カンナミ森
全て私の妄想の話です
闇王がソファに腰を下ろすと、そのふかふかさに驚いた。
こんな柔らかい椅子に座ったことがなかったからだ。
少し腰を浮かせては座り直し、その感触を何度も確かめる。
ふかふか加減を堪能していると――
「コホンッ」
ギルド長が咳払いをした。
闇王は名残惜しそうに動きを止めた。
「私はこのギルドを治めるギーファといいます」
「私はサーシャだ」
「そうですか」
ギーファは穏やかに笑った。
そして、ずり落ちた眼鏡を指で押し上げる。
「そろそろ本題に入りましょうか」
そう言った瞬間、部屋の空気がわずかに張り詰めたのを闇王は感じた。
「サーシャさん。あなたは一体何者なのですか? 見た目は七歳ほどですが、その体には不釣り合いな大剣を持っています。ただ者ではありませんよね。それに書類には三歳と書かれていましたが、本当ですか?」
「本当なのだ」
「ほ、本当なんですね!?」
ギーファは耳を疑った。
見た目は七歳ほどに見える。どう見ても三歳の体格ではなかった。
落ち着こうと再び眼鏡のブリッジに触れる。
「では、なぜ三歳のあなたが旅をしているのですか?」
闇王は、お使え様のことを話した。
「お使え様ですか!?」
ギーファは目を見開いて驚いた。
そして同時に、サーシャの潜在能力が異常に高い理由にも納得した。
「話は変わりますが、SSSランクのサーシャさんにお願いがあります」
「!?」
なんだか面倒なことになりそうだ、と闇王は思った。
「カンナミ森の奥地には黒曜石が採れる鉱山があります。その道中にいる魔物を討伐していただきたいのです。もちろん報酬も弾みますよ」
そう言うとギーファは、ジャラッと音を立てながら大きな袋を二つテーブルに置いた。
「ここには3000リタずつ入っています。前金としてお渡ししましょう。食費や宿代も大変でしょうから」
お願いしますね。
そう微笑むギーファから、闇王は妙な圧力を感じた。
確かに闇王は小柄だったが、食欲だけは人並み外れていた。
昨日の夜のことだ。
「お食事は酒場でお願いします」
ウェートレス姿のラナが言った。
「お客様はとても食欲旺盛ですので」
笑顔だったが、目だけは笑っていなかった。
闇王はそれを感じ取り、素直に酒場へ向かった。
扉を開く。
カランコロン――
鈴の音が響いた。
店内にはカウンター席とテーブル席が並び、多くの客がジョッキを片手に楽しそうに騒いでいる。
闇王は空いている席へ座った。
するとウェートレスがやって来た。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
闇王はメニューを開く。
「食べ物を全部とミルク」
「全部ですか!?」
「全部食べられるぞ」
ウェートレスは大きくため息をついた。
「……かしこまりました」
しばらくすると、大量の料理が運ばれてきた。
山盛りの焼き飯。
巨大な骨付き肉。
皿いっぱいの唐揚げ。
闇王は勢いよく食べ始めた。
ガツガツと料理を平らげていく。
あっという間にテーブルの上は空になった。
最後にミルクを飲み干し、満足そうに息を吐く。
その様子を見ていたウェートレスは呆然としていた。
そして会計。
「1200リタになります」
闇王はよく食べる。
つまりお金がかかる。
そのことを思い出し、ギーファの依頼を断れなかった。
「わかった。やる!」
こうして闇王はカンナミ森へ向かった。
森の奥へ進むにつれ、周囲は薄暗くなっていく。
するとすぐに魔物が現れた。
緑色の肌。
尖った耳。
ボロボロの布を巻き、棍棒を持っている。
魔物図鑑によればランクFのゴブリンだ。
「か弱そうだ」
闇王は駆け出した。
グレートソードをぶんぶん振り回す。
斬られたゴブリンたちは光となって消えていく。
しかし倒しても倒しても現れる。
さすがの闇王も少し呆れた。
それでも剣を振りながら進み続ける。
