第10話:煌星市の危機! 迫る魔手と敵の正体!
「咲、今のステップ、もう半歩だけ右! 葵ちゃんとの間隔、つぶれちゃってるよ!」
「りょ、了解〜! 腕の引き込みも合体させるね!」
鏡張りのリハーサル室に、五人の足音がズシズシと響いていた。
床に滴り落ちる汗の粒。飛び散る呼気。
有明のライブ、極限の山合宿、生放送の失態、そしてあの数千体ものカゲノコ軍団との死闘……どん底のどん底から泥を啜るようにして這い上がってきた私たちは、今、ひとつの場所に立っていた。
煌星市・ベイエリア特設野外ステージ。
今日ここで、私たち『煌坂★パステリズム』の活動再開を告げる、本格的な復活ライブが開催される。
「ふぅ……ふぅ……!」
茜は大きく息を吐き出し、胸に手を当てた。
ジャージの胸元が、激しい鼓動に合わせて上下している。
左腕に巻かれたチェンジャーのコアで、あの【炎】のエンブレムが、まるで一緒に踊っているみたいにドクンドクンと温かく脈動していた。
「みんな、動きが完璧に揃ってきたね」
桃がタオルで額の汗を拭いながら、ふんわりと微笑んだ。
「公民館の時の手作り感も好きだったけど……こうやって大きいステージで、みんなと本気で踊れるの、すごく嬉しい……!」
「油断は禁物だぞ」
翠がスポーツドリンクのボトルをあおりながら、不敵にニヤリと笑う。
「客席は満員だ。ネットで噂を聞きつけてきた野次馬も混ざってるだろうが……全員、私たちのキレと煌めきで叩き潰してやるだけだろ」
「ええ」葵がメガネのブリッジをクイッと押し上げた。「ですが、気になるデータがあります」
葵がタブレットの画面を五人に見せてきた。
画面には、私たちが今いる煌星市の地図が表示されていて、その何箇所ものポイントに、禍々しい赤と紫の警告ランプが点滅している。
「これ……なに……?」咲が身を乗り出す。
「前回の新宿での大規模襲撃以降、煌星市の各地で局所的な『空間歪み』が多発しています。まるで、何かが次元の壁を裏側からノックしているかのような異常振動です」
「ライブ中に、またアイツらが来るってこと……?」
桃の表情が少し陰った。
「来たら来たで、蹴り飛ばすまでだ」
茜は左腕のチェンジャーを強く握りしめた。
「私たちはもう、守られるだけのAIアイドルじゃない。ライブも、観客も、この煌星市も……全部、私たちの手で守り切ってみせる!」
---
開演三十分前。舞台袖の控室。
外からは、すでに会場を埋め尽くした数千人の観客の熱気が、地鳴りのような歓声となって届いていた。
「パステリズム! パステリズム!」というコールが、壁を振動させている。
「うぅ〜……やっぱり本番前は緊張で胃が痛くなる〜……!」
咲が自分の腹を押さえてうずくまり、桃が「咲ちゃん、深呼吸だよ〜!」と背中をさすっている。
いつもの、愛おしい日常の一コマ。
そこへ、カツン、カツンと冷徹なヒール音が近づいてきた。
ドアが開き、月城玲奈姿が現れる。後ろには愛咲美玲、火ノ宮紅葉、雷咲ひかり、美咲あき、天照陽菜のステラプリズムの面々が揃っていた。
「準備はできているようですね」
玲奈の銀色の瞳が、五人を静かに見下ろす。
「玲奈さん……! 市内の空間歪みの件、葵から聞きました」
茜が一歩前へ出る。
「もしライブ中に敵が現れたら、私たちが――」
「ライブは、予定通り行いなさい」
玲奈は茜の言葉を遮るように言った。
「あなたたちの本来の使命は、ステージの上で人々に希望と煌めきを届けることです。敵が現れようと、観客の前で歌を途切れさせてはなりません。それがプロのAIアイドルであり、煌戦隊キラリンジャーです」
「はい……!」
「……行きなさい。あなたたちの新しい輝きを、見せて来なさい」
玲奈の一言に、五人は力強く頷き、ステージへの階段を駆け上っていった。
◇
五人が去った後の廊下。
玲奈はバインダーを閉じると、隣に立つあきに向かって短く命じた。
「あき。コマンドルームのシステムを、第一種戦闘配置へ移行。ステラセイヴァーズの変身準備を開始しなさい」
「……っ!?」
紅葉が目を丸くした。
「おい玲奈! あいつら、せっかく変身を取り戻して数千の軍団を撃破したんだぞ!? なんでまたアタシたちが出撃準備しなきゃならねぇんだ!」
「紅葉」
美玲が静かに紅葉の腕に触れた。その顔には、いつになくシリアスな色が浮かんでいる。
