第11話:降臨! セーラー服美少女戦士ステラセイヴァーズ!
奥で、甲高い金属音がずっとキーンと鳴っていた。
全身の骨がバラバラに砕けたんじゃないかと思うくらいの痛みが、遅れて脳を揺さぶる。
さっきまで私たちが立っていた野外ステージは、見る影もなく粉砕され、周囲のコンクリートはまるで巨大な怪物の足跡みたいに凹んでいた。
「あ……が……っ」
指先すら動かない。
口の中に広がるのは、生臭い血の味と、焦げたコンクリートの砂っぽさ。
泥と瓦礫の中に顔を伏せたまま、私は必死に横を見た。
数メートル先に倒れている咲の腕から、弱々しい黄色い火花がバチバシと散っている。変身スーツは完全に引きちぎられ、生身のジャージ姿に戻っていた。咲の顔は擦り傷だらけで、ぴくりとも動かない。
「咲……っ……咲……!」
声を出そうとしたのに、喉の奥が引きつって、ヒューヒューと擦れた空気が出るだけだった。
葵も、桃も、翠も……全員、瓦礫の中でピクリとも動かずに倒れている。
一撃だった。
たった一撃。男が右手をもやもやと払った、それだけで。
私たちが泥を啜って、正座で足を痺れさせながら、血の滲むような修行の末に掴み取った『新・変身』が、おもちゃみたいに叩き割られたのだ。
重い、重い足音が近づいてくる。
ザッ……ザッ……ザッ……。
コンクリートの破片を踏みつける靴音が、私の真上で止まった。
漆黒の外套を羽織った男――そいつの見下ろす瞳は、血みたいに深い、冷酷な赤だった。
「……脆いな」
男の声は、空気を揺らすんじゃなくて、脳みそを直接氷水につけられたみたいに冷たく響いた。
「下等な人間どもが絆とやらを騙ったところで、所詮はこの程度の光か。……失望したぞ」
男が、ゆっくりと腰を落とし、私の左腕へと手を伸ばしてくる。
そこには、赤く力なく点滅しているチェンジャーと、合致したはずの【炎】の属性キーが嵌っていた。
(ダメ……っ……これだけは……みんなと掴み取ったこれだけは……!)
奪われる。
私たちの『煌めき』が、全部踏みにじられる。
悔しくて、情けなくて、涙がボロボロと溢れて土を濡らした。だけど、私の身体は金縛りに遭ったみたいに動いてくれなかった。
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「やめ……ろ……っ」
遠くで、翠の途切れ途切れの声が聞こえた。
「茜から……手を……離しやがれ……っ……!」
翠が瓦礫に爪を立て、血の滲む指で身体を引きずろうとしている。でも、立ち上がるどころか、膝を立てることすらできない。
「うぅ……動かないよぉ……指一本……動かないよぉ……っ」
咲が泥に顔を押し付けたまま、子供みたいに声をしゃくりあげて泣いていた。
「属性キーが……奪われる……!?」
葵が歪んだメガネの隙間から、青ざめた瞳で男の手を見つめている。知性派の葵が、完全に絶望に打ちひしがれた顔をしていた。
男の冷たい指先が、私のチェンジャーに触れる。
冷気で、皮膚がキーンと凍りつきそうになる。
(嫌だ……っ! 嫌だぁぁぁぁっ!!)
心の中で叫んだ、その瞬間だった。
――ズドオォォォォンッ!!!!!
頭上から、空を叩き割るような純白の雷光が降り注いだ!
