――まゆアナは小さく息を吐き、ICレコーダーのスイッチをカチリと切った。
「……ハァ。嫌になっちゃうわね」
まゆアナは手帳を開き、レコーダーからSDカードを抜き取ると、それを自分のポケットの中に仕舞い込んだ。
「え……?」咲が目を丸くする。
まゆアナはクスッと悪戯っぽく笑い、私たちの前に歩み寄ると、私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「言ったでしょ? 私、元アイドルだって」
まゆアナの瞳に、温かい光が宿っていた。
「アイドルがどれだけ血の滲むような努力をして、ファンのために『夢』を守り続けているか……私が一番よく知ってるわ。誰かを笑顔にするために、陰で泥を啜って戦っている女の子たちの夢をブチ壊すようなスクープなんて……ジャーナリストのプライドが許さないわよ」
「陣内さん……!」私の胸が熱くなる。
「その代わり!」まゆアナが人差し指を立てて、私たちを指さした。
「条件があるわ。これからも完璧に正体を隠し通すこと。アイドルとしても、ヒーローとしても、中途半端な姿を見せたら……その時は容赦なく全国にスクープしてあげるからね!」
「はいっ!!」
五人の声が重なった。
「……ふふ、いいお返事ね」
まゆアナはくるりと背を向け、マイクを握り直してカメラクルーの元へと戻っていった。
「カメラ回して! 現場からの生中継、再開するわよ! 『大迫力の演出で会場を沸かせたパステリズムの皆さん』の素晴らしいステージについて熱弁しなきゃね!」
まゆアナの背中を見送りながら、私たちは脱力するようにその場にへたり込んだ。
「助かっ……たぁぁぁぁぁっ!」
咲が胸を押さえて泣き叫ぶ。
「ヒヤヒヤしたですぅ……心臓が止まるかと思ったよぉ……」桃も腰を抜かしている。
「データ上の計算を超えた、最高の結果です」葵もホッと胸を撫でおろした。
「へッ……粋なお姉さんじゃねぇか」翠が口元を緩める。
身バレの危機を乗り越え、私たちは強力な『秘密の協力者』を手に入れたのだ。
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【エピローグ】
事務所の社長室。
窓の外の夕焼けを見つめていた月城玲奈姿が、振り返った。
「……陣内まゆアナウンサーを、見事に味方に引き入れましたね」
デスクの上には、本日の生放送の録画映像が流れている。画面の中では、まゆアナがパステリズムのライブを「今年最高のエンターテインメント演出!」と大絶賛していた。
「玲奈さん……知ってたんですか?」私が尋ねる。
「当然です」玲奈さんは手元のバインダーを閉じた。
「彼女が鋭い勘を持つジャーナリストであることも、あなたたちの身バレの危機も、すべて把握した上で中継を許可しました。……メディアからの追求を回避し、自分たちの力で秘密を守り切ること。それもまた、現代のヒーローに必要な『プロの資質』です」
玲奈さんの銀色の瞳が、柔らかく細められた。
「合格です、パステリズム。あなたたちは見事に二重生活の第一歩を踏み出しました」
「ありがとうございます!」
事務所の控室に戻った五人。
「ふぅ〜! これで心置きなくアイドルも戦隊もできるね!」
咲が缶コーラを掲げて叫ぶ。
「油断は禁物です。ネット上の『キラリンジャー都市伝説』は依然としてバズり続けていますから、日頃の言動には注意が必要です」葵が釘を刺す。
「でも……なんだかワクワクしちゃうね」桃がふんわりと笑う。「私たち、本当に二重生活のヒーローなんだね!」
「秘密のヒーロー、か。悪くねぇな」翠もニヤリと笑う。
私は左腕のチェンジャーをそっと触った。
衣装の下で静かに眠る、熱い炎の鍵。
昼はみんなに笑顔を届けるAIアイドル。
夜は街の未来を守る煌戦隊キラリンジャー。
大変なことだらけで、これからもっと忙しくなるけれど。
この仲間となら、どんな二重生活だって全力で楽しんでみせる。
「歌って踊って、影で悪を討つ! 私たちの本当の伝説は、ここからだよ!」
夕焼けに染まる部屋に、五人の弾けるような笑顔と笑い声が満ちていた。
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【次回予告】
茜「二重生活も軌道に乗ってきた私たち! でも……次に待っていたのは、まさかの『学校での抜き打ちテスト』!?」
咲「嘘でしょ〜!? アイドルとヒーローの修行で、勉強なんて全っ然してないよ〜っ!」
葵「赤点取ったら補習で外出禁止=ヒーロー活動停止です」
桃「ええっ!? そんなの困りますぅぅ!」
翠「敵より恐ろしい試練が来やがったな……!」
茜「戦え、パステリズム! 赤点を回避して、ヒーローの日常を守り抜け!」
次回、煌戦隊★キラリンジャー 修行譚 第16話:
『赤点即即活動停止!? 試される学業とヒーローの絆!』
燃え上がれ、勇気の煌き★!