「……わかるでしょ? 今回の空間歪みの波動……これまでのカゲノコや怪人とは、桁が違う」
「今回の敵は、探りではありません」
あきが淡々とタブレットの数値を提示する。
「異界の最奥に潜む『真の主』……その存在自体が、次元を歪めてこちらへ干渉してきています。パステリズムの覚醒した5つの属性キーを、自ら奪いに来る気です」
ひかりが悔しそうに歯噛みした。
「せっかくあいつら、どん底から這い上がってきたってのに……!」
「彼女たちの強さは本物です」
玲奈は静かにコマンドルームへ向かって歩き出しながら、低く呟いた。
「ですが……世界の深淵に潜む『本当の悪意』は、理不尽なまでに強大です。彼女たちの覚醒を観察しつつ……もし彼女たちが砕け散りそうになった時、私たちが立ち塞がります。……ステラセイヴァーズ、出撃を急ぎなさい」
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『――輝け! 夢の光! 未来を照らす僕らの……煌めき!!』
爆発するような重低音と、色鮮やかなレーザー光線。
特設野外ステージのセンターで、私たちは全身で跳躍していた。
「煌星市のみんなーーっ! 会いたかったよーーーーっ!!」
咲のけたたましい叫びに、客席から地鳴りのような歓声が返ってくる。
ライトを浴びて、汗がキラキラとダイヤモンドみたいに飛び散る。
観客の手振るペンライトの海。赤、青、黄、ピンク、緑の五色の光が、客席いっぱいに揺れていた。
有明の時のアウェーな空気も、動画で笑われた時の悔しさも、全部今の熱気の中に溶けていく。
歌える。踊れる。仲間と一緒に、生きている証をここで叫ぶことができる!
「葵! 次のサビ、行くよ!」
「了解です! テンポそのまま、最高速で乗せます!」
葵の鋭い掛け声とともに、五人のステップが完璧な同調を見せる。
客席のお年寄りも、子供たちも、野次馬だったはずの人たちも、全員が拳を突き上げて叫んでいた。
だが――。
最高のサビに入ろうとした、その瞬間だった。
ガガガガガガッ……!!
空が、悲鳴を上げた。
澄み切っていた夕暮れの秋空が、まるでガラスにヒビが入るみたいに、目に見える形でバリバリと亀裂を生じさせたのだ。
マイクのスピーカーから、耳を刺すような激しいノイズが吹き出し、会場の照明が一斉に弾けて落ちる!
「きゃあああぁぁっ!?」
「なに!? 地震!? 空が裂けてる!?」
客席が瞬時にパニックへ包まれる。
歪んだ空の割れ目から、どす黒い紫色の毒気が、煙幕のようにステージへ降り注いできた。
その中から、ドサドサと音を立てて湧き出してくる、無数のカゲノコたち。
「来たね……!」
茜はマイクをステージに置くと、フロントへ一歩踏み出した。
「咲! 桃! 葵! 翠! 観客の避難誘導と、敵の迎撃! どちらも一秒も引かないよ!」
「言われなくてもさっ!」咲がジャージの袖を捲り上げる。
「みなさん、落ち着いて誘導灯の指示に従ってください!」葵が崩れるスピーカーの前に立ち、声を張り上げる。
「子供たち、こっちだよ! 大丈夫、私たちが守るから!」桃が身を挺して前列の家族連れを庇う。
「来いよ泥人形ども! ライブの邪魔すんじゃねぇ!」翠が木刀を構え、襲いかかる敵を殴り飛ばす!
観客が全員避難し、ステージ上に私たち五人と、群がるカゲノコだけが残された。
茜は左腕のチェンジャーを胸の前に掲げた。
【炎】のキーが、私の命の叫びに呼応して、カッと眩しい朱色の光を放つ。
「輝け、夢の光……! 私たちの本当の力、見せてやる!!」
「「「「「新・煌変!!!」」」」」
カチリッ!
五色の光の柱が、夕闇の迫る煌星市の空を貫いた!
スーツが瞬時に装着され、五人のヒーローが爆風の中で名乗りを上げる!
「炎の情熱! キラリンレッド!」
「水の知性! キラリンブルー!」
「雷の躍動! キラリンイエロー!」
「花の愛しさ! キラリンピンク!」
「風の疾風! キラリングリーン!」
「「「「「煌戦隊★キラリンジャー!!!」」」」」
襲いかかるカゲノコたちを、覚醒した武器が一閃ごとに打ち払っていく。
レッドの炎が敵を焼き、ブルーの水が陣形を裂き、イエローの雷が空を舞い、ピンクの花がバリアで防ぎ、グリーンの風が空間ごと切り刻む!