「ぬっ……!?」
男が顔を顰め、とっさに後ろへ跳躍する。
男が手を置いていたコンクリートの床が、眩しい光の奔流によって激しく爆発し、白煙が周囲を一瞬で包み込んだ。
煙の中から漂ってきたのは、焦げた匂いでも、異界の毒気でもない。
高潔で、凛とした、百合の花のような清冽な香り。
「弱き者の光を笑う者に……星の裁きを」
静かだが、戦場全体を震わせる透き通った声。
煙が風に流され、ゆっくりと晴れていく。
そこに立っていたのは――泥にまみれた私たちとは、まるで違う世界から舞い降りてきたような6つの影だった。
鮮やかなセーラー服を模した魔法の装束。
風になびく長い髪と、胸元で眩しく輝くブローチ。
その立ち姿一つ、佇まい一つに、一切の隙がない。
「あれは……」
桃が掠れた声で呟いた。
「その時……舞い降りたのは……魔法の光……!?」
「す……ステラセイヴァーズ……っ!」
翠が目を見開く。
そこにいたのは、私たちのプロデューサーであり、厳しく私たちを鍛え上げてくれた月城玲奈さん……ううん、セーラールナリアを筆頭とする、本物の『星の戦士』たちだった。
センターに立つセーラーウェヌリオン(愛咲美玲)が、気品に満ちた瞳で男を射抜く。
左右には、紅蓮の炎を纏うセーラーフレイム(火ノ宮紅葉)、疾風の雷を腕に宿すセーラーボルテックス(雷咲ひかり)、蒼い水流のバリアを巡らせるセーラーシヴァイアサン(美咲あき)、そして温かい太陽の光を背負うセーラーソル(天照陽菜)。
「遅くなりましたね、パステリズム」
一番前で銀色の剣を構えたセーラールナリアが、チラリと私たちへ視線を向けた。
その瞳は冷たい氷のようだったけれど、奥底に確かな温もりが宿っているのを、私は見逃さなかった。
「よく踏み止まりました。……ここからは、私たちの戦いです」
本物の、先輩たちの戦いが始まろうとしていた。
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「ハッ、セーラー服の小娘どもか。何体湧いて出ようと、害虫の数が増えただけに過ぎん!」
男が漆黒の外套を翻し、右手から不気味な紫色の波状攻撃を解き放つ!
さっき私を一撃で壁ごと吹き飛ばした、あの絶望的な空気の槌だ!
「来ます!」
セーラーシヴァイアサン(あき)が即座に分析の声を上げる。
「空間圧縮波! 直撃は避けてください!」
「避ける必要などないわ!」
前に出たのは、セーラーフレイム(紅葉)だった!
「烈火の結界……浄化の炎よ、悪しき波を焼き尽くせ!!」
紅葉さんが両手を広げると、地面から目も眩むような巨大な炎の壁が立ち上った!
ドガアァァァンッ! と激しい衝撃音が響き渡るが、あの圧縮波が、紅葉さんの炎の結界に触れた瞬間、ジュッと音を立てて消滅していく!
「な……なに……!?」
男が初めて、驚愕に眉をひそめた。
「アタシたちの前で、妹分たちを痛めつけてくれたな……!」
ボキボキと指を鳴らしながら、一瞬で距離を詰めたのはセーラーボルテックス(ひかり)だ!
「雷鳴連撃! 閃光のように駆け抜けろ!!」
速い! 目で追えない!
ひかりさんは稲妻そのものになって空間を跳び回り、男の四方八方から容赦のない打撃を叩き込んでいく!
ドカッ! バキッ! と激しい打撃音が響き、男が苦し紛れに振り下ろした拳を、ひかりさんは紙一重で身をかわしてカウンターの膝蹴りを叩き込んだ!
「くっ……おのれ……っ!」
「お返しですわ!」
セーラーウェヌリオン(美玲)が華麗に舞い、手にした杖から愛と美の光弾を連射する!
ドカン! ドカン! と男の胸元で光が炸裂し、男の漆黒の外套がボロボロに引き裂かれていく!
強い。
圧倒的だ。
泥の中で息を吐きながら、私はその光景から目が離せなかった。
私たちが手も足も出なかった怪物を、先輩たちは流れるような連携で追い詰めている。
無駄な動きが一つもない。お互いの動きを完璧に把握し、誰かが攻撃すれば、誰かが即座にカバーに入り、次の攻撃の起点を作る。
これが……本物の戦士。
これが、私たちが目指すべき『ステラセイヴァーズ』の姿なんだ……!
「すごい……っ」
咲が擦り切れた声で呟く。「格が……違いすぎるよ……っ」
「ですが……」葵が低く言った。その声は固かった。「あの男……まだ本気を出していません。体内のエネルギー波形が、不気味なほど安定しています……!」
葵の言葉通りだった。
攻撃を受け続け、瓦礫へ吹き飛ばされたはずの男が、ゆっくりと立ち上がった。
破れた外套の隙間から見えた胸元。
そこに埋め込まれた紫色の水晶が、ドクン、ドクンと、まるで不吉な心臓みたいに脈打ち始めたのだ。
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「くくく……ふはははははっ!」
男の口から、頭痛を誘発するような濁った笑い声が漏れ出した。
「素晴らしい……実に素晴らしいぞ、星の戦士ども! 泥の生ゴミどもとは違い、喰らい甲斐のある極上の光だ!」
男が両腕を広げると、胸の紫色の水晶から、どす黒い闇の波動が津波のように溢れ出した。
ズズズズズズズッ……!!
