初めての依頼
全て私の妄想の話です
草原を抜けると、すぐに街の姿が見えた。その背後には高くそびえる山脈が連なり、山頂は白く、雪を頂いているように輝いていた。
地図によれば、この街の名はガイアスマス、そして山はヴァロック山脈というらしい。
街は想像以上に大きく、頑丈な城壁でぐるりと囲まれており、外から中の様子はうかがえなかった。大きな門をくぐった瞬間、世界は一変する。
地面は土ではなく石畳に整えられ、道の両側には花で飾られた家々が並んでいた。屋根の間にはロープが張り巡らされ、その上では赤や黄色の三角旗が風に揺れている。色彩に満ちた光景だった。
「ほお……」
思わず声が漏れる。闇王――サーシャは、これまで見たことのない景色に目を奪われていた。
門の近くでは、屋台から香ばしい匂いが漂ってくる。焼き串の店だ。
「一つくれ」
「お嬢ちゃん、その剣よく持てるなぁ!」
店主が目を丸くするが、闇王は淡々と答えた。
「軽いぞ」
「なんだ、おもちゃか」
店主は半ば呆れながら串焼きを手渡す。闇王は銅貨を差し出し、それを受け取った。
歩きながら肉にかぶりつくと、甘みと香ばしさが口いっぱいに広がる。自然と足取りが軽くなった。
街を進むうちに、闇王は気づく。この街ではテントではなく、建物の中に店がある。看板が掲げられ、人々が絶えず出入りしていた。活気に満ちている。
やがて広場のような場所に出たところで、
カンカンカン――
金属を打つ音が響いた。
気にはなったが、今は先を急ぐべきだ。そう判断して歩を進める。
だが街の出口には兵士が二人立ち、道を塞いでいた。
「そこをどけ」
「お嬢ちゃん、今は山の上にバレッドドラゴンがいる。通すことはできない。それに魔物も出る。危険だ」
山を越えなければ、目的地のリダ王国には辿り着けない。
「いつになれば通れる?」
「春まで待て」
闇王は一度引き返し、再び広場へ戻った。
カンカンカン――
まだ音がしている。今度は好奇心に負け、音のする方へ向かう。
広場の東側、大きな炉の前で、低い背の男が真っ赤に焼けた鋼をハンマーで打ち続けていた。
「何をしているんだ?」
「見りゃわかるだろう。剣を作ってるんだよ」
男は笑いながら答える。
「これが剣になるのか?」
「鍛冶を知らんのか?」
闇王が首を振ると、男は納得したように頷いた。
「俺はドワーフのヴァッハだ。嬢ちゃん、名前は?」
「サーシャ」
ヴァッハは顎髭を撫でながら続ける。
「冒険者ギルドに行け。仕事を受けるならまず登録だ。宿はその先だ」
闇王は短く礼を言い、その場を後にした。
やがて街の中心部に戻ると、左右に店が並び、看板が林のように連なっていた。冒険者ギルド、防具屋、宿屋、酒場――活気ある区画だ。
ギルドの建物は、三つの鉱石が融合したような奇妙な形をしていた。
「入ってみるか」
扉を押し開けると、中は多くの冒険者で賑わっていた。鎧を着た者たちが談笑し、掲示板には依頼書がびっしりと貼られている。
闇王は受付へ向かう。
「冒険者登録はどこだ?」
「迷子かな?」
受付の女性は軽く笑ったが、闇王は首を振った。
やがて手続きを終え、首からFランクのプレートを下げる。
「最初は皆Fランクよ。まずは薬草採取からね」
ギルドを出る頃には日が傾いていた。
闇王は道具屋で薬草辞典を買った。そして腰につけた。
その後宿屋に行った。宿屋は赤い屋根に薄緑と白の市松模様。
宿屋に泊まったそして翌朝。
カンナミ森へ向かった。
森は朝日に照らされ、きらきらと輝いていた。薬草は至る所に生えており、採取は順調に進む。
だが昼過ぎ――
「逃げろ!オークキングの群れだ!」
血まみれの冒険者が駆け込んでくる。
「まだ終わっていないのだ」
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
その直後、緑の巨体――オークキングが姿を現した。
「フェルディヴァン!」
白い炎が放たれる。
「薬草が燃えるではないか!」
闇王を斬り払い、オークキングへと一直線に突進する。
一撃。
巨体は崩れ落ちた。
続けて現れる敵も、次々と斬り伏せていく。気づけば一時間後、森は静寂を取り戻していた。
「もう来ないな」
闇王は何事もなかったかのように薬草採取へ戻る。
やがてギルドへ戻ると、すでに噂は広まっていた。
「オークキングの群れを一撃で?」
「ありえねぇだろ……」
受付嬢リアは驚愕しながら水晶を差し出す。
「これに触れて」
闇王が手を置くと、水晶は強く光り輝いた。
浮かび上がる文字――
「SSS」
「賢者様のお子様なの!?ドラゴン級以上って……」
慌てたリアは奥へと駆け込んでいく。
やがて奥の扉が開き、闇王はギルド長の部屋へと通された。
ソファの向こうには、髪を乱した男がじっとこちらを見ていた。