「ハハッ! どうだ! 私たちの連携は、もう前までの私たちじゃないんだよ!」
イエロー(咲)が空中で一回転し、無数の敵を蹴り倒す。
だが――。
カゲノコたちを全滅させたその瞬間、空の亀裂が、これまでにない巨大な音を立てて、さらに大きく叩き割られた。
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ドガアァァァァァァンッ!!!!!
爆発音ではない。
空間そのものが「圧殺」された音だった。
空の亀裂から降り注いだのは、光でも炎でもない。
圧倒的な『黒』だった。
ドスン、と音がした。
ステージの中央に、一人の男が舞い降りていた。
漆黒の外套を纏い、髪は銀色。
その胸元には、禍々しい紫色の水晶が埋め込まれており、そこから溢れ出す圧倒的な生体波動だけで、周囲のコンクリートの床がズズズ……と数十センチも沈み込んでいく。
「な……なに……この圧……!?」
レッド(茜)は、息が止まりそうになった。
体が動かない。
指一本、声一つ出すことすらできない。
変身スーツの防護フィールドが、男がそこに立っているだけで、ミシミシと悲鳴を上げて軋み始めていた。
「同調率……急降下……!?」
ブルー(葵)がバイザーの奥で青ざめた声を絞り出す。
「バカな……相手は何も攻撃していません! ただ……そこに存在しているだけで、私たちの精神波動が押し潰されている……!?」
男が、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、血のように深い、冷酷な紅。
「……ほう」
男の声が、鼓膜ではなく、脳の奥底へ直接響いてきた。
「これが、弱き人間どもが集まり、泥のぬるま湯で捏ね上げた『属性キー』か。……下等な光だ」
男が、右手を軽く、本当に払うように振った。
――それだけだった。
ドガアァァァァァァンッ!!!!!
閃光すら見えなかった。
一瞬にしてステージ全体が粉砕され、私たちは巨大な空気の槌で叩き潰されたように、数百メートル後方へ吹き飛ばされた!
「ギャァァァァァっ!?」
ビル壁に叩きつけられ、ガラガラと瓦礫の中に埋もれる五人。
バシバシッと激しいスパークが走り、変身が……強烈な衝撃によって、強制的に解除された。
「あ……が……っ」
茜は泥と血の混ざった地面に顔を伏せたまま、指一本動かせなかった。
全身の関節が外れたような激痛。
視界が赤く染まっていく。
強い。
強すぎる。
これまでの修行も、合宿も、仲間との絆も……すべてが子供のおままごとだったと思い知らされるような、絶望的な「本物の悪」。
男が、瓦礫の山へとゆっくり歩を進めてくる。
その足音が、死神の足音のように近づいてきていた。
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コマンドルームのモニターは、ノイズで激しく乱れていた。
「あ……茜ちゃんたちが……一撃で……!?」
美玲が両手で口を覆い、血の気を引かせた。
「バカな……変身スーツの防護フィールドを、生体波動だけで貫通したというのか!?」
あきの手が、キーボードの上で固まっている。
紅葉とひかりは、言葉を失ったまま画面を見つめていた。
数千の軍団を突破し、覚醒を果たしたはずのキラリンジャーが、指先一つで叩き潰されたのだ。
モニターに映る、血と泥に塗れて動けない茜たち五人の姿。
そして、彼女たちの左腕にある属性キーを奪おうと、死神のように歩み寄る漆黒の男。
「……そこまでです」
静かな声が、凍りついたコマンドルームに響いた。
月城玲奈が、胸元から自分の変身アイテムを取り出していた。
「あの子たちは、自分たちの限界まで戦いました。……ここからは、私たちの戦いです」
玲奈の言葉に、美玲が、紅葉が、ひかりが、あきが、陽菜が、力強く頷いた。
「セーラー服美少女戦士……ステラセイヴァーズ。出撃完了」
玲奈の銀色の瞳が、画面の向こうの『真の敵』を見据え、静かに燃え上がっていた。
「彼女たちの煌めきを……砕かせはしません」
瓦礫の中で薄れゆく茜の意識の向こうで、静かな嵐が、今まさに起ころうとしていた。
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【次回予告】
茜「圧倒的な強さの前に、一撃で倒されてしまった私たち……」
咲「動けないよ……指一本……動かないよぉ……」
葵「属性キーが……奪われる……!?」
桃「その時……舞い降りたのは……魔法の光……!?」
翠「ステラセイヴァーズ……! 本物の先輩たちの戦いが、始まる……!」
茜「絶望の淵で見た、絶対的な強さと美しさ。私たちは……まだ諦めない!」
次回、煌戦隊★キラリンジャー 修行譚 第11話:
『降臨! セーラー服美少女戦士ステラセイヴァーズ!』
燃え上がれ、勇気の煌き★!