やがて森が明るくなった。
その先にはゴブリンの村が広がっていた。
鎧を着たゴブリン。
弓を持つゴブリン。
槍を持つゴブリン。
剣を持つゴブリン。
だが、どんな武器を持っていても関係なかった。
飛んでくる矢を避け、槍兵と剣兵を斬り伏せる。
そのまま弓兵にも接近し、一掃した。
村の中心へ辿り着く。
すると巨大なゴブリンが現れた。
筋骨隆々の体。
王冠。
黒いマント。
巨大な大剣。
魔物図鑑によればランクDのゴブリンキングだ。
振り下ろされた大剣を跳躍して回避する。
そのまま頭上から一刀両断。
着地すると同時に、背後でゴブリンキングが光となって消えた。
闇王は再び走り出した。
しばらくすると――
ドスン、ドスン。
遠くから地響きが聞こえてくる。
その音は徐々に近づいてきた。
同時に大量のオークキングが現れる。
闇王は攻撃をかわしながら次々と斬り倒していく。
そして地響きの主が姿を現した。
「ランクBの巨人だ!」
その大きさは家四軒分以上。
しかも二体いた。
巨人が巨大な手を叩きつける。
闇王は素早く回避した。
「スピードはキングスライムの方が上だな」
巨人たちは地面を滅茶苦茶に叩き続ける。
闇王は片方の腕によじ登った。
腕が振り上げられた瞬間に跳躍する。
そして頭部を一閃。
首から上が吹き飛んだ。
さらに光が消える前にもう一体へ飛び移り、同じように斬り倒した。
だが――
バキッ。
グレートソードにひびが入った。
「もろいのだ!」
まだ鉱山には着いていない。
闇王は再び走る。
途中で現れるオーガキングの群れも蹴散らした。
やがて鉱山の門が見えてくる。
その時――
金色のローブをまとい、王冠を被った巨大なオーガが現れた。
手には黄金の杖。
魔物図鑑によればランクBのグレートキングオーガ。
「ファズン!」
「ん?」
何も起きない。
闇王は首を傾げた。
「ファズン! ファズン! ファズン!」
グレートキングオーガは焦っているようだった。
だが闇王には通じない。
そのまま近づき、一撃で倒した。
こうして鉱山へ到着し、依頼は達成された。
ギルドへ戻ると、ギーファが待っていた。
「残りの報酬400ラダです」
金貨の入った袋を渡される。
「あの巨人が厄介だったのだ」
「グレートキングオーガも現れたのだ」
「グレートキングオーガですって!?」
ギーファは目を見開いた。
「ずっと『ファズン』と唱えていた」
「グレートキングオーガの出現は初耳ですね。よく無事に帰ってこられました。ファズンは即死魔法ですよ。これもお仕え様の加護なのでしょうね」
ギーファは納得したようにうなずいた。
隣にいたリアはただ驚くばかりだった。
「ランクBを三体も討伐してくださったのですね。追加で二百ラダお渡ししましょう。それと剣も新調した方が良さそうです。鍛冶屋のヴァッハさんに頼むのが一番でしょう」
「そうなのか。すぐ行ってくるのだ」
闇王は報酬を受け取り、腰へ下げた。
そして鍛冶屋へ向かう。
「おう、嬢ちゃん。どうした?」
「グレートソードにひびが入ったのだ」
「無茶な戦い方をしたな。今の剣じゃ嬢ちゃんの戦い方に耐えられなかったんだろう」
「新しいのを作ってほしい」
「鉱山開通は嬢ちゃんのおかげらしいな。なら俺が作らせてもらおう。黒曜石製の魔導グレートソードだ」
「魔導ってことは魔法が使えるのか?」
「いや。物理攻撃が効かない相手にも通用する程度だ」
ヴァッハはガハハハと笑った
「三日後に来てくれ」
その三日間、闇王は宿屋と酒場を行き来しながらのんびり過ごした。
そして三日後――
カンカンカン。
鍛冶場から聞こえる槌の音。
「ヴァッハ、できたか?」
「もちろんだ」
そこには漆黒のグレートソードが立てかけられていた。
鍔には水色の水晶が埋め込まれている。
「そうだ。さっきギルド長が呼んでたぞ」
今度は何なのだろう