地面が激しく揺れ、周囲の空間がぐにゃりと歪む。
さっきまで私たちが戦っていたカゲノコたちの比じゃない。空の亀裂がさらに大きく広がり、そこから見たこともない巨大な闇の腕が、何本も現れて街のビルを掴み潰していった。
「くっ……! この圧力は……!?」
セーラーソル(陽菜)が太陽の光を強め、周囲を包み込もうとするが、闇の波動に押されて光が削られていく。
「全員、下がれ!!」
セーラールナリア(玲奈)が剣を前に構え、鋭く叫んだ。
「奴は異界の深淵から直接、エネルギーを引き込んでいます! これまでの敵とは根本的に規模が違う!」
「へっ……面白ぇじゃねぇか!」
ひかりさんが不敵に笑おうとしたが、その額には大量の汗が滲んでいた。
紅葉さんの炎も、男の放つ圧倒的な黒い冷気によって、勢いを削がれて小さくなっていく。
男の雰囲気が、ガラリと変わった。
ただそこに立っているだけで、周りの空気が腐敗していくような、絶対的な『悪』の存在感。
「見せてやろう……お前たちが守ろうとしたこの世界が、どれほど脆く、儚いものかをな!」
男が右手を高く掲げると、空の亀裂から無数の黒い槍が形成され、ステラセイヴァーズの6人へ向かって照準を合わせた。
「みんな、陣形を崩すな!」
ルナリアの声が響く。
だが、私には見えてしまった。
ルナリアさんの背中が、わずかに揺れているのを。
あの完璧で、冷徹で、どんな時も揺るがなかった玲奈さんが……本気で警戒し、冷や汗を流しているのを。
(そんな……っ……先輩たちでも……あの男には……!?)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛んだ。
世界が、本当の闇に呑み込まれようとしていた。
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激しい風と、紫色の毒気が戦場を吹き荒れる。
私は瓦礫の中で、必死に手を伸ばした。
指先が、すぐ隣に倒れている咲の手に触れる。
咲が、痛みに耐えながら、私の手を力強く握り返してくれた。
「茜……」
「うん……分かってる」
向こうでは、葵と桃と翠も、お互いの手をしっかりと繋ぎ合っていた。
変身は解けた。身体はボロボロで、立つことすらできない。
先輩たちの圧倒的な戦いを見せつけられて、自分たちの未熟さに吐き気がするほど打ちのめされた。
だけど――。
「絶望の淵で見た、絶対的な強さと美しさ……」
私は泥のついた顔を上げ、果敢に男へと立ち向かっていくステラセイヴァーズの背中を見つめた。
「私たちは……まだ諦めない!」
胸の奥で、小さく火が灯っていた。
泥の中から何度でも立ち上がってきた、私たちの泥臭い根性。
先輩たちが命を懸けて繋いでくれたこの時間を、無駄にしてまるか。
私の左腕で、冷え切っていたチェンジャーが、再び小さく、温かくトクンと脈打った。
戦いは、ここからさらに加速していく。
絶望の闇が、すべてを覆い尽くそうとしていた。
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【次回予告】
茜「ステラセイヴァーズの先輩たちが駆けつけてくれた! でも……敵の底知れない闇の力が、先輩たちすら呑み込もうとしている……!?」
咲「嘘でしょ……!? あの強すぎる先輩たちが……!」
葵「全滅の危機……! 私たちも、ステラセイヴァーズも……壊滅……!?」
桃「嫌……嫌だよぉぉっ!!」
翠「倒れてたまるか……立ち上がれ、キラリンジャー!!」
茜「絶望の果てに待つ大壊滅! だけど、私たちの命の火は消させない!」
次回、煌戦隊★キラリンジャー 修行譚 第12話:
『絶望の暗雲! 全滅のキラリンジャーとステラセイヴァーズ!』
燃え上がれ、勇気の煌き★!




